スイッチハンドという選択肢
(改善点や発見を反映して随時更新)
アメリカ大陸北西部(アメリカ・カナダ)のフライフィッシャーの特長かもしれませんが、ヨーロッパやアメリカ東海岸の「伝統」との繋がりを強く持ちつつも、無用な影響から離れた現場主義の独自のフィッシングツールを開発する開拓精神があります。ヨーロッパにおけるロックスタイルやユーロニンフのためのロングロッド用ブランクへの需要やゴルフなど軽量・強靭なグラファイトロッドへのニーズに支えられて、グラフィンなどの新技術も登場し、スティールヘッダーたちを中心に高弾性カーボンでパワフルで軽量なロングロッドがツーハンドロッド・スイッチロッド用途として使われるようになりました。
さらにソルトウォーターやスティールヘッドの世界で、ライトタックル化が広まり、ボーンフィッシュやレッドフィッシュ、ライトスペイ・トラウトスペイ向けに、より疲れずにキャストを繰り返しベストな釣りを求めるアングラーたちからの声に応えて、各社からより軽量でハイパフォーマンスなフライリールの開発が進展し、毎年より高機能で最軽量が更新されています。
ラインシステムの進化も目覚ましく、OPSTとRIOを両軸に各社が追いつこう、ぶら下がろうとする中で、「投げる」だけでなく「釣る」性能により特化したフライライン・シューティングヘッド・シューティングライン・ティップ・リーダーが出揃っています。
ロングロッドなのに軽量、さらに高反発でパワフルなキャストができるロッドが出揃ってきたこと。軽量でハイパフォーマンスなフライリール。コンパクトだけどパワフルで投げやすい・釣りやすいラインシステム。この3つが合わさってついに「スイッチハンド」と呼べる新たなフライフィッシングのツールが見えてきました。
スイッチハンドで出来ること
昔ながらの「ダブハン」という言葉が、ツーハンドロッドを使い、常に両手=ダブルハンドでロッドワークすることを意味する言葉だとすれば、スイッチハンドは軽量なスイッチロッドまたはツーハンドロッドを使い、限りなく片手で自由なロッドワークをする段取りが主となります。最大の利点を3つだけにまとめるとすれば、「ツーハンドでシュート即シングルハンドで操作できる」、「シングルハンドに匹敵する手返しの良さ」、「ロングロッドなのに感度が高められる」ということになります。
スイッチハンドの利点はウェットフライやストリーマーを使うフィッシングシーンにおいて、多くあります:
キャスト直前
常にロッドハンドで片手持ちしておくことで、シングルハンドロッドの操作性と同等となります。
- アプローチ中のライン引き出しが楽
- シューティングヘッドの振り出しが速い
- ロッドティップへのライン絡みの解消が素早く出来る
- 全体重量が軽いのでウェーディング中でもフライの交換が速くできる
- 使うタックルごとに違うバランスをロッドハンドのマッスルメモリーに維持しておきやすい
キャスト動作中
このステップではツーハンドで保持するのですが、軽量なロングロッドをティップヘビーにしておくことでダイレクト感が強く、遠心力やラインシステムの状態を感じ取りやすくなります。
- アンカーの効き具合やDループのロードがわかりやすい(新しいヘッドやティップ・リーダーに換えた時)
- 遠心力を感じ取りやすいので、オフショルダーのキャストが楽
- もちろんオーバーヘッドもループのロードが分かりやすくて快適
- 必要であれば、そのまま片手でのキャストもできてしまう
- ロッドティップからのフィードバックを感じやすいので、リキャストすべきかの判断もしやすい
シュート中(シュートアウト〜ターンオーバーまで)
シュートアウトのパワーの貯金を引き出して、「片手で持つロングロッド」としてのロッド操作に入ることで下記の作業が行えます。
- シュート即片手持ちで飛行中にライン送りしやすい位置や次の動作のためのロッド位置が取れる
- 片手で高い位置をキープしてロッドメンディングが行える(リーチキャスト)
- 川の場合: 着水直後にロッドメンディング・ラインメンディングが入れやすい
- 止水・ソルトの場合: ストリッピングに使う指で「輪っか」を作ってシューティングラインを通しておくことで、着水直後にラインをつまみ、即ストリッピング体勢に入れる
- 「ライズ撃ち」の場合:「輪っか」で待機して所定の位置でラインへブレーキをかけながらロッド位置を高くしてワイドループで丁寧なターンオーバーさせます
