フライフィッシングにおけるステルス性

2024/10/09サイトフィッシング,フライパターン,フライ選び

重量のあるフライラインを必要な距離キャストしてフライを着水させてからプレゼンテーションを進めていくフライフィッシング。理想はフライだけがプレッシャーがかかっていない状態の魚へアピールすることですが、実際はそうなっていないことが多く、要所要所にステルス性が足りないことで余計な「ノイズ」を発生させ、自ら釣りづらくしていることが多いのが現実です。

TFFCCには川・湖・海の垣根を超えたサイトフィッシング愛好家が多いこともあり、オカッパリ・ウェーディング・ボート全てのシーンで成功・失敗体験が豊富にありますので、参考になることを願って記事にまとめました。新事実や新製品に合わせて都度更新します。

リフューズ・アラート・スプークの違い

大胆なのにスプークしやすい浅瀬のクロダイたち

リフューズ・・・拒否

警戒されずにフライに接近するけどUターンしてしまうか、無視して泳ぎ去る状態がリフューズです。これはフライ選択やプレゼンテーションを修正することで釣る・釣り続けることができます。

アラート・・・警戒

無用な影や音を発生させたり、不自然な動きを繰り返して魚がナーバスになる状態、これがアラートです。いわゆる「プレッシャー」がかかった状態となるため、素直な捕食が出づらくなりアラート解除するために手を変え品を変えることになります。

スプーク・・・逃走

危険を感じて魚が逃げ去る状態、これがスプークです。こうなると個別の魚が釣れなくなるだけでなく、近くにいる群れ全体がスプークしたり、アラート状態に入ってしまい、良くてリフューズ多発、悪くてスプークしやすい状態になってしまいます。

アラートやスプークをいかに低減するか、アラート状態の魚の警戒心をどうやってリセットするか、それがステルス対策の課題となります。

フライの着水とポジション、ピックアップ

プレゼンテーションの際にフライをどう着水させてポジションさせるのか?ドライフライの場合はフライが着水する直前の空中のアクションもプレゼンテーションの一部となる場合があり、この最重要ステップを怠るとどれだけ上手にストーキングして間合いを詰めても魚からのリフューズやアラートを発生させます。

スピナーフォールの場合を例にとると、キャストしたフライをそのまま水面へピシャッとつけてフライ以外の怪しい存在を自らアピールするよりも、一旦空中でターンオーバーさせてからポトっと落とす「パラシュートドロップ」の方がフライへ気づくチャンスも増え、アラート&スプークの低減にもなります。CDCパターンが広まった理由でもあります。

魚との距離を空けたポジションでも木屑や葉っぱの落下と勘違いされれば、しばらくは同様な流れ方のフライ全てが「ゴミ判定」されてリフューズされることになります。フライのイミテーション性や生命感を意識した着水が重要な場面です。

また、激しい着水が魚のすぐ近くを直撃すればスプークしてしまうことはもちろん、流れに対して不自然なポジションにあるフライが動き出すとアラート&スプークの原因となりますので、魚のポジションから逆算してフライを着水させることが大事です。

フライのピックアップで発生する「ポコン」。これは他の魚が捕食を始めたポップ音と認識されて活性が上がることもありますが、水面が静かでナーバスな場面ではアラートさせてしまうことも多く、その場合は水切れの良いフライを使い、ピックアップを丁寧に行う必要があります。

水面を無用に引きずって波動を起こすと「鳥や蛇」といった天敵と誤認されてスプークに繋がりますので、丁寧なピックアップはフライ以外の余計な存在を消す重要な段取りとなります。フライの自重を必要ギリギリまで絞り込んだり、水切れの良いマテリアルを使うなど、フライ自体の改善も大きく影響します。

つまらないほど単純だけど、着水もピックアップも静かなユスリカのライズ対策フライ「ハックルミッジ」

ティペット&リーダーの「水面ノイズ」「水中ノイズ」

ティペット&リーダーを水面に浮かべておくか、水中に入れてしまうかでも求めらるステルス性能は大きく変わってきます。

水面の場合はフライ以外の余計な要素(結び目やインジケーター、半沈みのティペットなど)が魚の視界に入ってしまうと、せっかく浮いてきた魚がリフューズする原因になります。太陽光線が当たるティペット&リーダーは赤外線や紫外線を乱反射させるため、魚と太陽の位置関係によっては「怪しいノイズ」となってしまいます。

