ドライフライのすすめ:基本編 – 様々なトップウォーター用フライ
(都度更新予定です)
今も変わらずフライフィッシングの花形と言ってもいいドライフライ。日本で独自にアレンジされたドライフライのスタイルは、主に1930年代に入ってきたイギリスやキャッツキル的なイミテーション重視のドライフライのスタイルを持ちつつも、1970年代のアウトドアカルチャーの影響を受け、山岳渓流という荒れた水面の連続かつ狭い中にもピンポイントで深いスポットを持つフィールド条件、テンカラのスピーディーな釣り上がりの影響から、誘い出しを重視するアトラクター要素の強いウエスタン・スタイルも入っている独自のベースを持っています。
ここへ湖や本流でもドライフライを楽しもうということで、シングルハンド中番手やツーハンドを使ったドライフライというスタイルもあれば、化学繊維大国である利点のためか、複数のテーパーを持つテーパーリーダーに「嘘」というくらいにティペットを継ぎ足す「流し釣りリグ」のような独自のスタイルまで存在します。
大半のドライフライは「虫パターン」として発展してきていますが、北米ではバスフィッシングと同時に発展してきたことで開拓精神旺盛なアメリカ人たちが「魚パターン」まで生み出したことで、現在はトップウォーターを釣るために様々なドライフライが使われるようになりました。
ドライフライの起源:イングリッシュ・スタイル
元来はイギリスの小河川において、ノーザンスパイダーと呼ばれるイギリス式ソフトハックルに、フェザーウイングやクイルウイングを追加したウェットフライを上流へ流す探り釣りを行う際に、様々な水面に浮かべておく工夫(アップライトウイング化やマテリアルの浮力強化)を行ったところからドライフライの釣りが始まったと言われています(所説あり)。その後、1879年にジョージ・マリオットとフレデリック・ハルフォードが出会い、イングランド南部のゆっくりと流れるチョークストリームにおける「ドライフライありき」の釣り易さに最適化したクイルウイングやハックルウイングを持つ「イングリッシュ・スタイル」のドライフライが誕生しました。
川沿いの土地の開発がどんどんと進んでしまったために、エリアフィッシングや湖がメインになってしまった現在のイングランド南部ですが、いまだに歴史的な釣り場を残す保全活動が行われていて、テスト川やエイヴォン川では伝統的なフライは使われなくなっても、BWO=ブルーウイングオリーブ、PMD=ペールモーニングダンなど、昔から変わらず同じ名前のメイフライのパターンでマッチザハッチの釣りが行われています。
キャッツキル・スタイルとマッチ・ザ・ハッチ
同じ頃、アメリカではニューヨーク州キャッツキルのセオドア・ゴードンがハルフォードと相互に連絡を取り合いながら、キャッツキルの川にマッチした小型のサイズのカゲロウをイミテーションしつつ、より浮力を追求したアレンジが行われて、基本シャーシはイングリッシュを使いつつ、小型のフライフックにアメリカン・ウッドダックのフェザーから束ねたウイングを持つ「キャッツキル・スタイル」と呼ばれるドライフライへ進化しました。同時にイングリッシュスタイルの影響を色濃く残しつつも浮力向上のためにハックル枚数を増やしてハックルティップをウイングに使う「アダムス」などイースタン・スタイルも生まれましたが、キャッツキル・スタイルにひとくくりにされています。
これらはトラウトの棲む川の中でも緩めの流れを選んで待機して、ライズが始まったらフライを選びながら釣る「マッチ・ザ・ハッチ」という段取りの中で釣りが行われます。フライフィッシングのための観光の歴史が長いキャッツキルでは名場所には必ず駐車場や川沿いの遊歩道まで作られており、特に夕方からのスーパーハッチと呼ばれる時間帯には、あらかじめ予測をたてたアングラーたちが昼間から名ポイントへ集合して、真っ暗になっても賑やかに釣り続ける風物詩にもなっています。
ウエスタン・スタイルとショットガン
ハルフォードの影響を受けつつも競っていたゴードンたちは水が透き通っていて水面の動きが少ない、魚からドライフライを見つけやすいセクションを選んで釣っていたため、ドライフライのハックルの一部とテールだけが水面張力を支えるイングリッシュ・スタイルもキャッツキル・スタイルのどちらもニューヨークの隣のペンシルバニアに多い山岳渓流はおろか、キャッツキルの西端といってもいいデラウェア川の支流でさえも「繊細すぎて使いづらい」という評価であり、広いアメリカ大陸を流れる大半の河川を手返し良く探り釣りすることには適していませんでした。
鳥の羽の代わりに動物の毛をウイングに使う工夫については、当時すでに18世紀末の北アメリカの先住民族のセミノール族が「ボブ」と呼ばれるディアヘアを浮力体に用いた毛鉤をサンフィッシュ科のバスやギルに対して使っていたことが知られており、新たに中空のシカの毛=ディアヘアウイングをウッドダックの代わりに使った「ウエスタン・スタイル」(東部13州から見て西側)と呼ばれる荒れた水面でも浮力を失いづらいドライフライが生まれていました。
