ニジマス(レインボートラウト、スティールヘッド )のフライフィッシング
和名:ニジマス
英名: Rainbow Trout/Steelhead
学名:Oncorhynchus mykiss (Walbaum, 1792)
海外から移入されたタイヘイヨウサケ属の魚で、盛んな養殖と北海道などでの野生繁殖により、日本中で「マス=ニジマス」とイメージされるくらいになった、世界的にも最もポピュラーなフライフィッシングのターゲットで漢字変換でも「虹鱒」と出てくる完全に日本化したと行っても過言ではない魚です。
日本の記録では1877年に米国カリフォルニア州マウントシャスタの養魚場から卵が移入されたのが初めてで、実はこれがアメリカから海外へ生体としてのニジマスを輸出した史上初だったりします。イギリスや他の国へ輸出する10年近くも前のことです。その後1880年ごろには、東京近辺の水産試験場で2万個の卵の孵化に成功しています。現在では管理釣り場でその姿を見ない場所は無いほど、日本全国へ普及しています。
ニジマスの産卵期=スポーニング
天然の状態では平野部の流域が長く支流が多い河川で3−5月上旬の雪解け前の時期にスポーニングを行いますが、原種であるミキージャが棲むカムチャッカと同じオホーツク海に面した北海道でもほぼ同じ時期となっています。本州の河川や湖沼は雪解けから梅雨にいたる温度変化や水位変化が激しく、スポーニングや孵化する条件が整わなかったり、孵化した稚魚も流されてしまうか、先に孵化して同じ川に住む競合する魚食性の魚に食べられてしまうことが多く、本州での天然繁殖地は北東北および中部地方の一部に限られています。
人工的な環境で養殖されるサイクルを重ねたニジマスの場合、犀川などの本流で環境適合したニジマスは梅雨明けの7月ごろ、標高が高くヤマメなどと競合しない所などでは10月ごろにもスポーニングすることが確認されています。
スポーニングの時期には親魚を狙わないなどの配慮が求められます。
自然繁殖するニジマス=ネイティブレインボーや戻りレインボー
梅雨の影響を受けない北海道の河川は、ニジマスの産卵期に競合するアメマスやサクラマスが海へ降ることもあり、ニジマスの生息条件が有利に備わっており、多年性であるニジマスの産卵とそうではない在来種の産卵の時期が重なる渓流では、むしろ在来種が圧迫されてニジマスばかりの河川になってしまった所も多くなっています。
また流域が短い河川では冬越しでスモルト化する個体も多く、これらは海へ降って戻ってくるスティールヘッド(降海型ニジマスと言う意味での)となります。
ネイティブレインボーは卵から育つ世代を重ねているため、地域差が大きくなりますが、ネイティブ=難易度ということでは決してなく、生息数が多いフィールドではフライパターンが現場へマッチすれば数釣りできることもあります。数を増やす戦略で世代交代するニジマスのコロニーは、サイズは大きくはならないのが定説なので、貴重な50cmオーバーを探して釣っていくことになります。
本物のスティールヘッドの世界
大陸ならではの完全に川生まれの海育ちのスティールヘッド。一期一会のハンティングに例えられることの多い、北米のスティールヘッド・フライフィッシングの世界。ヨーロッパのアトランティック・サーモンの世界とまた違った大自然の中を泳ぐパシフィック・サーモンを狙うフィッシング世界の中でもチヌーク(キング)・サーモンと並ぶ王者の地位に君臨する魚です。
稚魚や成魚が野生化したニジマス=ワイルドレインボー
本州の渓流は急な山岳渓流が多く、初夏の梅雨や大雨の影響を受けやすいため、在来魚と異なりニジマスの稚魚の生存には非常に厳しい環境となっています。また北海道の一部の放流河川も秋冬の自然環境が厳しく、放流魚の生存が難しくなっています。しかし中禅寺湖など条件が良い山上湖や信濃川水系などの一部の本州の河川では稚魚放流されたニジマスが生き残ってシーズンを重ねて大きくなっていきます。
稚魚放流のニジマスは養殖池で成魚へ育つ魚と大きく異なり、ユスリカなどの極小の水生昆虫へ偏食することなく環境へ適応するためにその河川のハッチやベイトで育っていきます。底質によって異なるハッチを推理したり、カケアガリに着いたベイトを想定したマッチザハッチが成立するのでワイルドレインボーの性格が強くなります。
これらの中から生き残る70cmオーバー、夢の80cmオーバーは数が限られるだけでなくアングラーからのプレッシャーが高い場所の魚であることも多いので難易度の高い釣りとなります。
北海道的な「ワイルドレインボー」
