マイクロ・スカジットという選択肢 パート2 -「スイッチハンド」の到来
ここ15年ほどの間、両手でも片手でも自由にロッド操作して釣るためのスイッチロッド、というコンセプトは川や湖だけでなくソルトウォーターでも試行錯誤されてきました。初めの頃は「シングルハンドにハンドル増やしただけ」「結局長さが短いだけのツーハンド」という完成度が低いタックルという不当な評価がされていましたが、ヨーロッパにおけるロックスタイルやユーロニンフのためのロングロッドへの需要や、スカジットシステムを愛用する熱狂的なスティールヘッダーたちの実践的なロッド改造やライン改造に支えられて(付け足し:ゴルフのおかげでもありますね)、グラファイトロッドの素材と設計はひたすら進歩を続けてきました。
これと並行して、直感的なラインコントロールや魚とのやり取りを楽しめるロッドを求める声はユーロニンフやスティールヘッダーの世界だけでなく、一般的なウェットフライやサーモンフィッシング、ボーンフィッシュのサイトフィッシングなどのアングラーたちからも上がるようになり、ロッドの軽量化やバランスの見直しと並行して、その性能を最大限引き出すために、フライリールの軽量化とドラグ強化も行われてきました。2018-2019年は一つのピークだったのでは無いでしょうか。
そして2020年。ロングロッドなのに軽量、さらに高反発でパワフルなキャストができるロッドが出揃ってきたこと。軽量でハイパフォーマンスなフライリール。コンパクトだけどパワフルなラインシステム。この3つが合わさってついに「スイッチハンド」と呼んでも良いと思える新たなフライフィッシングのツールが見えてきたと思います。前回の北海道ツアーで実際にスイッチハンド4番タックルを使い倒しつつ、軽量化&戦闘力強化を行ったツーハンド6番タックルを使ったスイッチハンドの釣りのレポートです。
「スイッチハンド」4番をスカジットおよびスカンジショートSHで徹底的に釣ってみる
OPSTのMicro Skagitシリーズには3、4、5番の「真のスイッチロッド」が揃っています。すなわち指定番手であればシングルハンド用のラインも低番手ツーハンド用ラインも使えるので、ウェットフライだけでなく、ドライフライやニンフの釣りもできます。シングルハンドとしてはライト、ツーハンドとしてはウルトラライトなので、キャストした直後のプレゼンテーションから片手だけでロングロッド操作できます。初めから「スイッチハンド」用途に設計されている所以です。
今回の北海道ツアーでは、Micro Skagit 10フィート4番ロッド(125g) のパフォーマンスを活かすためにカウンターバランスの良いNautilus FW5 フライリール(ライン込みのフルロードで165g)を組み合わせてタックル総重量が300gを切るようにしました。フィールドには基本的にスカジットとスカンジ両方を携帯してシチュエーションに応じて使い分けました。スカジットはOPST コマンドヘッド&ティップ交換。スカンジはScientific Anglers Atlantic SalmonショートSH(シングルハンド)の4/5Fです。
ロッドの特性について前回のレポートをご覧ください:
湖のような止水・・・スカジット=スカンジ
すでにシングルハンド3番にOPST コマンドヘッド(スカジット)をセットしたタックルを中禅寺湖で「ツーハンドロッドの脇差」として使ってイマージャーやマッチザハッチの釣りで良い結果を出していましたが、川幅が広く流れがゆったりした静内川の止水のようなポイントで同様な釣りに使ってみました。この日はバックスペースが無いポイントで、小さいトラウトのディンプル・ライズ攻略が目的。
ツーハンドでキャストするのでシングルハンドよりも体に楽かつ余計な動作が少ないまま必要な距離がキャストできます。ターンオーバーする前に片手持ちしておいて必要に応じて着水前・着水後メンディングを加えられます。
はじめに20-25mくらいの場所でライズする小さなブラウントラウトに対しては、スカジット+フロートティップがドライフライもウェットも安定した距離を楽に出せました。ほとんどウェーディングしていない状態でも手返しよくスパッと打てるので中禅寺湖と同じ要領で魚へプレッシャーをかけずにテンポよく釣っていけます。
より警戒心が強いエゾイワナへ小さいユスリカ・ウェットを15-25m先へ丁寧にゆっくりとプレゼンテーションしたい場合ではスカンジショートにロングリーダーがベストでした。その代わり、バックスペースがスカジットよりも必要になるので場所や角度を選びます。先に岸際でライズする魚たちをシングルハンドで岸と並行にオーバーヘッドキャストして丁寧に釣っておいてから、少しウェーディングしてスペースを作ってから、ツーハンドで水面にラインを置いてタッチ&ゴーしてゆっくりと流れる場所をスイングさせる段取りになります。奥日光に置き換えるならば、イワナの仲間であるブルックトラウト を狙う湯ノ湖などはこちらの方が良いと思います。
里川・・・スカジット=スカンジ
