止水のユーロニンフィング
止水の岸釣りというと、広大な湖のどこがポイントか分からない、と敬遠されるアングラーが多いと思いますが、実際は浅瀬には水草が多く繁殖するため、魚が捕食する水棲昆虫や甲殻類も豊富なので魚たちはかなり頻繁に浅瀬に入ってきます。また岸際には樹木が生えていることも多く、そこから落下してくる陸生昆虫も狙えること。倒木などは隠れ場所になることもあって、やはり岸釣りでもポイントさえ絞れれば、待ち伏せスタイルまたはショットガンスタイル(釣り上がり)のニンフィングが楽しめます。
さらに日本では「エリア」と呼ばれる止水タイプの管理釣り場が数多く存在するので、ここでも止水のニンフィングが盛んに行われています。
エリアでは魚たちがある程度人馴れしている反面、アングラーたちからのキャスティングやプレゼンテーションによる「水面やシャローレンジへのプレッシャー」が短時間で高まる傾向があります。また、高い放流密度ゆえの「群れ」と「個体」の要素が大きく働きます。一匹のトラウトがフライにストライクするまでには、その何倍もの数の魚たちが同じようなフライの似たような動きを見ています。さらにキャッチ&リリースされるトラウトも多いので、プレッシャーから解放される「個体」を期待して狙うよりも「同じ行動をするクラスター」の捕食レンジを見つけ出すほうが効率良く釣り続けることができます。
フライフィッシングを生んだイギリスでは止水、特にエリアフィッシングはむしろリバーフィッシングよりも一般的であり、環境保護や水源保護、観光政策のために湖での釣りが規制されていることが多いヨーロッパの国々でも盛んに楽しまれているフィールドとなります。
また意外に思われるかもしれませんが、イギリスのエリアはキープ優先でリリース禁止が多く、ヨーロッパはリリース優先が多いこともあり、日本はヨーロッパに近いスタイルかつ養殖産業が発展していることもあり、非常に恵まれた高い放流密度となっています。
システム要件
そんな独自の条件の中でゲームを成立させる必要がある湖やエリアですが、止水で狙うポイントは浅瀬がメインとなり、一般的なエリアも浅くできており、深いものでも最深部は3-5m程度。つまり9フィートのフライロッドを基準にしても、ロッド2本分の深さまでカバーできればいいことになります。フローティングラインを基準としたタックルに求められる条件は:
- 魚のいるレンジへ狙いを定め、組み立てた順番に狙った場所へキャスト、そのままフォールを中心としたプレゼンテーションを行う段取り
- キャスト性能を担保しつつ、テンションフォールやバンプ中の魚からのストライクを察知できるシステム
- ボトムを基準として中層を狙えるフライ、場合によっては表層のフライも使うこととなる
フライタックル&ラインシステム
湖およびエリアでは手前のカケアガリの魚から、すれていない場所の魚まで意識する必要があるので、リバーフィッシングと同様に、手前はショートライン・ニンフィング、それより遠くの魚はロングライン・ニンフィングを行うことになります。そのため基本的なラインシステムはリバーフィッシングのユーロニンフィングと全く同じですが、止水では川のような強い流れによるドラグを意識する必要がなく、またミドルキャスト~ロングキャストが必要となるため、WFのフローティングラインが主軸となります。またフォーリングで誘うことがメインとなりつつも、いったんボトムへ置いたフライをリフト&フォールさせて誘うことも多いので、しっかりとストライクを感知できてプレゼンテーションしやすいラインシステムを組みます。
ティペット&リーダー
FIPS-Moucheルールを意識したスタイルかつ、十分なレンジへ届かせる必要があることから、全体をロッド2本分に組みます。
- ティペット: フロロカーボン0.5~1号
- インジケーターリーダー: ナイロン4号
ティペットの役割は自然にレンジまでフライを届かせること。リーダーの役割はインジケーターリーダーとしての役割を持ちつつも、浮力をもたせることでフォーリング中の変化を繊細に捉え、リーダーが沈みはじめる瞬間のフォール変化を起こせるようにします。
ティペットの長さとリーダーの長さの比率ですが、より深いレンジを狙う場合は感度を高めるためにティペットを長く細くして6:4ー7:3くらいに設定します。反対に浅いレンジを手返し良く狙う場合や重たいニンフを使う場合はショートライン・ニンフィングやフォーリング中のストライクを分かりやすくするために5:5くらいに設定してインジケーターリーダーの方を長くとります。
ティペットとインジケーターリーダーはダブルエイトノットで結び、リーダー側を「ひげ」のようにわざと余らせてインジケーターとして使います。
ターンオーバー性能を向上させたい場合は、4号のインジケーターリーダーに2号のインジケーターリーダーを継ぎ足してコントロールバットとフロントベリーを作ります。
フライライン・フライロッド・フライリール
フライラインには長いラインシステムをターンオーバーさせつつ、飛距離を担保できるパワーが求められます。アグレッシブなテーパーデザインかつAFTTA指定の1.5倍くらいの設定のWFラインが使いやすいです。
フライロッドには日本のエリアフィッシング大会規定である「11フィート以内」を守りつつ、全体をコントロールしやすい長さが必要となります。
フライリールは同じタックルでニンフィングだけでなくドライフライやインタミなどシンキングラインを使った釣りへ対応したい場合が多くなりがちなので、カセット式や交換スプール付きのフライリールが便利です。
