訳ありな4番タックルを11シーズン使ってみて分かったこと

2023/08/254番タックル,TFO,エリアブースター,ギル,コイ,ジム・ティーニー,シングルハンド,ソルトフライ,ディスクドラグ,ノーチラス,バウワー,バス,フライタックル,フライフィッシング,フライリール,マッケンジー

遡ること2010年の秋になりますが、渓流がクローズした後に渓流トラウトのようなウルトラライトの釣りが他のフィールドでもできないかと思って組んだのが私にとって初めての4番タックルでした。本来は最初に使う番手なのですが、それまで渓流では3番、ウェットの釣りでは5/6番を使っていましたから、この4番タックルはその間を埋めてくれるべく、こんな条件で組むことになりました。

  • 川や湖でトラウト相手に使えること
  • バスギルに使えること
  • ソルトのチョイ釣りに使えること
  • ソルトだと下手するとでかい魚が食ってくることがあるのでファイティングバットついてて欲しい
  • それなら頑張ればコイにも使えそうだ・・・

このころは伊豆の伊東周辺によく通っていたのですが、伊豆では渓流でアマゴやったら、湖でバス釣って、河口でシーバスやコイ釣って、港でチョイ釣りもできて、手漕ぎボート出せばサバやソウダも・・・なんて同じ日にグラムスラムが出来てしまう訳です。

当時こんなことをやっていて「アホかこいつ」と思われたかもしれませんが、そういう思考はアメリカ人と似ているらしく、TFOのロッドのデザインに参加していたサーモンやスチールヘッド、ボーンフィッシュ好きなジム・ティーニーが設計したJim Teeny 904-4というモデルがあり、小型のサーモンを狙いつつ不慮に大きい魚が出た時のために、当時は珍しく4番ロッドに本格的なファイティングバットがついていました。ティップはミディアムファーストアクションの4番ですが、バットは6番レベルの強度がある「不思議な4番」です。

フライリールは当時8番タックルで使っていたノーチラスCCFのドラグ・パワーを気に入っていたこともあり、ノーチラスのFW No.5。ラージアーバーでものすごく軽く、4番ロッドにはぴったりのリールです。所詮4番ロッドは4番ロッド。フライリールに頼むことが多いだろうから、ノーチラスにしとけば大丈夫だろう、と言うのが目論見でした。

その後、早速横浜港のボート・メバル&トレバリーに使ってみたり、狙い通り伊豆のチョイ釣り三昧に活躍したり、管釣りで使ったり、ハワイでティラピア釣ったり、西表島のマングローブの釣りやったり・・・。私の個人的プロジェクト「目指せフライで100魚種」でも、プーケットの「ミナミギンガメアジ」から西表島の「ツムギハゼ」まで8魚種に貢献してくれました。

大抵は小さいフライで小さな魚を狙うのに使ってきた訳ですが、意外な事にこのタックルで釣っていると何度もそこそこのサイズのパワーのある魚と対戦する事もあったのです。

警戒心の強いはぐれ魚は小さいフライに出やすい

多摩川で14番のヘアーズイア・ニンフを何か釣れるかなと思ってテトラへゆっくりと落としてたら、突然現れてひったくった60cmサイズのコイ。西表島の船着場でチヌの群れと遊ぼうと思って18番のナノシュリンプを打っていたら矢のような速さでチヌを蹴散らして食いついた40cmサイズのリバーGT・・・などなど、これ以外にも4回くらい似たような事がありました。明らかに小さいフライを狙って突進してくるのです。

8番タックルを通常は使う釣り場で6番を使っている時にも同じような事をたくさん経験してきましたので、これは間違いないと思いますが、何らかの理由で一匹だけでいるはぐれ魚は、環境に溶け込んで目立たないように行動したり、自分より小さい他の魚の群れの中に紛れ込んでいたりしながら、楽に餌を取ろうとしています。小さい魚たちの行動が見えるところにいれば、彼らが餌にありつこうとしたら強い自分が押しのけて楽に餌を奪うことができます。「俺の物は俺の物。お前の物も俺の物」まさにジャイアンです!野生のライオンも群れからはぐれたオスが巨体に任せてハイエナの獲物を横取りすることが多いと聞きますから、これは僕らにちょっかい出してくる意地悪な人たち・・・いえいえ、生物全体のことなのかもしれませんね。