深みがあるポイントが長く続くわけでは無い里川ではシンクティップを使う場面があまり無いので、スカジットの場合はフロートティップのままでショットで沈み方を調整する方が手返しよく釣りを運べます。
底をしっかり流すためにショットを重くしても、スカジットはキャスティングのストロークを変えなくても手返しよく打ち直せるので非常に楽でした。同じことをスカンジショートでやろうとするとキャスティング調整を意識しないとターンオーバーに問題が出てきます。ニンフ的な使い方ではスカジットに軍配が上がりました。
反面、変化が多いスポットでは浅いところへターンオーバーさせてからその下の流れへ沈ませたり、沈み岩の脇ギリギリを流したりする場面になると、重たいショットでフライを馴染ませるよりも、メンディングを繰り返して(スタック・メンディング)ティップをコントロールしながら流れへフライを入れていく方が自然に流せるし効率的です。
こうなると初めからティップとボティが一体化しているスカンジショートの方がラインコントロールしやすく、さらにドライフライやニンフのドリフトの釣りをしたり、ウェットの逆引きもコントロールしやすい分、使い勝手はスカンジショートに軍配が上がりました。
渓流・・・スカンジ>スカジット
変化に富んだ渓流ではスカンジショートじゃ無いと釣りきれないだろうと最初は思いましたが、瀬は圧倒的にスカンジが釣りやすくても、大岩が入っている場所や流れのカーブが深くえぐれている場所が点在する渓流では、重たいショットで底波へフライを入れて同じ深さを流さないと魚が出ないケースもあるので、スカジットが役立つケースがあります。
今回はしっかり沈める場所にイワナが居ないニジマスオンリーの渓流しか釣っていないので、小さなドライフライも扱いやすいスカンジショートが大活躍でしたが、そうでない場合にもスカジットも活躍できる場面はあると思います。堰堤や滝、深い落ち込みがある場合は、スカジットを使って重たいフライを打ち込む方が手返しよく釣れるでしょう。
源流・・・スカンジの独壇場
本州では源流や小渓流を釣ることが多々あります。北海道・知床には細々と流れる海そばの小渓流がありますが、良く似た環境なのでシュミレーションを意識して釣ってみました。上が完全に樹木で覆われていなければ、釣り上がりしながらフォルス無しのオーバーヘッドキャストやジャンプロールキャストでフライが打てる環境です。
スカジットのシステムはパワフル過ぎてコントロールしづらい上に魚がスプークしてしまうので、100%スカンジショートが活躍する場面でした。ロングロッドの利点を活かして、長いティペットによるドライフライのナチュラルドリフトや小さなウェットの逆引きにおいてコントロール良く打ち返せるので手返しが良かったです。
小さめの本流・・・スカジット>スカンジ
川幅が20mあるか無いかの小さい本流では、攻めるポイントにもよりますが、ティップ交換しながら釣っていかないと狙った水深へ立体的にフライを流していけません。渋い時に1匹どうしても釣りたい場合や、数釣りしたい場合は半径3m刻みで小まめにスイングする必要があるので、ポリリーダーも良いですが自作の3-4ftといったショートティップもあると便利。
「セコ釣り」って言われるかもしれませんが、クイックな反復作業で釣り下って行くことでフライを魚の目の前に流す絶対数が増えます。
しかし、水面がなだらかで底まで見えるクリアーな川の場合は、着水から意識して決めた層を同じ速度でじっくりとスイングさせた方がいい時もあります。この場合はリーダーシステムが長いスカンジショートの方が流しやすいです。
とてもフィネスな釣りが展開できますが、OPST Micro Skagitは小型のニジマスやヤマメ・イワナ向けに作られているので、35cmサイズのニジマスでもかなりスリリングなやり取りとなります。40cmクラス以上の魚ともなると伸縮式のランディングネットを持っていないとランディングに苦労することになります。こういう場所ではPure Skagit6番のようなショートスペイやSAGEやRedington、G.Loomisなどが出している普通のトラウトスペイ・タックルがあれば便利だと思いました。
本流・・・スイッチハンド的にツーハンド6番を使うスカジット
さすがに本格的な本流ともなるとマイクロスカジットの出番がありません。私の手持ちでスイッチハンド的に使えるのはBeulah 12’6" 6番ロッドだけですので、カヤックからの釣りに使おうとシングルハンド8番向けにスカジットをセットしておいたフライリールをそのまま流用してみました。Beaulah 12’6" 6番ロッド 225g + Nautilus X フライリール 180g (ライン込み)は総重量405gで右肩が悪い私でもめちゃくちゃ快適です。
10フィートロッドの小回りにはかないませんが、シュートしたらそのまま片手でロッド操作に入れるので、対岸ギリギリにフライを落としてから素早くメンディングするなり、あまりウェーディングしないで良いので魚たちへプレッシャーがかかりづらかったり・・・。普段はスカンジばかり使っていましたが、これは快感のレベルで快適に釣りが進められます!
