ソルトウォーター・フライフィッシング (ソルトフライ・海フライ)について
日本の国土の70%は多くの川が流れる山岳地帯となっており、川や湖におけるトラウトをターゲットとしたフライフィッシングが盛んになっているのは自然な姿ですが、同時に日本は南北2,000kmに伸びる列島として、果てしない海岸線や汽水域が広がっています。北は海へ降りたアメマスやサクラマス、南にはGTの仲間やボーンフィッシュまで、ヨーロッパはもちろんアメリカにも決して引けを取らないだけの豊富な種類のターゲットをフライフィッシングで狙うことができます。
小型のトラウトと同じタックルが使えるウルトラライトゲームから、ライトゲームの基本である「ストリーマーフィッシング」と「サイトフィッシング」、そこからフィールド特性やゲーム性を求めたスペシャルゲームの果てにはヘビータックルを使う「ビッグゲーム」まであります。
実は海で毛鉤を使ってきた歴史の長い日本
フライタックルだけを見るとまるで新しいフィッシングスタイルのように見えますが、日本は実はソルトフライ=海毛鉤の伝統の長い国の一つ。沖合でカツオを狙うカブラやアジ・サバを狙うサビキ、さらには船釣りの胴付き仕掛けで使うニワトリの羽根を巻いた毛鉤などなど・・・。中世から漁具として使われてきたこともあり、これらの仕掛けは海外へも輸出されて「フェザーフィッシング」と呼ばれています。中世から日本人にとってソルトフライは身近なものであって、学ぶべきヒントはすでに持っていたということになります。
簡単に始められるウルトラライトタックル
最も簡単に始められるソルトフライの入門魚としては、トラウトフィッシングと同じシングルハンド4-6番タックルとフローティングラインがそのまま使えて、投げづらさの少ない小型のフライを使い、エリアフィッシングのように足場の良い漁港や湾奥で狙える「アジ」や「メバル」「セイゴ」(スズキやヒラスズキ幼魚)「チンタ」(クロダイやキビレ幼魚)「ハゼ」などを狙うウルトラライトタックルです。魚種を選ばなければ、ある程度フライのサイズをマッチさせることでファジーなパターンで何でも釣ることができます。
最も日本的なトラウトフィッシングと親和性が高いのがメバルゲーム。夜行性なのでナイトゲームとなりますが、ビーズヘッドニンフを甲殻類っぽく見えるカラーやサイズにアレンジしたものを使い、ストリーマー的な釣り方でも、ウェット的な釣り方でもルースニングを含むニンフィング的な釣り方でも狙うことができます。
トラウトの「ライト引っ張り」の釣りの応用で狙いやすいのがマアジやメアジなどのフライで行うアジング。ナイトゲームではレンジが浅いのでフローティングラインまたはインターミディエイト。デイゲームではレンジを探してインターミディエイトやS3までのシンキングラインを使います。これも小型のマラブーやレザー系フライで釣ることができます。
太平洋側で晩夏から秋にかけて、今や南東北から沖縄までお馴染みの「メッキ」ことギンガメアジはストリーマーフィッシングのエントリーとなるターゲットです。主に回遊してくる群れをデイゲームで狙いますので、広い漁港やサーフ、河口などで伸び伸びとキャスティングを楽しみながら、細身のストリーマーをストリッピングして連発することも可能です。
また、リーフがらみではストラクチャーに隠れていることも多く、ストラクチャーフィッシングの基本にもいいターゲットです。
「動」の世界: ストリーマーフィッシング
ソルトウォーター・フライフィッシングの「動」の花形といえばストリーマーフィッシング。ターゲットのポイントやレンジを見定めて、必要なだけのフライラインをキャストして、プレゼンテーションを駆使してヒットさせてからハードファイトを楽しむ・・・。
それがトップウォーターで完結するシーバスの場合はアドレナリン全開で頭の中のモヤモヤが吹っ飛ぶほどです。
回遊するフィッシュイーターを狙うところは湖岸での待ち伏せや本流での遡上魚狙いと通じるものも多く、プレデター(肉食魚)ハンティングの道にはまってトラウトフィッシングへ戻ってこない人もいるほどです。
ストラクチャーへ定位することが多いシーバスことマルスズキと比較すると回遊性が強いヒラスズキもストリーマーフィッシングの好敵手です。
回遊なのかストラクチャーなのか。ギンガメアジとシーバスのいいとこ取りで忍者のようなロウニンアジはストリーマーフィッシングの極みと言ってもいいでしょう。
さらに「青物」と呼ばれるブリの仲間やサバなどは、ロングキャストの直後から全速力でストリッピングして誘うフライフィッシングとなり、ヒットした後の凶暴なファイトに魅了されるアングラーもたくさんいます。
「静」の世界: サイトフィッシング
川や湖でのライズ撃ちに通じる、やる気のある個体へ狙いを定めて、甲殻類のイミテーション・フライへワンアクションさせて気づかせてから自然に咥えさせるサイトフィッシングは「静」の王道です。海の虫パターンと呼んでもいいくらい、ドライフライやウェットフライの釣りに通じる要素があります。
必ずしも魚体そのものを目印にする100%目視のサイトフィッシングだけでなく、ライズに相当する「テイリング」やもじりと同じ「ナーバスウォーター」を読んで、必要な距離のフライラインをキャストするだけでなく、テーパーや着水まで気を使ってナーバスなクロダイを狙うサイトフィッシングはシーバスと並ぶ日本のソルトフライの代表的なゲームとなりました。