ティペット部分を水中へ入れて軽減させることで回避できますが、メンディングなどで水面にティペットを置いておく必要がある場合は、上方向を見ている魚とティペットの位置関係のため太陽光線の影響は避けられない上に、ドライフライの場合はピックアップの静寂性も下がるため、太陽光線の影響を抑えたステルス性能が高いティペットやリーダーを使うことでステルス性を改善できます。

ティペット&リーダーが水中に入っている場合は、素材の透明度が十分であればどんなに太い糸でも魚から見えることはありませんが、直径の太い糸がピンと張っている状態は糸電話と同じく振動を発生させやすくなり、暗闇でも障害物を避けて泳ぐために備わっている側線にラインが発生させる「波動ノイズ」が拾われてアラートやスプークにつながります。水中でフライに近いティペットの部分はしなやかな素材を使う方がノイズが出づらくなります。

ナイロン性でしなやかさと強度に優れたティペット。水中へ入れる場合は、フライから近い部分のみワックスやタングステン粘土オモリを塗って比重を高くして沈めます。

初めから水中へティペット入れるウェット&ストリーマーの場合、比重が高いフロロカーボンの中でもしなやかなものほど余計な波動が出づらいのでステルス性が高くなります。

フライラインの影とターンオーバー着水・ピックアップ

キャスティングのために重量がつけてあるフライラインは空中にある時に、魚と太陽の位置関係によって「移動する影」を水中へ落とします。この状態は魚の天敵である「鳥」と認識されるため、一発スプークになることが非常に多くなります。

また木の枝の落水が多い川の場合はそこまで気を遣う必要がありませんが、湖やフラットな水面の海などの場合、フライラインの着水で起きる波動ノイズは影響が大きく、ここをいかにうまくコントロールするかでチャンスの増減に直接影響してきます。

ラインスピードが速いままでターンオーバーして水面へタッチダウンすれば、それだけ着水エネルギーが大きくなるので、フロントテーパーが長く設計されているフライラインまたはスローテーパーに設計されているリーダーを使うことで、ターンオーバーの半径をワイドに広げて減速させるのが効果的です。

また、常にカレント(流れ)が存在する川は当然のことですが、湖や海でもできる限りフライラインの着水点を狙う点より上流側に持っていく「オフセット」処理をすることで、アラートやスプークを低減することができます。

無用に飛距離を求めるよりも、フライまでがきちんとターンオーバーすることで、仮にフライラインで叩いた場所だけノイズを発生させたとしてもフライへの影響を減らすことができます。

透明フライラインかつテーパー設計が着水・ピックアップまで考慮して作られているフライラインはこの点で強力な武器となります。

フライロッドの影と太陽光の反射

キャスト中のフライラインが影を落とすことと同じく、フライロッドも背中に太陽を背負っている状態では水面へ影を落とします。たまに見られるシーンでは、太陽の角度が低い朝一番にポイントへ入り、ライズやテイリングが起きていることを確認してから接近する際に、水面へ影が落ちた瞬間にライズや低リングが止む・・・。反対に夕方ポイントに入り、同じく影が横切ったために群れがスプーク・・・これも気をつけたい点です。

残念ながら現時点では完全透明のフライロッド用ブランクが製造されていないため、半透明のグラスファイバー・ブランクがベストな選択です。これでも影を無くすことはできませんので、魚の位置と太陽の位置を確かめながら、立ち位置を調整して魚の上へ影を落とさないように注意します。

また、プレゼンテーション中のフライロッドで気をつける必要があるのは太陽光の反射。キャスト時には意識できても、プレゼンテーション中にロッドの角度が変わっていくため、ロッド表面のコーティングが強く光を反射すると気づいた魚がスプークしてしまいます。魚との距離を十分にとっている場合はあまり気にする必要はありませんが、魚に近接したショートライン・ニンフィングや上流側から魚の視界に入ることが多いウェットフライの場合はここをケアすることでかなり効果があります。