- フライライン: WF6-7番フローティングライン、アグレッシブテーパー(デルタ、ジャベリン、タイタンなど)
- フライロッド:10フィート~11フィート 5番~7番
- フライリール:ディスクドラグ・フライリール・・・カセット式や交換スプール付き
ラインフロータント
魚影が濃いフィールドや活性が高い場合は、インジケーターリーダーの先端がナチュラルに追随するカーブフォールよりもテンションがかかって角度が狭いカーブフォールの方が魚の反応が良くなります。インジケーターリーダーの浮力を強化するためにフロータントを使います。
自転車用グリスは肌によくないので、ラインドレッサーに塗っておいて使います。
プレゼンテーション
水中で見えない部分でのストライクを感知するため、魚にアタックさせる間を与えるため、テンションを維持したままのフォールを基本とした使い方になります。
カーブフォール
主に上層~中層にいる魚へのプレゼンテーションとして行います。表層を重点的にフォールさせる場合はサイトフィッシングともなり、エキサイティングな釣りが楽しめます。また岸際を探る時にもこのプレゼンテーションを行います。
インジケーターリーダーへフロータントをしっかりと塗布して浮力を強化します。フライはリーダーがブレーキとなってカーブフォールします。カーブフォールが終了するまでの間に上層からターゲットレンジの魚たちへアピールします。
ストレートフォール
主に中層よりも下の魚へのプレゼンテーションおよびボトムアクションの前段階として行います。
インジケーターリーダーに余分な浮力は持たせず、場合によってはタングステン粘土シンカーを塗りつけてできる限りフライの沈降に追随させます。エリアでは表層の魚に無視させて下の層の魚を狙うために行うので、狙ったレンジへ届くタイミングでフライラインにテンションをかけてフォール角度を変化させて誘いをかけます。
フリーフォール (ナチュラルフォール)
魚の食いが渋い時にショートライン・ニンフィングで行います。インジケーターリーダー部分は水面より上に出しておいてテンションを残し、ティペット部分はフライが沈む動きに合わせてナチュラルにフォールするように操作します。
ボトムバンピング、リフト&フォール、ボトムクロール
主にボトムの魚へのプレゼンテーションとなります。着底したフライを素早く強いストリッピングで浮き上がらせて再フォールさせることをボトムバンピング、ロッドを持ち上げてゆっくりと浮き上がらせて再フォールさせることをリフト&フォール、フライが浮き上がらないように底をずる引きすることをボトムクローリングと呼びます。
湖やエリアの場合は水棲昆虫のニンフやラーバ、エビやザリガニといった甲殻類が多く食べられているレンジであり、障害物に気を付ける必要はありますが、日中で中層以上に全く動きが見られない時でも有効な手段となります。また「落ちスレ」と言って、連日フライやルアーで叩かれているエリアの魚は落ちてくるものを警戒して逃げるため、わざと一回ボトムへ着底させて警戒を解いてから誘うことがとても有効になります。
また、汽水湖やソルトのシャローでは、甲殻類を再現するために良く行われているプレゼンテーションとなります。ロッド全長と同じくらいの深さまでは操作しやすいので、ロングロッドの方が有利になります。
裏技:シモリ
エリアフィッシングでボトムを攻める時に非常に便利なのがシモリ。国際大会では禁止されていますが、日本のエリアのレギュレーション上は問題がないものに「マーカー」や「ショット」があります。とはいえ、シンプルなラインシステムに後付けするのは大変なので、粘土式のマーカーを小さいボール状にして、ティペットとリーダーの接続部分から先へ2つか3つつけると水中の微妙なアタリが感知できます。
フライパターン
探る場合はフォール、リフト&フォール、ボトムバンプ。ライズがある場合はイマージングとドリフトのプレゼンテーションに対応するフライが必要となります。
まとめと続き
このシステムは、TFFCC国見さんがFIPS-Mouche 世界選手権で学んだものを伝授いただきながら、TFFCCメンバーがコイやクロダイで得た経験をガイダンスとして、TFFCCエド吉田が日本のトラウト&バスフィールドや大会のシーンに合うようにアレンジしてあります。
はじめからボトムありきでシンプル化されたシステムですので、フライの使い分けで幅広い応用ができるので、今後様々なフィールドでの発見やメソッドの進化が待たれるところです。ソルトやより深いレンジへ対応させるためには、ソルト対応のロッドやフライリール、ソリッドティップのロッドなどまだまだ改善が必要となりますが、ぜひ皆さんもチャレンジして新しい世界を一緒に開拓してください。
ヨーロッパのフライフィッシング大会は、湖水でのボートフィッシングとバンクフィッシング(岸釣り)が最も盛んで、そこで使われているテクニックから応用されたものがリバーフィッシングに使われていることが多いわけですが、必ずしもニンフだけを結んで使うわけではないこと。すべてのフィールドで2つまたは3つのドロッパーリグが許可されているわけではないこと。また、北米や英語圏から見てヨーロッパ大陸を「ユーロ」とは呼ばことはあっても、ヨーロッパ大陸に住んでいる人たちは自らをユーロと呼ぶわけではなく、正しくは「コンペティション・スタイル」と呼ばれています。
ここでは、コンペティション・スタイルの中で、あくまでもニンフおよびニンフィングのテクニックを使う釣り方に限定する時に「ユーロニンフィング」と呼んでいますので、ご留意ください。
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