フライフィッシングについて – フライリールを選ぶポイント
フライリールはフライラインとリーダーシステムを巻き取って収納しておくための道具としての役割だけでなく、ラインの先にいる強い魚とのファイトのために魚へプレッシャーをかけるための武器でもあります。キャスティングにおいてはフライロッドとのバランスを取る役目もありますし、ラインハンドリングのための実用性に裏打ちされた機能美はアングラーを魅了します。
構造上シンプルなのでフライリールは安価な物からプレミアの高い物までたくさん出揃っており、実用的なフライリールを選ぶ時には迷ってしまうと思います。フライリール選びで失敗しないためには、フライリールの役割を理解し、自分がどんな釣りのためのどんなタックルを組むのかを把握しておく必要があります。
フライリールの構造を理解する
フライリールは「ボディ」と「スプール」に分離できて、ボディにはスプールを抑えておくための防御フレームとしての役割だけでなく、回転を支える機能や魚にプレッシャーをかけるための「ドラグ」機能などが備わっています。またフライロッドのリールシートへ装着するために「T」字型のリールフットが付いておりキャストの時にバランスを崩さないように中央へ重心がまとまるようにデザインされています。このリールフットはフライリールが大きくなると厚みが増すのでフライロッドとの適合が大事です。
スプールにはラインを収納しておく機能などが備わっています。スプールの内径を「アーバー」と呼び、外径を「リム」と呼びます。アーバーの部分にはバッキングラインを結び付けて下地を巻いていきますが、フライラインの収容量をリムから逆算して巻いていきます。
スプールの外側にはリールを巻く時に手で握る「ハンドル」と、重心のバランスを取るために対角線の位置に「カウンターバランス」が取り付けられています。また、フライリールの重量をできる限り軽くするために「ポート」と呼ばれる穴が配列にしたがって開けられていて、フライラインを乾燥させる役目を果たしつつ洗浄する時にも水抜きしやすくなっています。
またボディもしくはスプールにはドラグの強さを調整するための「ドラグノブ」が取り付けられていて、時計回りでドラグをきつく、反時計回りでドラグを緩めるようになっています。
フライリールの素材
ある程度の価格以上のフライリールは軽量かつ堅牢に作るために航空機にも使われているアルミニウムの棒から削り出して作られています。重量当たりの強度が最高レベルであるマグネシウム合金で作られたリールは鋳造で合っても強度と軽さを兼ね備えています。最近は軽量化が進みボディの一部をカーボンファイバーにしているリールもあります。安価なフライリールの場合はプラスチックだったり、型に溶かしたアルミニウム鋳造で強度はあまり期待できません。
また淡水ではフライリール が錆びたり腐食することは滅多にありませんが、海水で使う場合は塩水が伝導体となって錆びを招いたり傷がついたところから腐食することがあります。リール表面の強度や錆防止のためにアルマイト加工(アノダイズド)がされていますが、この加工が一層だけなのか二層、三層なのかでリール全体の経年劣化に対する耐久性が決まってきます。
素材の厚みがあればあるほど剛性が高まり、不意に落としてしまった時のリールの耐久性は上がりますが、その分重くなっていきます。
フライリールの働き1「カウンターバランス」・・・フライロッドの使い方に適合させる
フライリール単体の働き以前にフライリールにはとても重要な働きがあります。フライリールの大きさと質量は、一緒に合わせるフライロッドを使ってキャストやプレゼンテーションを行う時のカウンターバランスの役目を果たしています。
例えば渓流で使うシングルハンドタックルの場合、フライロッドが短く番手も低いのでとても軽くなっています。ここへ大きく重たいフライリールをセットしてしまうと重心が一気に後ろよりへ偏りキャスト時のバランスが崩れるだけでなく、頻繁に片手でロッド操作をするプレゼンテーションが多いのでとても一日使うことができなくなってしまいます。
反対に湖・本流で使うツーハンドタックルの場合、フライロッドが長く番手も高いのでロッドティップ側が重くなっています。ここへ小さすぎて軽すぎるフライリールをセットしてしまうとトルクが崩れてしっかりとしたキャストができなくなってしまいます。また、湖の場合はロッドを脇に挟んでプレゼンテーションを行うことが多いので多少重たいリールでも不便ではありませんが、本流など流れに対するメンディングが必要になる場合は片手でロッドを操作する時に重たすぎるリールは使いづらくなるので、わざと軽いリールを選んでティップヘビーにする場合もあります。