ライトなラインだとフライに魚の意識を集中させられる

比較的にライトなフライラインを使っている時ほど、こういったシチュエーションに遭遇してきたと言うことは、フライラインが水面を叩くインパクトはそれ自体が魚を脅かさなかったとしても、小さいフライへ向かうべき注意を逸らしてしまう、ということです。フライフィッシングのプレゼンテーションの目的そのものが、いかにフライを自然に魚に食べさせるかということですから、余計な要素を排除していくことでフライの効き目を十分に発揮させることができるのは当然かもしれません。

フライリールで重要なこと

小さなフライをひったくったコイやGTの話をしましたが、実はどちらもフックを伸ばされたり、アイの部分でノットが切れたりして、障害物が無いオープンスペースにも関わらず、あっさりとファイトで負けてしまった魚たちです。これは4番ロッドだからタメが効かなかったとかティペットが弱かったんだろう、ということではありません。ちなみに2009年から今まで、私はずっと同じシーガーのティペットを使ってきています。フライタックルの番手と関係なくフライやプレゼンテーションに合わせて変えていますので、8番ロッドの釣りでも4番ロッドの釣りでも使うフライが同じならば同じティペットになっています。実際、いちばん使う6番ロッドで弱いティペットを使ってもっと大きな魚をランディング出来ていますので、ロッドの強度で差がつくということはそんなに無いと考えてほぼ間違いないです。

それではどこで?フライリールのドラグ性能および、ドラグ機構の設計がどれだけオーバーヒートに強いか、という点で差がついています。

スタート・ドラグ(初期ドラグ)

魚が走り出す時にかけるドラグのことをスタート・ドラグまたは初期ドラグと呼びます。スタート・ドラグはスムースでありつつもラインシステムの最も弱い部分(フライフィッシングの場合はティペットであるケースが多いと思います)の強度の1/4に設定するのがベストと言われています。

例えばフロロカーボンの1号をティペットで使う場合、ラインシステムの最も弱い部分は4lb=1.8kgとなりますので、スタート・ドラグは450gぐらいにしておけば良くなります。

マックス・ドラグ(最大ドラグ)

そのリールの設計に応じてドラグには最大値があります。これをマックス・ドラグまたは最大ドラグと呼びますが、釣りの最中に計測することはできないので、最も簡単な方法はリールを固定しておいて釣りする時をイメージしてドラグをできるだけ締め込んでから、バッキングラインの先端をフック付きスケールで引っ張り、ラインが引き出された後に一定速になる瞬間の強さを計測します。

フライリールの場合は引っ張り合いをする時はバッキングラインで行うので注意が必要です。回転軸から遠ざかるほどテコの原理でより小さい力でラインを引き出せるので、バッキングラインの状態で計測するのが面倒な場合は、フライラインの先端を引き出して測った数値に+10%ほど補正します。

ドラグ性能とパーミングの負荷

ここでリールの設計とドラグ性能が重要になりますが、スタート・ドラグを450gに設定したいのに、マックス・ドラグがそれ以上無いリールは、基本的にただの糸巻きでしかなくなりますので、自分の手をスプールに当ててパーミングしてドラグをかけて上げる必要があります。この時、人によって大きなばらつきがありますが、トラウトの釣りだけをやっている人の場合、ティペット切れを気にする癖が身についている人でも大体500gくらい。ソルトやサーモンの釣りを体験している人は1kgくらいはスムースにパーミングで負荷をかけることができます。(手袋をはめて火傷対策までする猛者は抜きにして・・・)

しかし、それだけの過剰負荷はほとんどがドラグにかかることになります。Nautilus FW5の場合、マックス・ドラグは750gなのでパーミングを前提にするリールとしては問題ありませんが、仮にソルト式のパーミングを行えば、それだけの過剰負荷がドラグにかかることになります。

ドラグのオーバーヒート耐性

続けて少しだけ科学の話をします。ドラグに使われているコルクやカーボンファイバー、ルーロンなどといった素材は高分子化合物で出来ていますが、この分子の運動状態に変化が起きることを緩慢化(注:laxationの訳)現象と呼びます。化合物の温度が上昇すると、分子の運動が活発になり熱による膨張と重なって分子間の隙間が広がるためにより緩慢化することによって摩擦抵抗が落ちていきます。