これらはマッチ・ザ・ハッチ向けではなく、「サーチ式ドライフライ」とも呼ばれ、それを使って魚の付き場所を推理しながら釣り上がっていくことを「ショットガン」と呼びます。伝統的なドライフライをヘアウイングにアレンジする程度のイミテーション性の強いものから、カワゲラともトビケラとも見えるようにファジーに作るアトラクター的なドライフライまでを使い、トラウトを誘い出しながら釣り上がっていきます。本来がウェットフライによる探り釣りとして広まったフライフィッシングなので、原点回帰したということかもしれません。映画「リバーランズスルーイット」でも紹介されている有名なスタイルです。
バスバグ
「ボブ」と呼ばれるアメリカ先住民が使っていた毛鉤の直系と言ってもい大型のドライフライです。アメリカではバスフィッシングがダントツの人気を誇るため、トラウトフィッシングとは異なる進化を遂げた、ルアーとフライの原点が色濃く残されています。ここから、水中を潜らせて再浮上させることに特化した「ダイバー」や「スライダー」などのストリーマー、バスバグのヘッドをウェットフライと融合させた「マドラーミノー」などのドライ・ウェット両用フライなどが進化してきました。
ジュラ・スタイル(CDCスタイル)
イギリス・北アメリカとは別に、1920年代のフランス・スイス国境地帯にそびえるジュラ山脈では、渓流を釣るためのアレンジで浮力の高い油脂を含むカモの尻毛CDCを使ったCDCドライフライが誕生しました。元々、この地方のスイス人の職漁師が渓流でトラウトを釣って食べるために使っていたCDCを使った毛鉤がベースであると言われていますが、英語圏のドライフライがシルエットを意識してイミテーションとして作られたのに対して、テンカラ的なドライ・ウェット兼用だったり、アトラクターとしても機能しうるのが特長です。
CDCを使ったフライは必ず名前にCDCを付ける習慣がありますが、浮力を保つために使うフロータントがCDCには適さないものが多かったため区別のためにそうなっています。日本では一部のアングラーが使っている状態から、輸出フライフックと一緒にレネ・ハロップ氏の周辺でアメリカでも大人気となり、そこから逆輸入という不思議な経路を経ています。
CDCも羽毛も獣毛も使える便利なフロータント。
パラシュート・スタイル
その後、1930年代までには「パラシュート・スタイル」と呼ばれる、ハックルをフックの軸に対して垂直ではなく水平に巻くことで、水面張力を保ちつつも水面よりも深く定位するドライフライが生まれて、表面が波立つ流れの速い川、すなわち日本の渓流のような川でも深く定位するトラウトへアピールしやすいドライフライが生まれ、日本へはアメリカンスタイルが入ってきた第一期には紹介されず、70年代へ入ってから使われるようになりました。
水中へのアピールをさらに強めるために「イマージャー」と呼ばれる水面で羽化する途中を模したドライフライも「クリンクハマー」と呼ばれる水中へボディの大部分がぶら下がるタイプのフライもパラシュート・スタイルの進化系です。日本でも「イワイイワナ」をはじめ、様々なパターンが有名です。
イエローストーン・スタイル
「ドライフライの楽園」と呼ばれるイエローストーン国立公園周辺のトラウトリバーにおいて、もっとも有名なのはアイダホ州側を流れるスネークリバー(コロンビア川支流)ですが、獣毛をウイングに使うウエスタンスタイルの極みと言ってもいいほどで、ボディにもディアヘアを使ったり、1950年代から生産が一般的になった発泡材をウイングの補助やボディに使うようになったりしつつも、全米どころか世界中からやってくるアングラーたちの影響も受けて、シビアなハッチにはキャッツキル・スタイル顔負けの超小型ミッジフックを使ったり、CDCを使って空中にある時から自然なプレゼンテーションを行ったり・・・ありとあらゆるクリエイティビティが注ぎ込まれたことが特長です。
サーモンバグ
カナダ・ニューブランズウィック州のエルマー・スミスが水面に落とした吸い終わりの葉巻をサーモンが激しくボイルしたのにヒントを得て考案したサーモン用ドライフライの代表が「ボマー」です。このフライが西海岸へ伝わり、スティールヘッドを狙うアングラーたちからより水面および水面直下のアクションを強めたものが「ウェイクフライ」と呼ばれています。
日本では保護種としてのサーモンのフライフィッシングが一般的な釣りとなっていないこともあり、存在していません。
カープバグ
アメリカが第二世界大戦で大変だった1940年代に始まった、マゴイを相手にしたフライフィッシングこと「フライ・カーピング」。その一人者であるデヴィッド・ウィットロックが考案したのが、カープ相手のドライフライの数々。バスやブルーギル用のものとも違う中でも特筆すべきはマルベリー=桑の実のイミテーションドライ。
オリジナルは染めたディアヘアを刈り込んで仕上げたものですが、フライ・カーピングが一定の人気を得た現在ではフォーム材を使ったヴィヴィッドカラーのものまで発売されています。
フォームフライ
ウエスタン・スタイルのドライフライの一つとして、高い浮力を持つ素材を求めていきついた先が発泡フォームを使ったフォームフライ。80年代後半にはクローズドセルフォームとよばれる発泡フォームがDIYショップで買えるようになったこともあり、主にバッタや甲虫などのテレストリアルを表現するために使われるようになりました。
