2020年末「フライタイングについて」アンケート結果発表(更新)
フライフィッシングでとても重要なパートである「フライ」。いくらスポーツとしての心技を磨いたとしても相手が魚であり、フライに針がついている以上、ここを軽んじてしまっては魚が釣れないだけでなく、「こんな面白いもので魚が釣れるんだ!」という擬似餌釣り本来の興味喚起や感動を与えることはできないでしょう。
TFFCCが過去に参加したイベントでフライフィッシングに関わるいろんな要素を展示&デモした時も、最も年齢や性別を問わず、会場ブースでお客さんが足を停めたのもマーティンが実演タイングしていたフライでした。
そんな経験が背景にありますが、北は北海道、南は沖縄からアクセスのある本サイトなので、みなさんがどんなフライを巻いていて、どんな課題を抱えているのかを浮き彫りにすべくアンケートを実施しました。集計だけでなく、少しインサイトを交えたレポートです。(良いインサイトをいただけたら、補足修正します)
- 集計期間:2020年12月11日〜12月31日
- アンケート記事ページ訪問ユーザーにおける回答率:31%
現在ご自身でフライを巻いていますか?
矛盾する回答をスクリーニングするために設問しましたが、無事に回答者全員が「はい」でした。
残念ながら期間が短かったため、回答しやすいようにプロフィール設問は置きませんでした。
直近12ヶ月で巻いたフライの種類
マッチザハッチに重要な「ドライフライ」「ニンフやイマージャー」は合わせて35ポイントとダントツの結果でした。これだけを見て「ああ、やっぱり日本はドライフライとニンフが中心の国なのだ」と思ってしまうといけないので、「釣り方」という切り口から分析を加えていきます。
まずマッチザベイト全般のためのフライに拡大すると「スカッドやシュリンプ」「クレーフィッシュやクラブフライ」が加わるので50ポイントとなりますが、ストリッピングもしくはスイングで釣るフライを合計すると47ポイント、ペンシルやポッパーなど何らかの積極的なアクションさせるフライを合計するとなんと55ポイントになります。
- マッチザハッチ用のフライ・・・35ポイント
- マッチザベイト用のフライ・・・50ポイント
- ストリッピング&スイング用のフライ・・・45ポイント
- アクションさせて釣るフライ・・・55ポイント
「ドライだウェットだ」「ミッジだビッグフライだ」という従来のフライの形に囚われると見えませんが、アクションさせて釣るフライと食わせて釣るフライはほぼ同じくらい巻かれていることになります。元々イギリスではアクションさせて釣るフライ全般を「ルアー」とも呼んでいましたので、彼の地よりも遥かに魚種が豊富な日本ではもっといろんなバラエティーのルアー=フライが生まれていいのかもしれません。
既成概念さえ無くせばルアー以上のポテンシャル
トラウトはアクションの釣りも食わせの釣りもできる幅が広い魚種なので人気が高いわけですが、バスやナマズ、ロックフィッシュもトラウトほどではないにしても両方の釣りが成立しますし、マッチザベイトでしか釣れないコイやクロダイ、メジナといった魚もいれば、アクションしないと釣れないシーバスやトレバリー、カツオやシイラといった魚たちもいるので既成概念に捉われなければフライが活躍できるフィールドはルアー以上になるポテンシャルがあると言えます。
フライを巻く時にストレスに感じること
「さあ、巻くぞ!」「マテリアルを買いに行くべ!」と思った時にモチベーションを下げてしまう要素についてですが、自由回答から非常に面白い回答オプション「大量のマテリアルの置き場所」が提案されて17ポイントでトップ回答になりました。
整理整頓の本を読んでから気付きましたが、「置き場所」というのは「すぐ出せる場所への収納」という意味と「タイング中の置き場所=タイングベンチの整理」という意味があると同時に、「置けない」場合は当然のことながら「奥地へ保管」となり、これが捨てられない場合はゴミ屋敷ならぬマテリアル屋敷になってしまうわけです。フライマテリアルを物理的&心理的に管理するシステムに工夫が必要な事は明らかです。所有欲に縛られてフライが巻けなくなってしまっては本末転倒。
さらにこれに続く回答が「マテリアルの品質」の15ポイントであることを踏まえると、「良い品質の欲しいマテリアルが手に入りづらいから、買える時に買っておく=>重複する・偏ったマテリアルが増える=>収納場所に困る=>巻く気力がなくなる」という悪循環が想像されるところです。マテリアル関連だけで38ポイントです。ちなみに今回はマテリアルから「フック」を分けなかったのでマテリアルの中にはこれも含まれています。
- マテリアルによるストレス・・・38ポイント
- スレッドワークにおけるストレス・・・29ポイント
なぜマテリアル扱いがストレスになるのか?