まだ国内ではあと一歩で成立していませんが、日本にも生息するボーンフィッシュの仲間はサイトフィッシングの極み!ハワイなど常に強い風が吹くフィールドでは、世界レベルのアングラーたちが腕試しで良いサイズを仕留めています。
近所に海が無いアングラーでも、日頃コイを相手にするサイトフィッシングで練習を積むことで、アプローチやプレゼンテーションの基本を身につけることができます。
パワーウェットの終着点?汽水の本流でリバーフィッシング
トラウトフィッシングの世界でもソルトフライの対象魚として有名なのは「海アメ」こと海へ降りたアメマスですが、海岸でタフな釣りばかりせずとも、汽水域にウロウロしている居残りも一定数いますので、潮の高さに応じて河口から汽水域の最上流まで、甲殻類を意識したパターンを使ってストリッピングやスイングで狙うことができます。
北海道のように海から遡上してくるトラウトを狙わずともシーバスやヒラスズキは汽水域となっている川の下流部まで遡上してくるため、トラウトやサーモンを狙うパワーウェットの釣りと全く同じタックルやシステムで狙うことができます。
さらにはマルタウグイなどウグイの仲間も上潮と共に汽水域へヨコエビなどの甲殻類や上流から流されてくる昆虫などを狙って遡上してきますので、法律上の制限でサーモンフィッシングが欠落している日本では貴重な練習相手になりえます。
バスフィッシングの延長線?汽水域でのストラクチャーフィッシング
南国では汽水域にマングローブの密林が発展している場所が多く、それらのストラクチャーは小魚や甲殻類などの生命のゆりかごとなっているだけでなく、それらを狙うフィッシュイーターたちが活発に捕食するエキサイティングなフィールドになっています。
アプローチにはウェーディングやカヤックを使いますが、正確にストラクチャーへフライを撃ち込んでヒットさせた後のファイトには病みつきになる人続出です。
リーフ
リーフとは南国の珊瑚礁だけではなく、本州・四国・九州・北海道の岩礁地帯も複雑な水中に隠れ場所を求めて様々な魚たちの生命のゆりかごになっています。特に手軽なのは南国のインナーリーフ。水深も1.5m未満なので潮干狩りの感覚でフライフィッシングを楽しめるのが魅力です。
アウターリーフとの境界をリーフエッジと呼びますが、リーフエッジから満ち潮と一緒に入ってくる肉食魚たち・・・GTやバラクーダ、リーフシャークなどはシングハンド8番タックルではパワー負けすることも多く、これに対応する場合は最低でもシングルハンド10番タックル、専門に狙う場合はリーフエッジを12番タックルで待ち伏せするゲームもあります。
フラット
河口に砂や泥が堆積したり、海流で砂やサンゴのかけらが堆くなったりしてできた、干潮時には水面へ露出してしまう浅瀬のことです。陸続きになっている場所やカヤックなど移動手段が必要な場合があります。
膝下くらいの水深が安全かつ魚を見つけやすいので、魚の気配を濃厚に感じながらサイトフィッシングが楽しめるのがフラットの最大の魅力です。
サーフ
足場を考えながら迫る波の上へループを飛ばして狙った魚を仕留める豪快さが楽しいサーフのフライフィッシング。点在するストラクチャーを狙うこともあれば、回遊魚を追いかけながらロングキャストで狙い撃つ時は一種のスナイパー気分も味わえます。
かなり体力を消耗する釣りですが、1匹釣れた時の感動はひとしお!
インショアボートフィッシング
バスフィッシングのボートゲームを海へ展開したようなワイルドさがたまらない、フライフィッシングで行うインショア・ボートフィッシング。疾走するボートと一緒に風となり、ボートキャプテンのサポートを受けながら狙ったターゲットを仕留める姿は、サファリハンティングを彷彿とさせます。ソルトフライにも存在するドライフライ「イワイミノー」を使ったトップウォーター・ゲームは興奮度MAXです。
主にデイゲームとナイトゲームに分かれますが、揺れる足場でも安定して15-20mキャストが要求されるため、フライフィッシング中級〜上級向けゲームとなります。
オフショアボートフィッシング(ブルーウォーターフライフィッシング)
真夏から秋にかけて港から漁船で外洋へ出て行うオフショアのフライフィッシング。大海原を駆け巡り、カジキやマグロ、シイラなどのメートルオーバーのターゲットを狙う、フライフィッシング界のビッグゲームです。遮るもののない外洋を生き抜く魚たちのパワーはものすごく、フライリールからバッキングラインを100m出すのも朝飯前!
移動時間もフィッシング時間も長くなることや、酔い止め対策も必須となるため、インショア・フライフィッシングのスキルに加えて、ボートライフの慣れも必要となります。
15kgを優に超えるクラスのマグロ属の魚が相手となると、フライタックルやフライリールが故障することも!
歯が鋭いイソマグロなどは60lbのバイトティペットをファーストランで切ってしまうこともあります。
まとめと続き
必ずしもソルトウォーター・フィッシングをフライを使った釣りで行う必要はありませんが、ウェットフライはもちろん、ベイトフィッシュや甲殻類を模したストリーマーのターゲットも多く、トラウト以上のナーバスさでサイトフィッシングを楽しめる魚種やフィールドも多いことから、フライフィッシングを究めていく中で通らずにはいられない道であるといっても過言ではありません。
ソルトウォーターは塩水にタックルが浸かるため、釣行の後には最低限のメンテナンスが必要ですが、決して大変な作業ではありません。近日、タックルの手入れ方法を紹介します。