フライフィッシングの汎用性を広げるテンカラタックル

2023/09/19fly fishing in japan,kebari,level line tenkara,rod flex,tapered line tenkara,tenkara,tenkara rod

(2000年代にテンカラ啓蒙のために作成した英語版の記事を再編集した記事です)

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フライフィッシングを極論すると「毛鉤(フライ)を使った釣り(フィッシング)」であるだけなので、大都会の公園でも禁止されていないテンカラロッドに毛鉤をつけて池のバスギルを釣ったり、かっこいいドライフライロッドで映画の主人公のように大自然の中でニジマス釣ったり、競技から生まれたニンフィングロッドで源流の岩の下を丹念に探ってイワナを数釣りしたり、マイクロスペイでX地点から逆算してウェットフライ当てて尺ヤマメ釣ったり、ガッチリロッドでロウニンアジ釣ったり、自分で巻いたフェザージグをベイトタックルで投げてバス釣ったり、胴突き仕掛けにカブラハリみたいな擬似餌をボートから沈めてカツオやシャケ釣ったり・・・、これ全て「フライxフィッシング」となります。

とはいえ、キャスティング原理やプレゼンテーションの距離感が違うベイトタックルやボートから真下に落とすバーチカルなフィッシングでは、標準的なフライタックルとのスキルの互換性が低くなってしまうので、リールがついていないテンカラタックルを使ったフライフィッシングを併用するというのも利便性を高めつつも、「シンプルなフライフィッシング」として楽しみの幅を広げてくれるものとなるのではないでしょうか。

テンカラタックルの特長

日本における歴史を鑑みると、むしろ中世からの伝統であるテンカラ。山に住む人たちが渓流・源流のトラウトを手返し良く釣って持って帰ることを主眼に開発されてきたこともあって、無駄を省いてシンプルな構成に完結しており、手竿、キャスティングライン、ティペット、毛鉤のわずか4物で釣りができてしまいます。現代的にアレンジされたテンカラは、テクノロジーの進化でレベルライン・テンカラとなっており、キャスティングラインの部分が重みのあるフロロカーボンに置き換わったこと、ロッドの軽量化とパワーが格段に上がったことでより長いロッドとラインシステムを使うことができるようになっています。

さらには手竿の一種であるので、フライロッドやルアーロッドのような継ぎ竿ではなく伸縮式のテレスコピック・ロッドが主流となっており、仕舞い寸がポケットサイズのものまであるので、自転車のカゴに放り込んでおいたり、出張の鞄の中にパッと入れておいたり、車の空いたスペースに一本置きっ放しにしておいたり持ち運びも非常に便利です。

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テンカラロッド

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アクションやバランスを気にしなければ、延べ竿として売られているロッド全てがテンカラロッドとして使えますが、テンカラ専用ロッドとして便利なものは、グリップ位置から70cmほどの位置にロッドのセンターバランスがあってキャスティングラインの重みを載せやすいようになっていて、総重量が100gを切っていて1日振っていても疲れづらくなっています。

ロッドの長さをフィールドに合わせる

本流テンカラとしてもっと長いものもありますが、よく使われるロッドの長さとしては、3.3m (10フィート9インチ)程度のニンフィングロッドやウェットフライロッドより少し長いものが標準的なショートロッドとなっていて、一般的に使いやすいのは3.6m(11フィート9インチ)となっています。スイッチロッドやショートスペイロッド並の長さですが、リールやラインの重量が無いので、リーチを最大化するメリットはあっても扱いやすさには問題ありません。

ロッドの調子(フレックス)はキャスティングラインの種類に合わせる

キャスティングラインの種類に合わせて3種類のフレックスがあります。

5:5調子

テンカラロッドとしては最もスローアクションとなりますが、レベルライン専用となり、またループを大きくしやすいことと着水が丁寧なことで最も繊細なシチュエーションに向いています。フライフィッシング的には、カゲロウやユスリカのマッチザハッチに使いやすいです。