リールの重量を減らすことでバランスはロッドティップ・ヘビーになりますが、フライまでテンションが張ったウェットの釣りなのでロッド本来のアクションが鮮明になり、スイング中もティップの感触が分かりやすく伝わってくるので釣りやすいし、アタリが出た時もエキサイティングです。
余談ですが、フライリールはシューティングラインに合ったものを使いましょう。シュートの後で大きくライン操作を行うと、特にモノフィラのシューティングラインは滑りが良いのでリールのボディフレームに隙間があると入り込んでしまいます。Nautilus Xはオープンフレームなので特にこれが顕著で気づくとすごいことになってしまいました・・・。
でも最大ドラグ2.5kgのパワーは、とある釣り場で釣れてしまったナイスフィッシュを最短でキャッチ&リリースする時には非常に助かりました。同様な軽量・ラージアーバー・高ドラグ性能のフライリールでクローズド気味のものを選ぶとすると、Ross Evolution RやLTX、Hardy MTXやLamson-Waterworksのリールならばぴったりだと思います。完全にクローズドフレームでは最軽量はHardy Ultradisc UDLAが一押しです。
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スイッチハンドの効能
シングルハンド・ロッドでは当たり前のことがツーハンド・ロッドでも楽にできるだけでなく、より長い「ロングロッド」として片手で操作することでメンディングやテンション維持しやすく、ロッドティップからのダイレクト感度の高さがスイッチハンドの効能だと思いますが、では具体的にどれくらい定量的に釣果に結びついたか、同じ川&単日のベスト釣果を並べてみます。
- イワナ&ブラウントラウト・・・20匹/日(正味3時間ほど)
- ヤマメ・・・30匹/日 (正味3時間ほど)
- ニジマス・・・50匹/日 (3回に分けて)
- オショロコマ・・・100匹/日 ※尺を取りたかったので・・・乱獲すべきではないと反省しています
コントロール性能が良いのでプレゼンテーションがし易いからたくさん流せる。ロッドティップからのダイレクト感覚のおかげでラインにかかる負荷や魚のアタリも分かりやすい。「投げる」だけじゃなくて「釣る」が欲しいアングラーが本来求めるべき性能だと思います。
定性的な釣りメモリーを振り返ってみても、いろいろな良い魚もキャッチできました。
スイッチハンドの条件
ということでOPSTの使いやすいスイッチハンド・ロッドが出たことがきっかけで、ツーハンドも軽量化することでより繊細でコントロールしやすい釣りが楽しめると気づかされました。長くスカジットのシステムを使い続けながらタックルを軽量化してきた人たちは「いきなりスイッチロッド」を使っていたのではなく、ツーハンドでキャストできるけど取り回しの良いギリギリのロッドの長さに落ち着いたのだと思います。
- ロッドのスペック ・・・ロングロッドとして使える軽量なツーハンドロッド、軽ければ軽いに越したことはない
- ロッドアクション・・・スカジットもスカンジも投げやすいミディアムーミディアムファースト
- ロッドティップ・・・ティップの感度が良いこと、良いカーボンであればあるに越したことはない
- リールの重量 ・・・ティップ・ヘビーにするために可能な限り軽く、できればロッド重量より軽いこと
- リールの直径・・・ロッドワークのバランスを最適にするため、大きすぎず小さすぎないこと
- リールの巻き取り・・・ラージアーバーで次の行動へ移るのが速い方がいい
今回4番タックルが総重量290g、6番タックルが総重量405gでした。さらに8/9番タックルを総重量442gに組めたのでスイッチハンド効果を試してきたいと思います。
まとめと続き
片手でロッドワークをする段取りの中で、どんな点が良かったか並べてみます。
- キャスト直前
- アプローチ中のラインの引き出しが楽
- シューティングヘッドの振り出しが速い
- ロッドティップへのライン絡みの解消が素早くできる
- キャスト動作中