マット塗装のブランクは効果的で、シビアな状況で数を競う世界選手権のアングラーたちはロッドガイドもマットカラーのものを使います。

服装のカモフラージュと自分の影

魚から見れば巨大な肉食動物である「ニンゲン」。フライロッドを動かす上半身が作り出す影を減らしストーキングする時の体全体がどれだけ背景に溶け込めるか。ここは後述するストーキングの効果に対して大きな影響があります。

背後が「森」の場合は派手な配色の服装であっても、ある程度はストーキングによってカバーできますが、大きくひらけた湖上やフラットなどでは背景は「空と水面」となるので、薄いブルーやグレーを基調とした配色で背景処理をしないと20m以上先からでも魚に気づかれることがあります。

見えクロダイの偵察役に気づかれそうで静止している所

丁寧なストーキングで消す「肉食獣ノイズ」

動きを最小限にスローダウンして背景から目立たないように動く。水中の物音を減らして波動を伝えないように動く。この2つがストーキングで求められます。水中では特に音の伝わりが空気中の5倍も速いためにストーキングが非常に重要となります。

動きを目立たせないストーキングは、昔から言われる「木ばけ岩ばけ」ですが、周囲にある木や岩、杭などといったストラクチャーを利用して魚とストラクチャーを結んだ線に自分が入って動きごと背景に溶け込む方法。本流や湖岸などでは木の枝が多い動きが多い場所を背景に持っていくる方が、一切動かない倒木や大岩よりも目だないことが多いです。

音を立てない水中ストーキングに役立つのは、格闘技で使われる「すり足」。足を水面に出さず、できる限り低い位置で足を動かして音を立てないようにできます。これは履いているシューズにも気を使う必要があり、金属製のスパイクがついたシューズは岩に当たった際に遠くまで音が響くために向いていません。しかし、エントリーの際に滑りやすい場所があるフィールドもあるので、安全とストーキングのトレードオフとなります。

距離を保った精度あるロングキャスト

ライズやテイリングする魚に対して、極力間合いを詰める方がキャストの精度も出しやすく、魚たちの状態も確認しやすいのは事実です。しかしフィッシング運動は上記の要素全てが関わってくるため、魚に近ければ近いほど気づかれやすくなることも事実。また、ゴロタ浜やガレ場といった転がる石や岩が多い場所では振動が水中へ伝わりやすいので、ストーキングにも限界があります。

そこで可能な限り距離を保ち、精度のあるロングキャストを行うことが必要となります。ただし着水とピックアップが雑になりやすいので、手返しよくロングキャストを静かに行うためには、ロングベリー設計かつリアテーパーが長いフライラインが適しています。

まとめと続き

TFFCCメンバーがDIYフィッシングの場面で直面してきたスプーク対策を、「フラットキャンプ」というオフ会や各自の探究から拾い集めてまとめてみました。いいことづくめのように思えるステルス化ですが、仲間をアシストしながら釣る場合やガイドフィッシングを利用する場合は、フライラインの現在地を示しづらく、コミュニケーションが取りづらくなるために、間にインジケーター用にカラーラインを入れるなど考慮が必要です。

カラーラインはウェットフライでも慣れないフィールドを初めて釣る時に、沈み具合や流れのクセが読み取りやすいので持っておくと便利です。

この記事のメンバー

プロガイドだけあって、渓流と本流のステルス技術はTFFCC随一!

フラット・クロダイ時速4の男。フラットにおけるストーキングは銀河系レベル・・・。

ストリーマーフィッシングにおいてプレデターの侵入経路やポジション取りのテクニックはTFFCCトップクラス!

スキルよりも道具に頼るステルス研修生。ストーキング中にボーンフィッシュやクロダイに仲間と間違われて、足をどつかれること多し。

この記事のディスカッションに参加する | Join the Discussion

東京フライフィッシング&カントリークラブのFacebook グループ「Friends Lobby」ではメンバー以外の方とのディスカッションも行っています。気になる情報や質問などはこちらまで!