7:3調子

テンカラロッドとしては最もファーストアクションとなりますが、テーパーライン専用となり、風が強い日や常に風が吹き抜ける谷川のような場所でもフライを綺麗にターンオーバーさせて狙ったところに落とすことができます。ただし、そのまま着水させると水面を強く叩いてしまうため、一旦空中でターンオーバーを完了してからふわっと落とす、フライフィッシングでいうところのパラシュートドロップキャストを多用することになります。反対に大きめのドライフライやソフトハックルをガンガン瀬で気づかせることにも向いているので、釣り上がり専門の人からはいまだに支持されているアクションです。

6:4調子

テンカラロッドとしてはミディアムファーストアクションとなります。5:5と7:3の中間のバランスとなり、レベルラインも得意であれば、PVCでコーティングされたフライラインと同様のレベルラインを使うのに適しています。テンカラ初心者やフライフィッシングが先の方には最もおすすめのアクションとなります。

キャスティングライン

最も標準的なキャスティングラインの長さはロッドと同じ長さです。慣れている上級者はロッド全長よりも長いキャスティングラインを使うことでストーキングしやすくしたり、ドラグ回避に役立てます。

レベルライン

現在主流なのはレベルラインですが、フロロカーボンの場合は求めるキャスティングパワーに応じて2.5-4号を使います。先端から後端までが同じ直径なので水面でドラグがかかりづらく、トラブル時の交換もスプールからカットして結べばいいだけなのでとても合理的です。

テーパーライン

伝統的なテンカラのキャスティングラインは、フライフィッシングでいうところのファールドリーダーで作られたテーパーラインとなります。先端へ行くほど細くなっているのでラインスピードを上げやすく、ターンオーバー性能にも優れています。流れが早い渓流・源流で魚にラインの存在が気づかれにくいシチュエーションではレベルラインよりもスピーディーな釣りができること、より大きく・重たいフライが投げられるので使い分けます。

ロッドを立てていると手前へ寄ってきやすく、水面でのドラグも出やすいですが、それをわざと誘いに使うこともあります。

ティペット

フライフィッシングと全く同じものを使いますが、一般的にはやや太めのものを使う傾向があります。ドライフライはナイロン、ウェットフライはフロロカーボンの1-1.5号が主流ですが、繊細なシチュエーションでは0.5号を使うことも多くなります。長さは浮かせるレンジの場合は1-1.5m程度、沈める釣りの場合はユーロニンフィングと同じく水深の1.5倍まで長いものを使うこともあります。

フライ

現代テンカラにおいてはフライフィッシングと基本的には全く同じ釣りなので同じものも使えますが、ユーロニンフィングと同じものも使えます。

伝統的なテンカラ毛鉤は一つのものを熟練したロッド操作でカゲロウからテレストリアルまで演出することを心がけます。純テンカラ的なプレゼンテーションでは毛鉤自体の生命感は最小限にとどめて、プレゼンテーションの技でカバーします。

キャスト

小さく軽いドライフライやソフトハックルを使う場合はフライフィッシングのキャストとあまりかわらず、フライラインの代わりにキャスティングラインでフォルスキャストして余計な水分を飛ばしてから水面へそっと載せます。

メインとして使うキャストはバックキャストでロッドを曲げたらテンションを抜かずにフォワードキャストして、そのままフライをシュートします。

重たいニンフを使う場合はユーロニンフと同じく円運動のタックキャストを行います。

プレゼンテーション

使うフライ・毛鉤の種類の数だけあるのでここでは割愛しますが、伝統的に美しいとされるのはフライフィッシングと同じくカゲロウを演じるプレゼンテーション。
ダンが水面から飛び立等とするところを水面直下から水面より少し上の空中も使って演じたり、反対にスピナーが水面を舞う様子を演じたり、産卵を終えて力尽きるスペントを演じたり・・・。

カディスのイマージャーやスティルボーンを演じる時には「逆さ毛鉤」を使ったりもします。一般的なフライフィッシングよりも、より細かい動きに特化しているのが特徴といえます。