TFFCCメンバーでYouTuberをやっているスコットランド人のマーティン(実は有名プロタイヤー、デイヴィー・マクフェイルの教え子)の部屋には大量のマテリアルボックスやフック容器が積まれていますが、元々良い先生についてマテリアルを見分けるスキルが身についていることもありますが、いろいろなフライに興味を持ち続けながら欲しいマテリアルを海外から入手することに手間を惜しまないので全く苦にならないそうです。モチベーションが高ければ、必要なマテリアルはいくらあっても困らない、という典型例でしょう。
スレッドワークにもストレス要素が
「スレッド」や「シザーズ」、「ダビングループ」や「ボビン」といった、スレッドワークのために必須のマテリアルやツールをストレスに思う回答は総合すると29ポイントにもなりますが、スレッドとボビンという基本中の基本だけで15ポイントもあることは、マテリアル扱いもさることながら、「快適なスレッドワークによる生産性」というものがフライを巻くモチベーションに繋がるのは確実です。初心者の方の場合はスレッドワークで壁にぶつかるとそれだけ学習が遅れるので、ここを少しでも減らすことが上達の要では無いでしょうか。
ちなみに今はいろんな種類のスレッドやボビンホルダーが販売されていますが、私が今まで出会ったタイヤーの中でもフライを巻く量が段違いに多い方達のスレッドワークのスタイルを大きく分けると
- 高いテンションを維持したまま、ピンスポットを狙う時は伸びの無い初めから細く、締め具合や緩め具合が直感的に分かるスレッド&ボビン
- 少し伸びがあった状態で、ピンスポットを狙う時は伸ばして細くして、切りたい時はパツンと引っ張って切れるスレッド&ボビン
これはフライロッドのアクションの好みとも似ているのかもしれませんが、最先端・軽量・高反発カーボンファイバーのダイレクト性の高いアクションを好む方とクラシックな少し間があるアクションを好む方の分かれ方に近い気がします。最先端を選ぶなら、ダイレクト感MAXでスレッドワークするためにGSPスレッドとテンション調整機能のついたボビンホルダーが必須になります。
マテリアルを調達したことがある場所
新型コロナ「新しい日常」やオンライン・ショッピングの爆発的な成長という環境下にあるにも関わらず、「最寄りフライショップ 」を選ぶ方が25ポイントという結果になりました。やはりマテリアルを選ぶ・買うという大切な行為で期待が大きいのは実物を確かめられる環境があることで、また人との出会いを通じて新しい知識を得ることが大きいと思われます。
次点の「専門オンラインショップ」が一定数に止まるのも、初めから指名買いするマテリアルならまだしも、マテリアルの品質への不安や新しいマテリアルに対する情報を入手したいという気持ちの現れだと言えます。
専門店以外のマテリアル
店舗・オンライン、国内国外の別なく総合すると専門小売店での調達が41ポイントですが、そうでない無関係の小売店だけ総合しても37ポイント。自分自身が調達元を持っているケースも10ポイントもあります。「フライタイング」という枠内で深さを求める人もいれば、「ものつくり」のレベルへ(本気でお金を使いたくないなら、スポーツフィッシング自体を辞めてしまえば労働時間を増やしてもっとお金稼げますから・・・)進んで幅広いマテリアルを見つけ出そうとするケースもあるということは、いかにクリエイティビティーを刺激し続けるかが大事だということでしょう。
こんなマテリアルも・・・
ちなみに「別れた女房との思い出が詰まったカセットテープ」という危険なマテリアルをウイングケースに使っている方もいらっしゃるようです。「自宅から調達」へ集計しましたが、魚だけでなくパートナーもキャッチ&リリースとはある意味でフライフィッシャーのお手本なのかもしれません。昔、観光地へ行くと「マリリン・モンローの汗」と書かれた怪しい瓶が売られてたりしましたが、この「呪いのカセットテープ」もどこかのフライショップで売られていたらどうしよう・・・。
マテリアルワークとスレッドワークのスキル
マテリアル扱いが平均以上と回答された方が61%に対してスレッドワークが平均以上と回答された方も61%。比較的タイング経験豊富な方達が回答されているので当然ですが、マテリアルワークとスレッドワークは関連性が高く、両方を高めていくことが苦手意識があるビギナーの方も、ある程度経験を積んだ日曜タイヤーの方も上達への要であると言えます。
しかしマテリアルワークは「プロ」と回答された方が6%担保されているのに対して、スレッドワークで「プロ」と回答された方はなんと0%!スレッドワークの頂点を築くことも全体のレベルアップに必須だと言えるかもしれません。
まとめと続き
この結果はいかがだったでしょうか?何か発見があれば嬉しい限りです。
人は良いマテリアルを探し求め、扱い方を学び、フライフックやチューブ・シャンクにスレッドで固定し、ボビンハンドとフリーハンドで愛するサカナ(生物としての魚と観賞客)のための捧げ物を巻いていく・・・しかしストレスも無視できず整理整頓、生産性向上を追い求め、足りないものや心の拠り所を求めてフライショップへと走る・・・。時間がない場合はオンラインショップをじっくり眺め、悩みながらポチり、帰宅する度に玄関や宅配ボックスにマテリアルさんがやって来たかどうかドキドキする・・・。
それはまるで親からもらった100円玉を握り締め駄菓子屋と向かう少年たちや毎月届く学研を楽しみにしていた少女たちの心のようです。いつまでも純粋な心を忘れずに・・・でもフックが床に落ちていると危険なので掃除はちゃんとしようね?
フライフィッシングとはフライ+フィッシング。自宅でも楽しめる「フライ」、観賞用としても強力なアピール力のある「フライ」、指先や頭をよく使うのでボケ防止にも最適な「フライ」。フィールドまで出てこない人たち(そこからしか新人は来ないです)との接点を持つことができる貴重な部分なので、ここを盛り上げることがフライフィッシングへの入り口を大きく広げてくれるのではないでしょうか。
皆様の百花繚乱、星の数ほどのフライ・毛鉤が輝く1年でありますように。東京フライフィシング&カントリークラブ一同、今年もゆるやかかつ丁寧に皆様と歩んでいきたいと願っております。
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