言わずもがなですが、最大飛距離だけを出す場合、ロッドメンディングや着水後即時プレゼンテーションを行う必要が無い場合は、シュートアウトのパワーを飛行のために使い切るために両手持ちのままにしておきますが、即時のロッドワークやラインワークが必要でない湖でのカウントダウンの釣りや大きな川幅の場所で魚の着き場所が特定できない時、着水後にスラックを残してシンクティップやフライを沈ませたい時のみとなります。
プレゼンテーション中
シングルハンドの超ロングロッドとして使います。自然にティップが下がるセッティングで水中のフライと最短距離で連結された状態になりますので、微細なテンション調節やアタリ感知に最適な状態になります。
- ティップを通じて連結されたラインへのテンションが良く伝わる=聴きアタリが取れる
- メンディングがしやすい・・・スイング速度の調整
- テンション調節がしやすい・・・ターン速度の調整
- 右手・左手の持ち替えをすることで、ベストなライン角度を作れる
- シューティングラインを水面から剥がした「高上げ」が楽なのでスラックを送り込める・ポジション調節・レンジ調節できる
- 継続した片手操作でストリッピングがしやすい・・・スイング速度の調整・ホバーからの誘いなど
ストライク&フックセット
上記のプレゼンテーションでタイトなテンションまたは緩やかに「聴きアタリ」が取れるテンション状態になっている前提ですが、最も大きいメリットはアタリ感知能力と即応できる手返しです。
- 小さい魚やショートバイトでも感度が良いため前アタリ・本アタリがたくさん出せる(センサー)
- 感度が良いので、「掛ける・乗せる」のフックセット判断がしやすい
- GSPシューティングライン(PEコア)を使えば、30m 40m先でも確実にフックセットできる
ただし、遠目の場所でヒットした大きい魚を相手に一回でフックセットが決まる確率は50:50なので、追いアワセを入れる場合は両手でロッドを持って行うこともあります。
ファイト&ランディング
片手で操作できる・感度が高いことは魚のハンドリングにも有利です。
- ロッドファイト、リールファイトの切り替えが迅速かつ楽に行える
- 感度が高いので魚の動きを判断しやすい
- ファイト中のトラブルなどに迅速に対処できる
大きい魚を相手に誘導を行う場合は、両手でロッドを操作して少ない力で岸寄せさせます。
キャッチ&リリース
軽量なのでロッドを持ったまま・ホールドしたまま他の作業に取り掛かれます。
- 全体重量が軽いので、脇に挟んだまま魚をハンドリングできる・他の作業がしやすい
- 両手をフリーにしたければ、股の間に挟んでおける
スイッチハンド・タックルの条件
OPSTの使いやすいスイッチロッドが出たことや「トラウトスペイ」が広まったことがきっかけで、ツーハンドも軽量化することでより繊細でコントロールしやすい釣りが楽しめると気づかされましたが、長くスカジットのシステムを使い続けながらタックルを軽量化してきた人たちは「いきなりスイッチロッド」を使っていたのではなく、ツーハンドでキャストできるけど取り回しの良いギリギリのロッドの長さに落ち着いたのだと思います。
そこへ日本的な手返しの良さを付け加えると条件はこうなります。
- ロッドのスペック ・・・片手操作のロングロッドとして使える軽量なツーハンドロッド、軽ければ軽いに越したことはない
- ロッドアクション・・・スカジットもスカンジも投げやすいファースト〜ミディアムファーストの「スイッチアクション」
- ロッドティップ・・・ティップの感度が良いこと、良いカーボンであればあるに越したことはない
- リールの重量 ・・・ティップ・ヘビーにするために可能な限り軽く、極論すればロッド重量より軽いこと
- リールの直径・・・ロッドワークのバランスを最適にするため、大きすぎず小さすぎないこと
- リールの巻き取り・・・ラージアーバーで次の行動へ移るのが速い方がいい
G.Loomisなどの伝統的なミディアム寄りの「スペイアクション」でも出来ますが、ロッドの反発が速い方が有利なので、マッチさせるラインを軽くするなどの調整が必要になります。
ラインシステムの条件および使い分け
細かいライン操作が必要となるウェットフライやチューブフライ、浅いレンジのストリーマーを中心にスイッチハンドを試していることもあり、その前提でラインシステムを選ぶ場合、流れに任せず自分でラインを動かせる操作性、余分な質量をカットしたダイレクト感・直径を細くすることで無用なドラグ回避できることが条件となり亜mす。
- スカジットヘッド・・・高浮力のフローティングまたはインターミディエイト
- ティップ・リーダー・・・フライの負荷に合わせてできる限り直径が細いもので10フィートがおすすめ