- アンカーの効き具合やDループのロードが分かりやすい
- オフショルダーでのキャストが楽
- オーバーヘッドもループのロードが分かりやすく快適
- 片手でのキャストもやりやすい
- シュート直後
- シュートしたらすぐに片手持ちで次の動作のスタンバイができる
- 着水前に空中でメンディングしやすい
- 着水直後に大きなメンディングが入れやすい
- 着水直後からのリトリーブ体勢に入れる
- プレゼンテーション中
- スタック・メンディングがしやすい
- リトリーブがやりやすい
- ターン調整がしやすい
- ラインへのテンションが良く伝わる
- シューティングラインを水面から剥がした高上げが楽
- ストラク&フックセット
- 小さい魚やショートバイトでも感度が良い
- 感度が良いのでフックセットの判断がしやすい
- ファイト&ランディング
- ロッドファイト、リールファイトの切り替えが楽
- 感度が良いので魚の動きが判断しやすい
- キャッチ&リリース
- 全体の重量が軽いので脇に挟んだまま魚をハンドリングする作業がしやすい
- 両手を使いたければ股の間に挟んでおける
「取り回し」が快適になるということはロッドワークがやりやすくなるということで、すでにスキルが身についているベテランはさらにロッドワークが向上し、不安定な初心者は上達を早め、体力が落ちた人も補完してもらえる、ということだと思います。
シングルハンド・スカジット、マイクロ・スカジットからの学びを高番手の釣りへ応用したケーススタディはこちら:
タックルデータ
スイッチハンド4番
- 総重量:290g
- ロッド:OPST Micro Skagit 10’0" 4番 (125g)
- リール:Nautilus FW5 (165g、最大ドラグ0.75kg) ・・・あと40gカットする余地あり
- スカジット・ボディ:Commando Head 175GR
- スカジット・ティップ:自作フロートティップ、RIO 3D Mow
- スカンジ:Scientific Anglers Atlantic Salmon Short SH 4/5F
「スイッチハンド的な」ツーハンド6番
- 総重量:405g/410g
- ロッド:Beulah Platinum Spey 12’6" 6番 (225g)
- リール(臨時):Nautilus X (180g, 最大ドラグ2.5kg)
- リール:Ross Evolution LTX (190g, 最大ドラグ2kg)
- スカジット・ボディ:Commando Head 325GR
- スカジット・ティップ:自作フロートティップ、Commando Tip、RIO 3D Mow
- スカンジ: RIO Scandi 400GR
参考までに・・・
「スイッチハンド的な」ツーハンド8/9番
- 総重量:442g
- ロッド:Beulah G2 Platinum Spey 13’8" 8/9番 (225g)
- リール:Hardy MTX-S 7000 (217g, 最大ドラグ 2kg)
- スカジット・ボディ:Commando Head 450GR
- スカジット・ティップ:自作フロートティップ、Commando Tip
「スイッチハンド辛い」ツーハンド8/9番
ツーハンドのまま取り回すのであれば、これで問題ありません。
- 総重量:587g
- ロッド:Beulah G2 Platinum Spey 13’8" 8/9番 (225g)
- リール:Tibor Riptide (362g, 最大ドラグ 4kg)
- スカジット・ボディ:Commando Head 450GR
- スカジット・ティップ:自作フロートティップ、Commando Tip
「スイッチハンド辛い」ツーハンド10/11番
昔、体力が溢れていた時は、これを片手で振りつつオフショアやサーフ、南国フラットで頑張ってました・・・。
- 総重量:671g
- ロッド:G.Loomis Cross Current 11’3" 10/11番 : 255g
- リール:Ross Momentum 6 (416g、最大ドラグ 3.5kg)