テンカラの活用

リールを使わず、フライタックルよりも使うスペースがコンパクトなのがテンカラの利点ですが、これを活用することでいろんな場面でシンプルなフライフィッシングを行うことができます。

大都会の池

都会生活者がリール釣りが禁止されている池でフライフィッシングしたい時や、都会へ旅行する最中でも楽しむことができます。
フライタックルと違って使うスペースがコンパクトなので安全性も高く、ギャラリーが近寄って来やすいという特長もあります。

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スピーディーかつシビアな場面

地形的な条件でスピーディーにフライフィッシングを進めたい時やフライラインを置くスペースがないほどのタイトなフィールド、魚たちがナーバスでフライラインの存在が邪魔な時にはユーロニンフィングと同様の理由でリーダーシステムだけで釣りが成立します。

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海外のゲストに日本文化を理解してもらいたい・日本の渓流魚へのプレゼンテーションを解説する時

筆者の場合はフライタックルが一番好きなので、あくまでもリクエストされる時となりますが、日本の渓流魚への毛鉤のプレゼンテーションの違いを実感してもらいたい時に、フライラインより先の部分の動きをわかりやすく説明するためにテンカラタックルを使うことがあります。

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海テンカラ・池テンカラ:餌づりしか知らない人へ毛鉤釣りを啓蒙したい時

漁港や潮溜り、公園の池へ子供達と遊びに行くとたくさんの小物が水中を泳いでいます。サッと用意して釣って楽しむことができるテンカラタックルによるフライフィッシングは、自分が楽しめるだけでなく、餌釣りしか知らない人たちへ「餌なくても手軽に釣れる」遊びとして認識してもらうことができます。

テンカラの弱点

あくまでも筆者の経験と主観に基づく弱点ですが、テンカラは決められた長さのキャスティングラインしか使えないために、湖や海、広い川で回遊してくる魚を狙うようなシチュエーション、流心の向こう側から手前までを広く釣るような飛距離やプレゼンテーションのスケールが求められるシチュエーションではあまり活躍できません。

またロッドに対してラインシステムが長いため、ランディングする時には伸縮式のネットを使わない限り、自分でラインを手繰り寄せて取り込む手間が発生します。

またこれは現代テンカラが「遊びの釣り」であるのに、テンカラの原点が「職業の釣り」であったことに起因しますが、「すべてを単純化」することはフライフィッシングの幅も制限してしまうことにもなるので、遊びとしての発展においては矛盾を抱えていると言えます。

さらに管理釣り場においては、餌釣りで使う渓流竿とテンカラロッドの区別がルアーアングラーやフライフィッシャーから誤解を招きやすいため、テンカラ禁止となっていたり、テンカラ専用エリアで釣る必要があることもあります。

まとめと続き

アメリカの場合は自由な発想で、「テンカラ=シンプル・フライフィッシング」というスタイルで、リールを使うフライフィッシングと一緒にテンカラが広まっていっていますが、保守的なフライフィッシャーからは「文化と歴史への挑戦」「長年育てた市場への競合」として否定的に見られることもあります。同じ毛鉤を使った釣りなので、イデオロギーがぶつかること自体ナンセンスですが、この点はスポーツフィッシング全体の発展のためにとても気を使うべきことだと思います。

筆者個人はフライフィッシングにおける多様なフライパターンやラインシステム、フライタックルを使う中の一つの手段としてテンカラタックルどころかベイトタックルのフェザージグも使いますが、あれもこれもできてしまうとフィールドの可能性が多すぎても休む暇がなくなってしまうので、あえて封印する時もあったりします。

ただフライフィッシングを楽しむために、従来型だけに頼っていては発展が見込めない場合は、積極的にマルチタックルでフライフィッシングをやってみる・提供することが、フライフィッシングへの入り口を増やし、その中から深く極めたり、幅広く楽しむ毛鉤文化を作っていくことではないでしょうか。

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