- スカンジナビアンヘッド・・・できる限りショートヘッドかつフローティング一択
最もスイッチハンド操作が快適である「マイクロスペイ」におけるラインシステムの使い分けについては、こちらを参照してください。
本流・渓流・湖・ソルトのシチュエーションに応じて、「超感度」が出せるセッティングのためのラインシステムを選びます。「ステルス機能」を発揮するための改造ラインなどもテスト中ですので、深いレンジをシンキングラインで釣る場合も含めて、新しい発見を踏まえて今後更新します。
現在スイッチハンドにセッティングしたタックル
参考までに組んだタックルのデータを付記しておきます。全て最軽量になるようにリールを選んでバッキングラインもPEラインで軽量化しています。
クラス | ロッド | リール | ラインシステム |
---|---|---|---|
マイクロスペイ | OPST Micro Skagit 10フィート4番(スペイ換算1/2番) 125g | Naitulus FW5 ※Hardy Ultradisc UDLA 5000への変更を検討中 | OPST Commando Head 150GR AirFlo Skaigt Scout 150GR SA Atlantic Salmon SH 4/5F |
ショートスペイ(トラウトスペイ) | ※G. Loomis IMX-Pro Short Spey 11フィート11インチ3番 | Ross Evolution LTX 7/8 | OPST Commando Head 220GR |
ライトスペイ | Beulah Platinum Spey 12フィート6インチ6番 225g | Hardy Ultradisc UDLA 7000 | OPST Commando Head 325GR RIO Scandi 380GR |
スペイ | Beulah G2 Platinum Spey 13フィート8インチ 8/9番 225g | Hardy Ultradisc UDLA 9000 | OPST Commando Head 450GR RIO Game Changer Max 3D |
番外編プレデタースカジット | R.B. Meiser 909CX 9フィート9インチ 9/10番 | Tibor Riptide ※Lamson Lightspeed Mへの変更を検討中 | RIO Skagit Max 550GR |
※G.Loomis IMX-Pro ・・・ ショートスペイの割にはスイッチアクションではなくスペイアクションなので、ラインをギリギリまで軽量化することで余計な曲り込みを軽減させて使ってみようと思います。
スイッチハンドに使えるツーハンド・フライロッド
マイクロスペイ:125g、ライトスペイ・スペイ:225gを基準に探してみてください。ロッド長は現在のところウェットの釣りで12フィート、ストリーマーの釣りで13フィートまでは快適操作ができるものが揃っています。
ロッドアクションがミドル寄りよりもファースト・ミディアムファーストの方が片手でのシュートアウトやロッド操作でロッドティップが暴れません。
合わせるフライリールは極力軽量、可能であればロッド重量以下を目指すと、シングルハンド並の快適さとなります。
ロッド | コメント |
---|---|
OPST マイクロスカジット、ピュアスカジット | スイッチロッド専用メーカーなので、この使い方のヒントの大本です。大本流ではなく小・中本流ならこれで十分に釣り切れます。マイクロはオーバーヘッドもできるアクション、ピュアはスカジットキャスト専用アクションです。 10フィート4番のマイクロスカジットが125gです。 |
Pieroway ジェリーフレンチ レネゲード | スイッチハンドのヒントをくれたジェリーのブランド。彼の答えは「ツーハンドの減量」ではなく「短いスイッチロッド」でロッド重量を減らす方向性です。 |
Beulah プラチナムスペイ、G2プラチナムスペイ | 12フィート6番の旧プラチナムスペイが225g、13フィート8/9番のG2が225gと軽く、これが基準だと思ってください |
Sage R8 | 信じられないくらい軽く、高反発にも関わらずタイミング許容も大きいアクション。ティップでもミッドセクションでもロードできるとは・・・。予算が許せば欲しい・・・。 |
Sage イグナイター | R8が発売されても、なお標準ロッドのはるか上を行く軽さ・高弾性・粘り。予算が許せば・・・。 |