本州以南と違って天然繁殖のニジマスが珍しくない北海道では、銀化して斑点が消えた「マス」というよりも「サーモン」の風格になったニジマスこを「ワイルドレインボー」と呼ぶにふさわしい、という意見もあります。生物学的にはどちらも同じ魚ですが、ブラウントラウトの銀化した魚をシートラウトと呼ぶ感覚ではなく、「出世魚」的な観念かと思いますが、意外に自治体や電力会社などから大規模に放流されているニジマスが野生化したものも含まれるため注意が必要です。
80cmサイズまで大きくなるものは海へ出ずに餌が豊富な川で一生を過ごすと言われています。
成魚放流されるニジマス・・・環境適応してワイルド化する
最もよく目にするのは河川や湖沼、管理河川または管理釣り場に成魚放流されるニジマスです。稚魚から成魚になっていく過程で管理された環境でもハッチするユスリカや飼育用のペレットで育ったため、フィールドへ放流されてからもユスリカやペレットサイズのハッチへ偏食する傾向が強くなります。
遊泳性に乏しく魚食性も低い成魚放流されたニジマスは、本州では夏から秋にかけての初夏の梅雨や台風などの増水シーズンや餌の乏しい冬シーズンを生き残るのが難しい環境となっています。成長を支えるだけの水生昆虫のストックが豊かな水域では生き残ることができるので、この中から野生化しますが本州の河川では大きくなりづらく、湖でも40cm弱までとなります。
しかし生き残ってシーズンを重ねた成魚放流のニジマスは生き残るために環境へ適応していき、結果としてワイルドレインボーの性格を身につけていくだけでなく、ユスリカよりもユスリカを捕食する小魚を襲うようにプレデター化したり、釣り人のプレッシャーを常に受ける環境に鍛えられた難易度の高い魚となっていきます。
対して北海道では梅雨が無いため水位変化が本州ほど激しくなく、盛期の日照時間や餌のストック量が多く、ニジマスにとって適した生息環境となっているため成魚放流されても生き残り易くなっています。一部の河川では温泉が湧いているために冬でも水生昆虫のハッチがあるので厳しい冬を超えて大きく育つ場合があります。
品種改良されたニジマス
養魚場を繁殖場所としてやってくる水産業でも重要な魚なので、海外からの種苗輸入だけでなくバイオテクノロジーの対象ともなっています。アメリカでドナルドソン博士による交配で作り出された体が大きく育つ「ドナルドソン品種」や日本の養魚場で突然変異で生まれた「アルビノ品種」や「鳳来マス」など新しい繁殖品種となる魚や、生殖操作で他のトラウトと掛け合わせた「F1」と呼ばれる交雑種のニジマスや、遺伝子操作でメス3倍体となった「ヤシオマス」など、ご当地トラウトになっているニジマスたちもいます。
その中でも「ハコスチ」と呼ばれる「箱島品種」とカナダのスティールヘッド亜種の卵から国内で繁殖させた「スチールヘッド品種」を掛け合わせたスーパーニジマスは「釣り専用品種」とされており、ニジマスの人気故と言えるでしょう。ファイトも素晴らしく利根川本流で野生化しています。
C&Rやエリアフィッシングを支える重要種
リバーフィッシングでは、禁漁となる10−2月期にターゲットとなる重要種がニジマスです。戦略性やファイトの派手さから、通年ターゲットとして楽しまれることも多いですが、ウェットフライの釣りの練習としても馴染み深い魚となっています。
河川や人工の湖沼で行われるエリアフィッシングではビギナーの方からエキスパートたちが数釣りを競うエリアトーナメントでターゲットとなるのも、やはりニジマス。1匹=1点だったり、サイズ検測してスコア化したり、様々な形で釣られています。
本州と北海道で異なる評価
これは良い方へ変化している最中なのですが、本州では渓流釣り文化とフライフィッシングが結びついた経緯があるので、渓流におけるプレゼンテーションの難易度の差をもって「ヤマメ>ニジマス」という序列や「サクラマス>ヤマメ>ニジマス」という評価になっていたりします。ところが北海道では普通にヤマメもサクラマスも生息しているので、これが釣れるのが当たり前であるため、「銀化・大型ニジマス>ニジマス>サクラマス>ヤマメ」というファイトの面白さを基準にした評価になっています。
ただ、北海道でも渓流釣りを楽しまれる方は「在来種」という物への愛着が強くなるせいか、これが評価軸となる「オショロコマ>エゾイワナ>ニジマス」という序列もあったりします。
まとめ
同じ魚種でこれだけ評価が分かれるということは評価軸の多さを表しますので、いかにニジマスが日本人に馴染み深いかという、人気魚種としてのポテンシャルの高さだと思って良いでしょう。
他の魚と違ってフライフィッシングの釣り方をわざわざ書くまでもないニジマスですが、これだけ幅広く楽しまれている魚なのだから、バスフィッシングにおけるヒーローがラージマウスバスだとすれば、同じ地位にいてもおかしく無いのでは無いでしょうか。
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