ドライフライのすすめ: リバーフィッシング編 – ショットガン、ライズ撃ち、マッチ・ザ・ハッチ

2024/07/04ニジマス,フライフィッシング

魚を釣るだけならば沈めて使うウェットフライやニンフだけで効率良く探り釣りをすることができるフライフィッシング、魚たちも水面でのライズなどせずに水中捕食だけ続ければ安全で楽なわけです。しかし、魚が食べ慣れている水生昆虫たちは羽化のために浮上してしまう上に、羽化が少ない時には陸生昆虫も食べないと栄養を確保できないため、積極的に水面で捕食する必要があります。

水面に姿を曝け出し、流れてくる水生昆虫をせっせと食べるニジマス

この状態のトラウトを狙うためには、水面〜水面直下を浮かせて流すことに特化したドライフライを使います。

水面のドライフライへの捕食ステップ

通常はボトムに定位して効率良く水中を流れる餌を捕食するトラウトはどのように水面を流れてくるものを捕食するのでしょうか?

① 気づき | Find

8割の時間は低層で捕食するトラウトが水面を意識するきっかけとなるのが、自分よりも上の中層・表層・水面の視界内を流れてくる食べられそうな物体のシルエットへの気づきだったり、これまでの光と影のパターンの変化、仲間のトラウトが上の層で捕食に成功している音や波動だったりします。水面方向で餌を取るメリットがあるかどうかを判別しています。

②アプローチ | Approach

これまで効率よく低層で捕食していたポジションを水面への浮上のために完全に諦めてしまう前に、中層へポジションをとりながら表層に流れてくるものをチェックして準備をしている状態です。水生昆虫の幼生が羽化する最中はこの層を流れてくることが多いので、ここで充分に捕食できれば水面へ出てこないことも頻繁にあります。その場合はウェットフライやニンフで釣りを成立させることになります。

③探査 | Inspect

中層ポジションで捕食できない場合、いよいよ表層ポジションへ 移動して水面・水面直下を流れてくるものを探すモードに入ります。
ここで「量」を取るか「質」を取るかによって、慌てずにたくさんまとめて捕食できるものを選ぶか、リスクを負ってでも一気に浮上して咥えるものを選ぶか決まります。

④コンタクト | Contact

餌釣りでは「サワリ」と呼ぶ状態です。トラウトの口には味覚・成分を感じるための舌が備わっていますので、フライへ超接近したり、口の中に半分入れて舌を使った「水の味」チェックを行うことがあります。木の枝や釣り針など、間違ったものをたくさん捕食してきたトラウトほど顕著にこれを行います。

非常に小さい虫をたくさん捕食しないとならない場合には、口を閉じずに開けたまま吸い込みやすいものを次から次へと吸い込むことも多くあります。

⑤ストライク | Strike

いよいよ飲み込むために餌を咥えたトラウトは、元に居たポジションに素早く戻って同じ行動を繰り返すために口を閉じて急反転します。その場合、体が水面へ出てしまうために大きな飛沫をあげるスプラッシュが見られます。

小さい虫を次々と捕食する場合は吸い込み続けるので、口を閉じず急反転せずにそのままウロウロと並行移動したり、スーッと元のレンジに沈もうとします。

水面直下の場合

原則的には水面と全く同じステップですが、③のポジションがより魚優位なため、じっくりと探査しつつ、流れの緩慢な場所では④のサワリも頻繁になるため難易度が上がります。

ドライフライよりも難しくも、水面よりも圧倒的にこの状態の捕食を行うことが多いため、いかに攻略するかがフライタイングやプレゼンテーションの面白いところです。「イマージャー」や「スティルボーン」「クリップル」などと呼ばれる、水面よりも低い位置をホバーするようにデザインされたドライフライを使います。