最も有名なフォームフライは「チェルノブイリアント」。ウクライナ人が聞いたら顔をしかめるひどい名前のドライフライですが、1988年にユタのグリーンリバーのガイドたちが原型を考案してから、新しい素材が出るたびに改良を重ねて現在の形になっています。
バスフィッシングやソルトフライには、90年代にジャック・ガートサイドが「ガーグラー」と呼ばれるフォームフライを開発。バスバグとダイバーの両方の性質をもつ、アトラクター・ドライフライの一種で、一回ポップさせて注意をひいたら、魚にフライごと咥えさせることで、バスフィッシングのみならずブラウントラウトの釣りでも使われています。
日本ではセミをイミテーションした「イワイシケーダ」が有名です。
フローティングミノー
フォームフライの一種となりますが、フィッシュイーターに狙いを定めた魚型ドライフライがフローティングミノーです。
これもジャック・ガートサイドが元祖と言われていますが、先端素材が入手しやすい日本では「フローティングワカサギ」と呼ばれる、産卵が終わって弱って浮いているワカサギのイミテーションドライでブラウントラウトやアメマスが釣られています。
「イワイミノー」と呼ばれる岩井渓一郎さんが開発したイミテーションとルアーのペンシルの役割の兼用で使えるフローティングミノーはこの釣りにおける世界随一の完成形と言っても良く、スモールマウスバスやシーバスが釣られています。
湖水のドライフライ
元々、イギリスでは「ロックスタイル」と呼ばれる湖でボートフィッシングとして複数のフライを使った釣りを行う中で、ドライフライもコンビネーションに取り入れたり(ドライドロッパーやウォッシングラインの元祖)、湖面でライズするトラウトに強制的に選択させるために、すべてをドライフライにしてしまうことも行われてきた中で、ドライでもウェットでも兼用できるフライは好まれても湖水専門のドライフライはあまり発展しませんでした。
アメリカではウエスタン・スタイルの進化やパラシュート・スタイルの登場によって、より深いレンジへ定位するトラウトへドライフライをアピールすることができるようになりましたが、標高が高くない湖や貯水湖での、バンクフィッシング(岸釣り)の中でトラウト狙いにウエスタン・スタイル、小型のバスやギルを釣るためにバスバグを使うことも多く、「スティルウォーター(止水)のドライフライ」はリバーフィッシングのドライフライと同じくらいの歴史を持っています。
特に脚光を浴びたのはアメリカ西部のシェラネバダ山岳渓流のバックカントリーで行われる、主にゴールデントラウトを狙うフライフィッシングの延長で、山岳渓流の源流ともなっている非常に透き通った水をたたえる山上湖でもドライフライが楽しまれるようになる中で、標高が高い場所でもハッチする小型のトビケラやカゲロウ、テレストリアルを中心にした、マッチ・ザ・ハッチを強く意識したドライフライが使われるようになりました。
英語圏同士での北米とイギリスとの交流は日常的であり、著名フライフィッシャーでフライタイングのための昆虫学を広めたのジョン・ゴダードの代表的なイミテーション・ドライフライ「ゴダード・カディス」は北米のディアヘアパターンを取り入れつつ、イギリスに多い標高の低い貯水湖でトビケラが大量にハッチする中でも浮き続けてヒットする確率を高めています。
日本でも湖のドライフライの釣りはボートフィッシングでもバンクフィッシングでも楽しまれており、ユスリカやモンカゲロウといった水棲昆虫だけでなく、ケバエ・ハルゼミや甲虫といったテレストリアル、さらにはワカサギや稚マスといった小魚のイミテーションまで幅広く使われていますが、魚の付き場所の深さと透明度の高さで誤魔化しが効きづらいことからマッチ・ザ・ハッチ主体といえます。
まとめと続き
ドライフライは世界中に様々なパターンや釣り方が存在し、TFFCCメンバー内の交流や私のアメリカ・イギリス在住経験を通じて比較的広範囲をカバーしたつもりですが、南米や南アフリカ、オーストラリアなどのシーンはカバーできていないので、今後新しい発見を加えて更新していきます。
また、来年(2025年)は、私エド吉田がドライフライのトラウトフィッシングをキャッツキルで始めてから30年目の節目であることもあり、自分自身のアレンジパターンを活用しつつ、フライフィッシングの顔といってもいいドライフライの釣りを捉え直す貴重な機会だと思っています。キャストからストライクまで全てがトップウォーターで完結するドライフライのエキサイティングな釣り味は他に比較するものが無い世界であると同時に、サイトフィッシングのためのマッチ・ザ・ハッチか、ブラインドフィッシングのためのショットガンや誘い出しなど、フライ選びとプレゼンテーション方法を異なる魚に試すことで非常に奥が深いものともなっています。
次回は「虫パターン」に限らないマッチ・ザ・ハッチとショットガンそれぞれを紹介しようと思います。
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