Scott スイング | Scottスペイ随一の軽さで、Sageよりも軸が細く感じますが、パワー伝達は遜色ありません。個人的に使いたいロッドNo.1。 |
「トラウトスペイ」に指定されているロッド全般 | 11フィート6番以下のスペイロッド全般となります。小・中規模の本流限定で行く人におすすめ。 |
北海道や本流、冬季C&Rで実践
元々は2020年シーズン中に、「スイッチハンドで釣れば手返し良くてたくさん釣れるんじゃ無いだろうか」という仮説をOPSTのマイクロスカジット、ビューラのライトスペイで検証して「これはいける」と確信しました。本流や湖であらゆる攻め方が試せて定量的に検証できる北海道は、タックル&システムの利点を引き出すヒントが詰まった最高のテストフィールドです。
あまり本流へ行く時間が取れない中では、C&Rは貴重です。これまでの釣行全てスイッチハンドで検証、やはりどんな状況でも釣りやすいことを確認。検証フィールドは、「犀川」「利根川」「黄瀬川C&R」「早川C&R」などです。
2024年シーズンは、4年前と全く同じタックルを同じフィールドに使い、今回はスイッチハンドで釣り抜きながら、メリットの一つである「感度」をどれだけ高められるか検証。アタリを最大化する中で、数釣りだけでなく、そのポイントのベストサイズが出せることも分かりました。
中禅寺湖や湯ノ湖でのライズ撃ち
止水でスイッチハンドが活躍する場面はなんといっても「ライズ撃ち」。本来はシングルハンドロッドでドライフライを使うゲームですが、ツーハンドロッドをスイッチハンド操作で使えば、怪しいライズやナーバスウォーターに対してロングレンジで正確にウェットフライを打ち込むサイトフィッシングが楽しめます。
ソルトのストリーマーゲーム
フィッシュイーターの釣りではストリーマーをロングキャストして着水後すぐにアクションする必要があります。オーバーヘッド用スイッチロッドもシュート中から着水後・即時ストリッピングに備えるスイッチハンド操作で、フライを動かし続けて狙ったターゲットを仕留めることができます。スイッチハンドのヒントはここからも来ています。
サーフやオフショアで使う「ビーチロッド」と呼ばれるオーバーヘッド用ツーハンドロッドも同様に両手でシュートしたら片手持ちです。
まとめと続き
ダブルハンド=ダブハンに対して、スイッチハンド=スイハン、「炊飯」!?
お腹空いてきました・・・。
元々は筆者が右肩を悪くしてしまって、シーバス用に用意しておいた軽量・片手操作可能なツーハンドロッドを使うしか無い中で、いかに体に楽に操作できてシングルハンドを理想とした釣りやすさを突き詰める中で、OPSTとビューラというメーカーの方向性と出会い、たくさん魚を釣りながら最適化して今に至っています。
パワフルなロッドに合わせるヘッドはもっと軽量化したり、面白い技術でより魚をスプークしづらくできるので、今後の取り組み課題です。
フライフィッシングは「固定点」では無く、常に変化を続ける「通過点」だらけの釣りであることが面白い部分だと思います。
この記事のメンバー
Special Thanks
スイッチハンドも通過点でしかなく、色んな方たちからのヒントやレガシーありきです。
右肩を悪くした私にアドバイスをくれたり、もっと釣れるもっと感度の高いタックル&システムをサポートしてきてくださった方達に感謝の言葉しかありません。
- SANSUI 佐藤さん・・・渋谷店時代にBeulahとOPSTを教えてくださいました
- FML仲野さん・・・ロッドバランスやラインの仕様質問にいつもお付き合いくださりありがとうございます
- OPSTの方達・・・Mr. Ed Wardはじめ、退職されたスタッフの方たちからシステム改善のヒントをたくさんいただいています
- Mr. Jerry French・・・OPSTと別れてしまいましたが、ラインシステムの基本やロッドコンセプトを教えていただき感謝です
- ガイド水野さん・・・「魚の着き場所ありき」のシビアなフィールドでの筋の読み方、参考にさせていただいています
- デルタ隊長こと戸澤さん・・・「釣るありき」のラインシステムのアドバイスありがとうございます
- チャンピオン北林さん・・・ツーハンドロッドの最大パワーの出し方、糸切れでポイント荒らしても怒らない広い心ありがとうございます
- C&Fデザインの方達・・・フライリールのアドバイスありがとうございます
- 鱒夢・ビギナーズマム・・・実験的なタックルを組むサポートありがとうございます
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