上流側=アップストリームへのドライフライの段取り

ドライフライはウェットフライと違い、比較的小さなサイズの水面張力に捕まった昆虫を表現するため、またトラウトが気付いてから浮上してフライを触るまでの時間稼ぎをするために、流れの中の同じ筋=レーンを水平方向へ動かさずに流し続ける=ドリフトさせる必要があります。また同じレーンに1匹だけしか魚がついていない事ばかりでなく、他の魚が下流側へ待機していることも多いので、ステップごとにドリフトを進めていきます。

A.ナチュラルドリフト

ティペットの先に結んであるフライにテンションがかからないように、上流側へ大きく「U」の字のスラックを作った状態で着水させます。自分より遥か上流へフライを着水させて流れに馴染ませながら、自分の上流45°の位置にくるまで自然に流します。

ここでドライフライをストライクしてくれればラッキーですが、深いレンジに定位している魚やヤマメのように平行に泳ぎながらじっくり探査時間をかけるような魚もいるので、Bパートの準備として行う場合も多くあります。

B. エクステンデッド・ナチュラルドリフト

AパートでストライクせずBパートまで必要な魚を相手にする場合や、別の魚にプレゼンテーションを続行する場合に行います。

ここでティペットへ十分なスラックが入っていなければ、メンディングを入れてフライが引っ張られてしまわないようにポジションを修正します。

「釣り上がり=ショットガン」と呼ばれる、上流へ上流へと釣り進めていくスタイルでは、AパートとBパートのみで完結します。

アングラーがウェーディングしながら上流へ釣り進める「釣り上がり=ショットガン」では魚が「いるだろう」ポイントを狙うため、魚が見えている必要はない

C. コントロールドリフト

フライが自分の真横に来た状態からドリフトを継続するために、メンディングでラインを打ち直して自分の下流45°の位置まで流します。カゲロウやユスリカのような遊泳力が弱いフライを演出する場合はテンションを緩めることでナチュラルさを演出、カディスのように遊泳力が強いフライを演出する場合は反対にテンションを緩くかけ続けて誘いをかけます。

「マッチ・ザ・ハッチ」と呼ばれる、鏡のような水面の中に魚が見える状態で行うドライフライの釣りでは、アングラーの動きも伝わりやすいため、魚たちへプレッシャーをかけないために、Cパートもしっかり行います。

下流側=ダウンストリームへドライフライの段取り

「ライズ撃ち」と呼ばれる、魚が回遊しながら水面で積極的に捕食する状態を狙う場合や「マッチ・ザ・ハッチ」の場合は、魚たちにフライラインの存在を気づかせることが致命的なことも多く、またウェットフライとドライフライを同じタックルで釣り進める時にも上流から下流へ進める方が効率が良いので、ダウンストリームへのプレゼンテーションを行います。

アップストリームと違い、自分から下流へフライラインを送り込み続ける必要があるので、必要な長さのフライラインをリールから出してラインハンドで持っておきます。

C. コントロールドリフト

フライが自分の真横にキャストしてドリフトを継続するために、メンディングでラインを打ち直して自分の下流45°の位置まで流します。

D. エクステンデッド・コントロールドリフト

Cパートが終わった直後に、さらにスタック・メンディングでスラックを送り続けて下流45°より先へ先へコントロールドリフトを続けます。手元のフライラインをあらかじめ多めに出しておいても足りない時はリールからラインを引っ張り出します。

E. スイング

下流45°から先をドリフトさせず、この位置でラインへ強めのテンションをかけてスイングさせて「泳ぎ」を演出して誘いをかけます。アングルとテンションをコントロールすることでスイングの速度調整ができます。また、この状態に各種アクションを加えることもできます。

F. ホバー&各種アクション

完全に自分の真下まで流し切った時点で止めておくことでフライが水面&水面直下で浮遊=ホバーする状態になります。これで誘いが足りない場合は、指先でライン操作してジグリングさせたり、流れに対して前後に動かしてみたり、テンションを入れたり抜いたりして浮上溺れるような動作を演出したり、ストリッピングすることでスイミングさせることもできます。