簡単にまとめると、限られた狭い空間の中で素材と素材の摩擦でなり立っているディスクドラグは熱が逃げないとオーバーヒートを起こしてブレーキが効きづらくなり、ドラグの効きが急激に落ちたり、逆に熱が解放されて一瞬ドラグが強く効いたり想定していないムラのある動作をするようになります。

これは12番タックルを使うシチュエーション(スピニングタックルでもそうですが)でも経験しましたが、カツオやマグロというパワーが強いだけでなく走ることを一切止めない魚を相手にしていると密閉型ディスクドラグのリールでもコルクディスクリールでも、熱が一気に溜まった瞬間にスルスルっと滑るような状態になることがあります。これと同じことがスケールダウンした4番タックルでも起きるので、ノーチラスFWのようにそんな特殊なシチュエーションのために設計された訳ではないフライリールでは、当然オーバーヒートしてドラグの動作がコントロールできなくなって予測しないブレーキがかかってティペットへ一気に負担をかけてしまったりしていた訳です。

もちろん7シーズンも使ってきたので、ドラグディスクの面積も小さいし、あまり期待してはいけないことは分かっていましたが、ノーチラスは「Running Down the Man」というソルトフライ映画で見て大好きなブランドなので、FWが私の釣りに合わない事は認めたくなかったのです。そして今年に入って、うちの息子たち用に2セット目のトラウト用の4番タックルを組むことになったので、「このリールちょうだい」ということで吹っ切れて他のリールへ交換する事にしました。

フライリール選手交代(2018年)

新しいフライリールはバウワーのマッケンジー・エストリーム・パーフェクト・・・と言ってもすでに廃盤です。湖のサイトフィッシングで使う3番タックルでバウワーのマッケンジー・スーパライトの戦闘能力には驚かされていたので、同じコルクディスクのドラグ機構かつリールの重量もノーチラスFWと同等という優れものです。これらのシリーズのコルクディスクには熱を逃すためのスリットが空けられてボディへ熱を逃しやすくされており、さらにコルクと接触する反対側は熱の上昇に対して非常に安定しているルーロンが使われています。

フライリール  Max Drag 1kgのパーミングを行った際の過剰負荷率 熱を分散して逃す機構
Nautilus FW5 825g +121% なし
Bauer MXP3 1,364g +73% スリットカットされたコルク

きちんと使ってみればわかるすごいリールなのに、バウワー社はビジネスが上手くいかず、今はR.L.ウィンストン傘下。でもこれは、良い意味で一緒になったと思いますので今後に大きく期待しています。

フライラインについて

フライラインは色々使ってきました。一番良く使ったのはRIO MainStream TroutのWF4インタミで、テーパーが弱いのでティップをカットしてストリーマーやポッパーの時はポリリーダーでターンオーバーを強くしています。他の時は、自前のノットリーダーでバットセクションを長くとっています。

波のある場所だとRIOの同じラインでタイプ2、あとはボート・メバルや防波堤のアジング・メバリングで使うタイプ6もあります。RIOは通常でも重ためにWFラインを作っているので、オーバーラインしてロッドを曲げるよりも、少し長めにラインを出したりシンクティップで延長してすぐに調整できるようにしています。

また、マングローブの釣りや浜名湖のクロダイの釣りではウェイトの効いたフライを魚が警戒しない距離から正確に狙った場所へ入れて、かつ丁寧にプレゼンテーションする事が重要です。ワイドループが作りやすく直進性も求められる。ふと思いついて息子の4番タックルにセットしておいたScentific AnglersのエリアーブースターWF4/5を投げてみたらオーバーライン気味なのでロッドを曲げやすく、ランニング部分が0.031インチとシューティングライン並に細いので直進性もバッチリなので、今はこれが定番になっています。

この4番タックルでどこまでできる?

その後もアジやメバルといった小物はもちろんのこと、管理釣り場で使ったり、バスフィッシング、クロダイやヒラスズキまで幅広く活躍しています。このロッドは正確には「なんちゃって4番」ですが、ティップが4番であるのは事実なのでアタリを拾いやすくて重宝しています。6番では絶対に拾えない繊細なアタリも分かるので、1本こういうタックルもあると便利だと思います。

4番タックルの守備範囲

この4番タックルはちょっと訳ありでしたが、ドライフライの釣りからユーロニンフ、マイクロスカジットまで幅広い役割をこなす4番タックルが出揃っています。そちらも参考にして、自分の好みの4番ワールドを楽しんでください!

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