ウェットフライのすすめ:基本編 – フライの使い分け

2024/11/18ウェットフライ,サーモンフライ,フライパターン,フライフィッシング

フライフィッシングで広い範囲を探りながら臨機応変に釣ることに最も適したのがウェットフライの釣りです。初めて行くフィールドでどこに魚が着いているのかをじっくり探ることにも使えれば、見定めたレーンから魚を誘い出したり、狙ったX地点から逆算してピンポイントにフライを入れてナチュラルに食わせることも反射食いさせることもできる面白さがあります。

流し方や狙うレンジ、水流の条件などに合わせて使うウェットフライを選ぶ必要がありますが、ここでは基本的なフライ選択をカバーします。

自分の上流からサイド、さらには真下まで流し切れるのはウェットフライの強み

基本シャーシから各種ウェットフライやドライフライになる

立派なウイングや派手な配色を持つものがウェットフライと思われることが多いですが、本来イギリスでは「スパイダー」と呼ばれるソフトハックルも日本のテンカラ毛鉤も、川虫を真似たイミテーション・フライとしての基本型は一緒です。

フライフィッシングの場合、水流や表面張力を利用してフライを流すレンジをコントロールするために発展型が多くあり、ウイングやハックルなどの素材を使い分けて「〇〇ウイング・ウェットフライ」や「ドライフライ」となります。

反対に沈めることに特化するため、フライ自体にワイヤーでウェイトを巻き込んだり、金属製の重たいビーズをつけることで「ニンフ」となります。

ヒラタカゲロウのイミテーションフライ「マーチブラウン」を例にとると、シャーシは全く同じでさまざまなスタイルの「マーチブラウン」フライが作られています。

ソフトハックル:マーチブラウン スパイダー

ナチュラルドリフト・・・☆☆☆☆☆
コントロールドリフト・・・☆☆☆
スイング・・・☆☆
ターン・・・☆☆☆
ホバー・・・☆☆

姿勢制御のためのフェザー・テール、虫っぽいダビング・ボディ、昆虫の節を表現しつつ耐久性を高めるためのワイヤー・リブ、生命感を表現するために水中で柔らかく動くパートリッジの胸毛のみで構成された、カゲロウのイミテーション目的以外の余計なものが一切ついていない原始的なウェットフライです。

ノーザンスパイダーまたはヨークシャーフライとも呼ばれる最もベーシックな形ですが、フライ自体のアクションが弱いため、アピールには欠けつつも警戒されづらいスタイルです。

フェザーウイング・ウェットフライ:ノースカントリー・マーチブラウン

イングランド北部に多い流れの速い小河川を釣り上がるためにパートリッジのテールフェザーのウイングが乗った原始的ウェットフライ

ナチュラルドリフト・・・☆☆☆☆☆
コントロールドリフト・・・☆☆☆
スイング・・・☆☆☆
ターン・・・☆☆☆
ホバー・・・☆☆☆☆☆

ソフトハックルのままではフック自重で沈んでいってしまうこと、水流を受けるパーツが一切無いために回転してしまったり浅いレンジをキープしづらいため、何かしらのフェザー(胸や首周り、尾羽)をウイングとして使ったものがフェザーウイングのウェットフライとなります。

浅いレンジで特定のレーンをナチュラルドリフトさせたり水流の中でホバーさせやすく、必要であればウイングにフロータントを塗れば水面直下に張り付かせることもできるため、ライズの釣りに最も使いやすい形でもあるのでアップストリームを釣りやすく、この形状からドライフライが生まれたのではないかとも言われています(諸説あり)。

クイルウイング・ウェットフライ:マーチブラウン

ナチュラルドリフト・・・☆☆☆
コントロールドリフト・・・☆☆☆☆☆
スイング・・・☆☆☆☆☆
ターン・・・☆☆☆☆
ホバー・・・☆☆☆

フェザーウィングがナチュラルドリフトやホバー性能に優れるのに対して、固いウイングが水流をしっかりと受けることでドリフト速度をコントロールしたり、深めのレンジをキープしたり、水中でのアクション性を高めたのが張りがある翼の部分の羽根を使ったクイルウイングのウェットフライとなります。

サーチフィッシング向きですが、一旦沈めて流れをスイングさせて誘い出す性能は素晴らしく、アピール性を高めるためにボディーやウイングのアトラクター効果を高めることでルアー的なウェットフライとなります。

ドライフライ:マーチブラウン・イングリッシュ

初期型はタールノットのためのスペースをフックアイの後ろに残す

ナチュラルドリフト・・・☆☆☆☆☆
コントロールドリフト・・・☆
スイング・・・☆
ターン・・・☆
ホバー・・・☆☆☆☆☆

ウェットフライではなく、水面に載せて流すドライフライ用に設計された細軸で軽量のフライフックを使い、太いワイヤーなど余計なウェイトを減らしつつ、表面張力を増すために水を弾く張りがあるコックハックルを使い、魚が下から見た時には「亜成虫」や「成虫」に見えるためのウイングをアップライトに取り付けると・・・ドライフライの原型となります。