フライラインを通じた立体的なフライ操作:MAT

流水の中でドライフライを狙った通りに流すためには「MAT」というフライラインの操作を行います。M = Mend (メンディング)、A = Angle(アングル、水流に対するラインの角度)、T = Tension (ラインへかけるテンション)の略ですが、

  • メンディング・・・上流へ打ち返すとスローダウン、下流へ打ち返すとスピードアップ
  • アングル・・・流れに対して直角に近づくとスイングのスピードアップ、並行に近づくとスイングのスローダウン
  • テンション・・・ラインへテンションをかけるとラインを通じてフライが浮き上がり上方向へのターンのスピードアップ、テンションを抜くとターンをスローダウンまたは停止

これが基本操作となます。詳細は「ウェットフライのすすめ:基本編」をご覧になってください。

ドライフライのタクティクス:ショットガン、ライズ撃ち、マッチ・ザ・ハッチ

国土の70%が山岳地帯のため、渓流釣りフィールドが圧倒的に多い日本の場合、流れが速く魚の姿を確認する時間もないことが多いために「ショットガン=釣り上がり」と呼ばれるスタイルのドライフライを行うことが多くなります。

源流部の代表的な魚であるイワナの場合、あまり移動せず岩陰や巻き返しなどの小さなテリトリーに上手に隠れていることも多いので、「あそこに居るだろう」という「点」を流れの中から見つけ出して、一つずつ丹念にドライフライを打っていきます。魚が見えづらかったり狭いフィールドで効率良くドライフライで釣っていくためのタクティクスです。

源流をショットガン中に岩陰から飛び出したイワナ

渓流や里川に住むヤマメやアマゴの場合、大きく移動することも珍しくなければ、同じ流れを回遊していることも多いため、ショットガンで狙うと点が多すぎて疲れ切ってしまうこともあります。その場合はライズする個体を見つけて絞り込む方が効率が良くなります。これが「ライズ撃ち」となります。

本流でライズするヤマメへ注意深く接近して仕留めたところ

イングランド南部のチョークストリームのように、高低差が少なくゆったりと流れる浅い川で、捕食行動全てが見える魚を相手に行う、「釣るため」のフライフィッシングをベースにした「頭脳ゲーム」、それが「マッチ・ザ・ハッチ」です。フライを揃えるスキルが必要であると同時にゲーム条件を備えた川が日本には多く存在しませんが、「忍野桂川」や「日光湯川」などの湧水が源流となっている川では楽しむことができます。

「探食」モードに入ったニジマスの好みを探し、吸い込むタイミングでフッキングさせた後

ドライフライの基本操作はシングルハンドロッド&フローティングライン

流れに対してフライとラインシステムをどう置くかが重要なドライフライの釣りではキャストの正確さが全てと言っても過言ではありません。

渓流や小規模な里川、源流向けドライフライタックル

源流や狭い渓流や里川などでロッドを1本にまとめたい場合は、7フィート台の渓流向けのショートロッドが使いやすくなります。ショートロッドと言ってもアメリカ製のブランドの「Echo」や「R.L. Winston」などはパワーのあるロッドが揃っているので、大きい魚とのファイトも安心です。

  • プレゼンテーション:ナチュラルドリフトとコントロールドリフト
  • リーダーシステム: テーパードリーダー 7.5/9ft とティペット
  • フライライン: DTフローティングライン
  • フライロッド: シングルハンド 0-3番、6-7フィート
  • フライリール: クリックリール、ディスクドラグリール(大物がいる場合)

本流や幅広な渓流、リバーエリア向けドライフライタックル

川幅が20m未満の川の場合、8-9フィートクラスのシングルハンドフライロッドと普通のフローティングラインだけで渓流から本流まで大抵のドライフライの釣りはできてしまいます。またロッドパワーがあるのでドライフライだけでなくニンフやウェットフライの釣りもやりやすいのが特長です。