フライリールの働き2「ラインを巻きとる」・・・スプールのライン収容量を知る
釣りに使うフライラインの番手が上がるほどラインの直径が太くなり糸巻き量も多くなるため、様々な大きさのフライリールには、対応するフライラインの番手とバッキングラインの収容量が設定されています。リール個別の収容量はスプールのアーバーからリムまでの直径とスプールの幅で決まってきます。
例えば渓流でヤマメを釣るスプール直径65mm、幅14mmのフライリールは「DT1-3、20lb バッキング50yd」のように指定されています。このリールには「ダブルテーパー(DT)フルラインの1番から3番を巻いた場合に、20ポンドテストのバッキングラインが50ヤードまで巻けます」という意味になります。
今度は管理釣り場でニジマスを釣るスプール直径84mm、スプール幅26mmのフライリールは「WF5、20lb バッキング150yd」のように表記され、このリールには「ウェイトフォーワード(WF)フルラインの5番を巻いた場合に、20ポンドテストのバッキングラインが150ヤードまで巻けます」という意味になります。
ラージアーバーリール
同じリム直径のフライリールと比較して、アーバーが浅く作られていて、スプールにラインを巻き取った時の巻きグセが付きづらくなっています。アーバーが浅いぶん、バッキングラインは多くは巻けませんのでサーモンやソルトウォーターに使う場合はきちんと仕様を確認してフライリールを選ぶことが重要です。
フライリールの働き3「魚へプレッシャーをかける」・・・ドラグ
ほとんどのフライリールには予期せぬ逆転を防止したり、魚とのファイトのために負荷をかけるための「ドラグ」という機能がつけられており、もっとも簡略な構造の「クリックドラグ」とディスクブレーキ構造の「ディスクドラグ」に分かれています。また、一般的にはスピニングリールやベイトリールのようなギア機構を持たず、ギア比1:1での魚とのファイトが要求されますので魚の力をダイレクトに感じつつ、100mラインを出されたら100mファイトして巻き取らなくてはなりません。
クリック&ポウドラグのフライリール(クリック式リール)
スプールについた歯車をボディのクラッチ(ポウ)で抑えることで回転に対する抵抗を加えます。独特な「カチカチ」とか「ジジジジ」という音がします。クラッチに対するバネの締め付けだけしか無いのであまりドラグは効きません。クラッチの位置を付け替えることで、左巻き・右巻きを切り替えます。
渓流で使われるフライタックルの場合は、リールを使ったファイトをすることが少ないこと、独特な音が様式美となっているので趣を楽しむためにクリックリールを使うことが多いです。大物や走る魚をかけた場合は自分の手の平をスプールのリムに押し当てる「パームドラグ」をかける必要があります。
ディスクドラグのフライリール(ディスク式リール)
自動車のブレーキと同様なディスクブレーキ機構がついているフライリール で、ディスクの設計に応じて強いドラグを効かせることができます。ボディ側にブレーキ用のディスク、正反対にスプール表面を直接当てるか、科学繊維で作られたディスクを当てることで摩擦熱を逃しながらブレーキを働かせるようになっています。
密閉式カーボンファイバー ドラグ リール
一般的には「密閉式」(コンシールド)として作られています。カーボンファイバーのディスクは熱が籠りにくく、設計の自由が高いので何層かに重ねることで限られたスペースでドラグの強いリールを作れるため、小さくてもドラグが十分なリールが多くなっています。カーボンファイバーは設定したドラグ力に到達するまでのスピードが速く正確で、その後緩やかになっていきます。この正確さを活かして魚をかけた後は自分でドラグ調整しながら使います。
また密閉型は外部からのゴミや塩水が入らないので、メンテナンスをしなくても使い続けられるメリットがあります。逆転防止のためにワンウェイ設計されたドラグディスクの向きを変えることで左巻き・右巻きを変えられます(仕様によってはメーカーの専用ツールが必要)。
コルク ドラグ リール
スチールヘッドやソルトウォーターに対応したフライリールでは、コルクディスクを使ったフライリールも使われています。コルクディスクは収縮するので熱を逃しやすいだけで無く、面積を広くすることでドラグ力を強くすることができます。コルクは設定したドラグ力に到達するまでのスピードが緩やかで、かつドラグ力以上のピークに達してから緩やかになっていく特性があります。このため急ブレーキによるティペット切れが起こりづらく、適当に締め込んでおいても自動的に魚にプレッシャーを与えてくれるのでファイトの初動で有利になっています。