イギリスで生まれたドライフライはウェットフライの名残を強く残し、パートリッジを使っているので「マーチブラウン・イングリッシュ」と区別されますが、アメリカではドライフライありきで、パートリッジを使わずにグリズリーカラーのコックハックルを使うと、マーチブラウン・アメリカン・ドライフライとなってキャッツキルで良く使われるドライフライとなります。

ニンフ:マーチブラウン・ビーズヘッドニンフ

スローシンキングのためにブラスビーズを使ったニンフ

ナチュラルドリフト・・・☆☆☆
コントロールドリフト・・・☆☆☆☆☆
スイング・・・☆☆☆
ターン・・・☆☆☆
ホバー・・・☆☆☆

下巻きに太いワイヤーを使ったり、ビーズヘッドを付けることで、ソフトハックルのコントロール性能を向上させ、流れの中での水中ドリフトや止水で狙ったレンジまで素早く沈ませることに特化するとニンフとなります。

ウェットフライとは違い、広く探るよりも特定のレーンやレンジだけを流したりピンポイントを狙うことに優れていますが、強い流れの中でも狙ったレンジでホバーさせやすいのでソフトハックルの特長も生かせるパターンです。

ジグニンフ:マーチブラウン・ジグニンフ

ファーストシンキングのためのタングステンビーズとキール形状が特徴的

ナチュラルドリフト・・・☆☆
コントロールドリフト・・・☆☆☆☆☆
スイング・・・☆☆☆☆
ターン・・・☆☆☆
ホバー・・・☆

ビーズヘッドニンフがさらに進化したのが、競技用に強制沈降するようにアレンジされたジグニンフです。

自重が大きいのでパートリッジよりも水中の誘いが強いCDCなどを使える点、タグやホットスポットもUVカラーのスレッドを使ったり「点としてのアピール」に特化されており、ニンフの完成型といえる形状です。

フィールドの条件やプレゼンテーションの必要性に合わせてウェットフライのパターンやアレンジを選ぶ

本流のセッジ=カディスの釣りで使い分けるヒゲナガ対策の名鉤ピーコッククイーンと普通サイズ対策の大型ソフトハックル

日中の「虫パターン」としてのイミテーションに強いカゲロウ系のウェットフライだけでなく、特定のシーズンや場所ではカディス系やユスリカ系などを使い分けたり、アトラクターで勝負することが必要な場面もあります。ドロッパー(先端のリードフライだけでなく、枝針として結ぶフライ)で組み合わせることで、リードフライを狙ったレンジをキープするために水流を受けるアンカーとして流しつつ、ドロッパーは浅いレンジを探ったり、そのシチュエーションで何が効くかを確かめたりもできます。

また、川はどこでも同じように流れている訳ではなく、魚の着き方や性格も異なるので、同じウェットフライのパーツを調整して使いやすいようにアレンジすることも釣るためには必要になります。

実はウェットフライではなく小型サーモンフライの「ダンケルド」もボディのボリュームやチークの付け方などで泳ぎ方が変わってくる

流れが緩い場所や止水ではウイングの効果は限定的になるので、ソフトハックルやファンシーフライ、バンブル、ダブラーといったシンプルなウェットフライが活躍します。

早期の山上湖やエリアでも通年ハッチするユスリカ対策のソフトハックルの一種
アイルランド発祥、湖の中でサスペンドさせて誘うダブラー:アイリッシュ・クラレットダブラー

まとめと続き

ジョージ・ケルソンの時代に始まり今でもカナダで現役のサーモンフライ「グリーンハイランダー」

川や湖において水中のレーンやレンジを広く探るために発展した「食わせ」もできれば「誘い」もできるウェットフライ。これの応用で虫パターンだけでなくベイトフィッシュ・パターンを狙うとストリーマーとなり、大型のアトラクターとしてサーモンやシートラウト、スティールヘッドに特化したものがサーモンフライとなった経緯があります。

今ではフライフィッシングのフィールドも川や湖だけでなく、トラウト系の魚を海岸で狙うこともある時代。でもルーツであるウェットフライの基本さえしっかりしていれば、アウェーゲームだろうが、南国の珊瑚礁だろうが、流れを活用したフライフィッシングで釣ることに躊躇しないで良くなります。

そのためにも大事なのはフライタイング!目的にあったバイスやツールを使うことや、マテリアル扱いに慣れることでフライの使い分けやアレンジも楽になっていきます。

詳細はTFFCCメンバーにお気兼ねなくご相談ください。

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