  • プレゼンテーション:ナチュラルドリフト、コントロールドリフト、スイングなど
  • リーダーシステム:テーパードリーダー 9/12ftとティペット
  • フライライン: WFライン、メンディングを多用する場合はDTライン
  • フライロッド: 3-5番、8-9フィート
  • フライリール:ディスクドラグリール

フライラインは飛距離や空気抵抗の大きなドライフライを扱いやすいWFラインがベスト。

操作性が全てのドライフライの釣りではリーダーとティペットは重要

キャスト回数が多く、正確にドライフライを「置きに行く」必要が多いドライフライのゲームでは、テーパードリーダーとティペットの性能はフライラインとロッド選び以上に重要です。

初めのうちはターンオーバーしやすい、価格も安価なものがお勧めです。また「釣り上がり」の場合も障害物へひっかけることが多いので、痛んだら丸ごと交換できるのも安心。

上達してくると欲しくなる使いやすさと魚を驚かさないフライ運びのコントロール性能。クセがつかない扱いやすさと使い捨てでは無い耐久性、魚から見づらいステルス性、エキスパートたちが納得するテーパーデザインとメンディングしやすい性能で、ドイツのマキシマは最高峰の一つとされています。

同じく太陽光性を反射せず、水中ではグリーンに変色する特許技術の「カメレオン ティペット」。ドライフライの楽しさを極めたいユーザーから支持されています。

本流や湖岸などフィールドを選ばないマイクロスペイ/マイクロスカジット

小規模河川や渓流のウェットフライ&ドライフライに便利
  • プレゼンテーション:ナチュラルドリフト、コントロールドリフト、スイングなど
  • リーダーシステム:ポリリーダー 8-10ftとティペット
  • フライライン: ショートスカンジナビアンとシューティングライン
  • フライロッド: 4-5番、10フィート
  • フライリール:ディスクドラグリール

シングルハンドとツーハンドの中間に位置する、10フィート台のシングルハンド番手3〜5番の低番手スイッチハンドロッドで組むタックルです。「真のスイッチ」や「O&D」とも呼ばれ、シングルハンドとツーハンドどちらでも操作しやすく、オーバーヘッドキャストもスペイキャストも50:50で行えるため、ドライフライからウェットフライ・小型ストリーマーまで楽しめます。

釣り上がりはオーバーヘッドキャスト、背後に森や壁・障害物が迫っているような場所ではスペイキャストという風に使い分けできるので初めていく川や湖岸までドライフライで偵察するようなシチュエーションに持っていると非常に便利です。

まとめと続き

やや情報量過多ですが、ざっと基本的な部分だけカバーしているだけですので、実際の動かし方やフライ選びやシステムについては実技に長けたプロやインストラクターから学ぶのが最良です。

私個人がアメリカでドライフライの釣りと出会った時は、本流を9フィートでライズを狙うライズ撃ちと並行して里川を7.5フィートロッドで丁寧にフライ運びするマッチ・ザ・ハッチが原点ですが、一時帰国中に出会った「釣り上がり」もスポーツ効果が非常に高く、今でもカヤックやトレッキングで組み合わせて行うことで健康増進に役立っています。

「ドライフライの種類についてはこちらを参照してください。

参考表

TFFCCメンバーが直近で試したドライフライの組み合わせを参考までに掲載しておきます。
※更新します

シングル番手ロッド長さクラスフライロッドフライラインリーダーシステム
0wt8ftTiemco Euflex 800-4 0wtScientific Anglers Supra J-Stream DT0F
2wt7ftR.L. Winston Pure 762-4 2wtR.L. Winston Trout Energy WF2F
3wt7ft
3wt8ftR.L. Winston LT 8'11' 3wt
4wt9ft
6wt9ftR.L.Winston Boron II-MX 9' 6wt
8wt9ftR.L. Winston Boron II-MX 9' 8wt
10wt9ftR.L. Winston Boron II-MX 9' 10wt
12wt9ft

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