日本のボーンフィッシュたちとフライフィッシング
ソルトウォーター・フライフィッシングを嗜むアングラーが通らずにはいられない魚、ボーンフィッシュ。世界に11種が確認されているソトイワシ科の魚たちは、外見は非常に似ていて口の形状や鱗の大きさ以外で見分けるのは非常に難しく、正確には大西洋に住む魚をボーンフィッシュと呼び、環太平洋に住む魚は別種のボーンフィッシュとなります。
日本にもボーンフィッシュはいるの?
上の写真のパシフィック・ボーンフィッシュがれっきとした東京都の小笠原村で釣られている通り、日本の魚です。
この日本にはハワイと同じボーンフィッシュの仲間が3種類生息します。
- ソトイワシ | Pacific Bonefish | Albula fosteri-argentea
- マルクチソトイワシ | Round-Jaw Bonefish | Albula glossodonta
- スモール・スケール・ボーンフィッシュ | Small-scale Bonefish | Albula oligolepis
このクラブの本拠地である東京都でも小笠原諸島では昔から普通に餌やソフトルアーでは釣られており、近年の気候変動による黒潮の流れの大変動の影響で伊豆諸島へも回遊しており、黒潮が流れる沿岸では過去にも水揚げが報告されています。
日本でボーンフィッシュのフライフィッシングが成立するの?
最近、某・旅行代理店のアングラーが鹿児島県徳之島のシャローをシンキングラインでフライフィッシングを行っている最中、ブラインドフィッシングで何か強い魚がヒットして猛スピードでダッシュ。
これまでも似たような条件でラインブレイクしたアングラーを数人知っていますが、みんなが言うのは「ガーラ(GT)だろ」。しかし以前からおかしいと思っていたのは、みんな甲殻類系のフライパターンでシャローの魚を釣っている最中に、どう考えてもベイトフィッシュや甲殻類の群がいるわけでもない場所でおとなしいプレゼンテーションをしていること。
仮にヒラアジ系の魚が反応するとすれば、GTよりも性質がおとなしいカスミアジかオニヒラアジですが、カスミは青くて誰が見てもはっきりわかりますし、たまたまた通りかかったオニヒラであれば、せいぜい40cmサイズしか入ってこないような水深なので、ひょっとしたらボーンフィッシュじゃないの?という疑問はありました。
話を戻しますが、このアングラーの方はファイトを制して無事にランディング!なんとボーンフィッシュです!
これがシンキングラインのブラインドフィッシングではありますが、フライフィッシングでボーンフィッシュが国内で釣られた貴重な第一号となりました!
岡野さんによるウェットフライのボーンフィッシュという快挙!
そして2023年10月、マルチタックルで探釣しながらボーンフィッシュのポイントを特定して魚を探すこと数日間。水深1.5-2mほどのポイントにおいてのウェットフライのメソッドであって、サイトフィッシングでこそありませんでしたが、日本初、岡野さんがボーンフィッシュの居場所を明確に特定した状況におけるフライフィッシングで見事にキャッチされました!ターゲットを狙って釣るという、スポーツフィッシングにおけるキャッチとしては第1号と呼んでも差し支えなく、日本のスポーツフィッシングの地図が塗り替えられる大事件です。
ボーンフィッシュのフライフィッシングは成立する、次はサイトフィッシング
故・西山徹さんの時代から数あるフライフィッシャーたちが「日本でボーンフィッシュをフライのサイトフィッシングで釣ることができるか?」というテーマに取り組んできましたが、先人の例にもれず私も沖縄や小笠原といった亜熱帯でフライフィッシングをする時には必ず携帯GPS端末やお礼のお酒を片手に行先のボーンフィッシュ事情を調べてきました。そういう意味である程度のリサーチをしてきたと言えると思いますが、結論だけ先にいうと「普通に沖縄や小笠原などの亜熱帯の河口がある砂底の内湾に住んでいるが、日中のフラットでサイトフィッシングするゲームが成立しない」のがネックだと思います。
ついにフライフィッシングで釣れたことは大事件で、スポーツフィッシング全体としても大きな前進となったことは間違いありません。次はハワイやクリスマス島のようにサイトフィッシング専門のガイドが成立することが待たれます。
シャローやフラットにボーンフィッシュがやってくる条件
実際に沖縄や小笠原、フィリピンやパラオ でボーンフィッシュを日中に餌やルアーで釣ったアングラー達に確認すると、「小魚が集まるような餌が豊富な水深2m以上10m未満の砂底」で「自然に置いておいた匂い付きの餌もしくはソフトルアー」に食いついています。天敵の海鳥やサメ・GTたちを気にしなくて良いレンジと場所で餌が見つけやすい環境を好むようです。
