GSPスレッド考察 【フライやアシストフック】
2024/09/08フライタイング,フライパターン,フライフィッシング
テックストリーム「GSP パワースレッド」、ラガータン「ストロングスレッド」、ワプシ「UTC ウルトラ GSP」、Uni 「ユニコード」、Veevus 「GSPスレッド」やセンパーフライの「ナノシルクGSP 」などGSPスレッドが色々と出ています。
ここではどんな製品なのかを解説するとともに、使い勝手を検証して更新していこうと思います。
GSPって何?
GSPとはGel Spun(ジェル・スパン)の略でポリエチレン繊維の中でもゲル・スパン製法で作られた高密度分子の繊維や糸がこれにあたります。日本では「PEライン」という一般名称で知られる釣糸の原糸も「イザナス」として知られる繊維もGSP繊維です。
通常のポリエチレンは繊維に対して平行方向に伸び縮みするのに対し、GSPは分子の配列が異なるために横方向へはほとんど伸び縮みせず、繊維の向きの垂直方向に伸び縮みします。このため糸の先の動きが伝わりやすい「ダイレクト感」を持つのですが、この糸がフライフックの軸に押し付けられた状態、すなわちタイング状態では「ぴったり薄くフィット感」を持つことになります。
さらには分子の結合が壊れない程度の力であれば、伸びないために予期せず切れることがありません。しかし限界値以上の力が加わればあっさり切れます。つまり「限界値までは切れないが、限界値を越えれば狙い通りに切ることができる」便利なスレッドになります。
また水平方向の分子の結合が高密度であるということは、表面から水が染み込みづらくなっています。長い時間使えば浸透してきますが、他と比較すれば遅らせることができます。
しかしGSP製品全般と同じく、摩擦などで高熱を加えると分子の結合が緩むので切れやすくなってしまうだけでなく、ライターの火のような瞬間的な高熱を与えて繊維内部の空気や水分が膨張すると垂直方向へ伸びるので崩壊してしまいます。そういう部分での使用は避けるべきです。
スレッドとのしての特性
GSPをスレッドとして使うためには、いくつか方法がありますが、今製品化されているものは繊維を束ねて緩く撚っただけの「フラットスレッド」となっているもの。GSPスレッドの特性をベストに使える形となっていて、回転させてさらに撚れば細くなり、解いて使えば薄く・平たく使うことができます。さらにワックスなどの余計なものが付いていないのでスレッドワークを素直に行うこともできます。
これに対して従来型のポリエチレンのスレッドは15%程度のストレッチ性がありますが、これらは理想とする強度を保つために一本の撚り糸となっており、断面が楕円形をした「ラウンドスレッド」となっています。ワックスコーティングされてしまっているものも少なくありません。これを基準として比較しつつ特性を並べると:
- 伸びないのでダイレクト感がある
- テンションを加えて引っ張るとフィットする、滑らない
- 限界値までは切れにくいので、より細く作ることができる
- 分子結合が密なので水に強い
フライを巻く糸としては理想的なように思えますが、良いことづくめでは無いのが化学テクノロジー。
- 伸びない&ラウンド形状じゃないため、締めつける時に力が1点に集中する・・・注意しないとマテリアルが巻き切られる
- テンションを緩めると滑ったり抜けやすくなる
- スレッド末端の繊維が解けやすい
- スレッドが同じ方向へ層として重なると滑りやすくなる・・・太いものほど顕著
- 分子結合が一部の酸性化合物に弱い・・・コブラーワックスや一部ラッカー塗料に含まれるロジン酸などでは表面が荒れる/溶けてしまう
- 高熱に弱い・・・ライターなどで炙る場所には使えない
- PEラインと同じく染色されづらいので、ホワイトやブラック以外は色抜けする(製品によって異なります)
これらの弱点を技術や裏技でカバーする必要があります。
GSPスレッド製品一覧
各社から様々なGSPスレッドが発売されています。最もラインナップが幅広い「GSPパワースレッド」を例にとると、ミッジに使う10Dからオフショア・ストリーマーに使う280Dまで、あらゆる仕様のものが製造されています。
GSPスレッド製品名 | 番手 | カラー |
テックストリーム GSP パワースレッド | 10D、25D、50D、100D、150D, 280D | ホワイト、ブラック 50Dのみレッドあり |
Veevus GSPスレッド | 30D、50D、100D、150D, 200D | ホワイト、ブラック |
センパーフライ ナノシルクGSP | 20D、30D, 50D, 100D, 200D | ホワイト、ブラックなど基本色10と30Dのみ特色4 |
ワプシ UTC ウルトラGSP | 50D, 75D, 100D, 200D | ホワイト、ブラック |
Uni ユニコード | 50D, 75D, 100D | ホワイト、ブラック、イエロー、レッド、オリーブ |
ラガータン XXストロングスレッド | 50D、100D | ホワイト |
Future Fly ナノGSP | 30D, 50D | ホワイト、ブラック |
ジョルジオ・べネッキ | 75D | ホワイト |
Royal Sisi | 50D | ホワイト |
GPSスレッドの番手別の用途
一般的によく使われているのは50D〜100Dサイズ(Dはデニールの略、番号が大きいほど太くなる)ですが、これらは18/0から10/0くらいに相当します。