さらに生息密度が高いオアフ島で釣り人&ギャラリーとしてボーンフィッシュ釣り場で有名なトライアングル・フラットに夜明けから夕暮れまで終日いる貴重な経験をした時のことですが、その日の釣りが終わって、仲間たちをピックアップしたり、腹ごしらえをしながらボートの上で待っていたら、暗い時間帯になった途端にフラットへ隣接する深場から一斉に大型の魚たちが上がってきます。ローカルの仲間曰く「サメがいない浅い場所に逃げてくるのさ」とのこと。サメや大型のロウニンアジなどがフラットへ回遊していると一気に条件が悪くなるのはこのためです。
次にハワイのNervous Waterでプロ・ガイドをやっていたケビンやラーズはハワイを去ってからも釣り場を探すことに熱心で各所をチェックしていますが、彼らが一様に「魚はいるけど密度が低いし、日中にフライフィッシングが成立しない」という場所を私なりにGoogle Mapや有志のOpen Street Mapで地形を再確認すると、河口のある砂底の緩やかな地形で推測するに湾内は水深5-10mほど。また、彼らが魚と遭遇したのは朝早く浅瀬を泳ぐ個体で、捕食行動はしていませんでした。捕食とは関係なく、別の理由で浅瀬にやってくることもあるようです。
また、オアフのコナヘッド近くのハワイカイと呼ばれる地区で、一日中テイリングするけどめちゃくちゃナーバスなボーンフィッシュで有名な場所を釣っている時ですが、2回行って2回とも岸からわずか1mほどのくるぶしほどの浅瀬で甲羅干しのカメのようにじっとしている大型のボーンフィッシュを見かけたことがあります。近所のお爺さんが餌付けしている有名な個体のようですが、現地の事情通曰く、体についた寄生虫を取り除くために浅瀬のサンゴ混じりの砂で体を洗っているそうです。
私自身のシャローやフラットでの遭遇例
私自身の国内でのボーンフィッシュとの遭遇ですが、先島諸島の黒島のフラットリーフで単体でゆっくりと泳いでいる4lbサイズの弱った個体を夕方目撃したのが1回目、西表島北部の河口そばで夕方に数匹の群れで逃げていく4lbサイズを見たのが2回目。どちらも夕方であり、マングローブがある餌が豊富な汽水域にも入ってくることから、「餌が豊富な河口がある砂底の浅い内湾」に生息しており「暗い時間にだけ浅瀬へやってくる」ことから、日中は丁度いい具合に日光が差し込む水深10m以内の餌が豊富な海底で餌をとっていて、浅瀬では夜にならないと狙っている餌が活動しないので、昼に浅瀬で出会うことは難しいと言えます。
当然「イブニングでスタートして夜釣りすれば良いじゃないか」とも考えましたが、ボーンフィッシュに適した餌場へ上潮&暗い時間はメジロザメやリーフシャークの活動と重複するので度胸がなくて試していません。安全な待ち伏せの釣りが成立する場所があれば試してみる価値はあると思います。それがフライフィッシングとして面白いかと言えば・・・どうでしょうか?
もしボーンフィッシュを探すとしたら?
インドネシアなどでもボーンフィッシュのフラットフィッシングが成立してきています。日本国内でも過去には小笠原の父島に存在した須崎のフラットでボーンフィッシュは捕獲されていたようですが、戦争中に飛行場建設のためにフラットを埋め立ててしまったことや、浅瀬へ入ってくるホワイトチップシャークが増えたことで条件が悪くなってしまったと思われます。
生息する条件
- 黒潮のような水温が高く塩分濃度が高い海流が近くにあるか・・・稚魚が流れ着く絶対条件
- 夜間サメが居つかない休憩場所・産卵場所が近辺にあるか・・・親魚がいる
- 年間平均水温が24度を切らない場所が近くにあるか・・・冬に死滅しない
- 栄養豊富な川および伏流水が流れ込む汽水域と隣接した砂地の内湾かどうか・・・群れが長くステイして絶対数が増えるために必要な十分な餌があるか
- 荒波を防ぐインリーフや入江の中のに十分な広さと餌が豊富なフラットがあるか・・・安定して餌が取れる
- 中くらいの餌(ボケジャコなど)が日中探せるインナーリーフが近くにあるか・・・一日中確実に餌が取れる
- 大きな餌(アナジャコなど)が夜間活動する汽水域が近くにあるか・・・海が荒れても餌が取れる
日中フラットへ上がってくる条件
- 運河や浚渫された深場、カケアガリから一気に10m以上の深場へ落ち込むような場所と直接隣接するフラットである・・・フラットで餌を探さざるを得ない
- そのフラットが潤沢な甲殻類の住処となっている・・・そのフラットが豊穣な餌場として定着している
- 生息密度が高く、餌場となる浅瀬に天敵のサメや魚食性の鳥が日中にいない・・・十分な数の魚が安心した状態である程度の時間居てくれる
- フラット全体が完全に干上がらず、十分な部分において膝下以上の水深が保たれている
- 近くにサンゴ砂があって砂風呂が行える
参考資料
- ソトイワシ科魚類マルクチソトイワシ (新称) Albula glossodontaの日本からの記録(2004)、日高浩一、岸本浩和、岩槻幸雄
- Fishbase
この記事のメンバー
TFFCCで国内でボーンフィッシュに遭遇したことがあるエドとマーティン。2人ともサイトフィッシングが大好きなので、定期的に情報交換を続けています。