GSPスレッドの番手 | 代表的な用途 | 特筆点 |
280D | 200Dでは足りない強度を求める時 | オフショアで使う大型フライ、アシストフック、ロッドのセキ糸など |
200D | サーモンやスチールヘッド向け大型イントルーダーやビッグゲーム向けの大型フライ | 歯が鋭い魚にも安心して使える |
150D | 200Dに繊細さが欲しい時に便利な番手 | フライラインのループ作りなど |
100D | ストリーマーや中型サイズのイントルーダー、ソルトフライなど、ダンベルアイなど強度が欲しい時、ディアヘアやエッグ、クイルウイングなどの繊維を巻き切りたくない太さが欲しい時 | ダビングワックスがつきやすいのでダビングループがしやすいのはこの太さ以上 |
75D | 100Dに繊細さが欲しい時に便利な番手 | |
50D | #12以上のフライ全般、チューブフライ | 汎用性が高く厚みが出づらいのはこの番手まで、クロス技を使わないと滑りやすくなる |
30D | #12以下のフライ全般、ウェット&サーモンフライのヘッドを小さくしたい時など | テンションをかけやすい汎用性の高い番手 |
20D | ミッジやサーモンフライのヘッドの作業など細かい場所専用 | 30Dより細く使いたい時やクイルやフェザーCDCファイバーの隙間を狙える |
10D | ミッジやクラシックウェット、ソフトハックルのヘッドの作業など究極に細かい場所専用 | 20Dを超える細さ、フェザーやCDCファイバーはもちろん、ダビングの隙間も狙える 見えづらいのでミッジボディを補強するための透明リビングにしたり、サーモンフライやウェットフライ、マイクロサイズのフライの補修に使える |
GSPスレッドのスレッドワークのポイント
GSPスレッドをボビンへセットする:繊維のほつれに注意!
繊維に独特の性質があるGSPスレッドですが、しっかりと撚り合わせていても末端部分は解けやすい性質があるので、スプールから取り出してボビンにセットする時は必ず、繊維がほつれていたり一本だけ外れていたりしないかチェックしてください。これを怠ると、1本の繊維から何メートルもばらけた状態となり、途中で他の繊維と絡んでキンクしたり、意図しないバックラッシュの原因となります。テンション調節機能がついたボビンホルダーがベストチョイスです。
GSPスレッドを巻き留める:テンションに注意!
巻き始めやマテリアルを巻き留める時にはテンションを抜かないことです。また、スレッド同士を無用に何層も重ねる必要が無いように、正確に巻き付けていくようになれば、非常に使い易くなります。
予防としては「クロスさせるように意識する」ことで、重なった面の分子の向きがずれることで摩擦が働きやすくなり、1回転分のスレッドテンションがブレーキとして働くのでオススメです。
完全に滑り止めして使う場合は、ハケ付きの瞬間接着剤が非常に便利!
GSPスレッドを切る:ハサミ選びが大事!
GSPスレッドの線維はハサミの刃が当たる方向と同じ方向へ収縮するので力が逃げやすく、どちらか片側が滑らない加工がされている刃のハサミが有効です。「ギザ刃処理」と呼ばれますが、顕微鏡で見るとノコギリの歯のような加工がされたハサミがオススメです。
もしくはカミソリのように切れ味が最大化された刃「レイザー」加工のハサミを使えますが、押し切るようにすると縮んでしまうので、引っ掛けて刃を当てるようにして切ります。
GSPスレッドの当たる幅や細さを調節する:回転!
これは製品によっても異なりますが、ボビンがフックシャンクからぶら下がっている状態で、時計回りに回転させると絞りこまれてより繊維同士が密着して細くなり、反時計回りに回転させると繊維が離れてフラットに使えるようになります。ハックルの隙間やCDCなど細かい繊維の隙間を狙うような場合は細くして使い、クイルや獣毛など巻き切る心配がある時はフラットにして使います。
GSPスレッドとマテリアルの摩擦を高める:ワックスオン!
従来はシルクでできたスレッドの吸水性を下げるために必須だったスレッド用のワックス。GSPスレッドにおいても、マテリアルを巻きとめる要所で使うことでマテリアルとスレッドの間の摩擦が高まり、ラウンドスレッドのように強い力を入れなくてもピッタリと固定できます。
最近は瞬間接着剤もポピュラーです。
GSPスレッドをフィニッシュする:
スレッドが同じ場所へ何層も重なると滑りやすくなりますので、フィニッシュするときは「交差がけ」を意識してウィップフィニッシュします。テンションが抜けない方がいいので、可能な限りヘッドに対して小さいフィニッシャーを使うのがベストです。
GSPスレッドの裏技
GSPスレッドを割いて「スレッドループ」を使う
え?こんな使い方も?
フライを巻くために開発されたGSPスレッドですが、優れた素材強度に着目して、細いものはタナゴ釣りのためのハリスに使う人や、太いものはライギョのフックの補強のために使ったりされる事も!
まとめと続き
ここまで読んだら、「GPS」と「GSP」の違いが分かっていただけたと思います。
え?そんな話はしていない?曲がり角がたくさんあるフライフィッシングを攻略するのもミッションですので、それはそれで別トピックでやれればと思います。
まだ全ての製品を使い終わっていないので、また更新します。
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