コルクの表面にグリスを塗らないと効き目が出ないため、定期的なメンテナンスをする必要があります。ドラグディスクの向きを変えたり、クラッチの位置を付け替えることで左巻き・右巻きを切り替えます。
最大ドラグとドラグの設定
無理なくしっかりとドラグを締め込める最大レベルを「最大ドラグ」と呼び、リールの作りによって大きく異なっています。また、いくら最大ドラグが強力だからといって、滑り出しがスムースでないドラグではティペット切れや不意なバックラッシュを起こしてしまいます。例えば川でトラウトを釣るディスクドラグ・リールの場合、1kg未満の最大ドラグでも間に合います。大きな川や湖で大きなトラウトを狙ったり海や河口でシーバスやサバなどライトな魚を釣る場合は2kg前後の最大ドラグのリールで十分ですが必要に応じてパーミングでドラグをさらに強くする必要があります。
リーフエッジや沖合などで強い力で突っ込んだり走り回る魚を相手にする場合は、余計にフライリールに触ると怪我をするリスクがあるのでパーミングを不要にするため、最低でも3kg以上必要になります。
ドラグを初期設定する際は、その釣りで使うティペットもしくはクラスティペット(特定の強さで切れるように組んだセクション)の強度の1/3程度にセットしておいてティペット切れやバックラッシュを防ぎつつ、ドラグを締め込めるようにしておきます。また、ドラグ性能はスプール中央へ向かうほど強くなるので、そのリールの最大ドラグを計測する時はバッキングラインの部分で測ります。
パーミング・・・スプールへ手で直接ブレーキをかける
不意な大物がかかったり、ファールフックで魚の尻尾へフックがかかってしまった場合は魚は走りながら強い抵抗をすることがあり、想定してたリールのドラグでは間に合わない場合もあります。その場合、「アウトスプール」と呼ばれるスプールリムが露出しているモノであれば、ラインハンドの掌=palm(パーム)をスプールリムへ押し当てることでブレーキをかけることができます。「インスプール」と呼ばれるハウジングの中にスプールが収まっているタイプのリールの場合でも、リムが露出するように作ってあったり(Abel Speyなど)、リムでは無くサイドからプレッシャーをかけてブレーキをかけられるリールもあります。
アウトスプールとインスプール
アウトスプールのフライリールはスプール交換が速かったり、最軽量の物が揃っているので便利ですが、反面スプールとボディの間にわずかな隙間があるので、本流におけるスイングの釣り、特に細いモノフィラメントのランニングラインを使う釣りでは中へラインが挟まってしまうことが起こります。インスプールリールはハウジングの中にスプールが丸ごと収まる構造になっているのでこの心配がありませんが、肉厚になる分、重量は増えます。
フライリールを選ぶポイント・・・スペック
どんなフライリール が必要なのか、釣りの時に求められる仕様を書き出しておきます。
- ラインシステムの収容量・・・フライラインのタイプと番手、バッキングラインの必要量
- ドラグ機能・・・クリックかディスク、ドラグのタイプと強さ
- フライロッドとのバランス・・・直径と質量
- 素材・・・軽さをとるか剛性をとるか
自分の釣りのスタイルを考える・・・フライフィッシング・カルテの作り方
フライリールのスペックを書き出しても、同様なスペックの物がいくつも見つかると思います。
この中から自分のフライリールを見出すためには物欲先行やハードウェアとしてだけで選ぶのでは無く、自分がどんなスタイルの釣りをするのかを把握しておく必要があります。把握さえしておけば、プロスタッフとの相談も通販の商品選びもスムースになりますし、無駄に合わないフライリールを増やしていくことも無くなります。
例えば「山岳渓流で軽快にヤマメを釣りたい、尺を取り逃したくない」場合は:
- リーディング&アプローチ・・・小渓流で周囲を樹木に囲まれている中で釣り上がりする
- フライ・・・小型のドライフライがメインだからリーダーシステムはゴツくないのでリールの場所は取らない
- キャスティング・・・距離よりも正確性が大事だ -> 軽く短いフライロッドである必要があるので軽く重心が低すぎないカウンターバランス
- プレゼンテーション・・・複雑な流れでフライをドラグフリーで流す必要がある、DTフライライン&ロングティペットを使う
- ストライク&フックセット・・・ロッドで合わせるので考慮の必要なし
- ファイト&ランディング・・・堰堤や滝壺、プールで大物が深みや流れに逃げ込んでも絶対に取りたい、念のためバッキングは50ydは欲しい
- キャッチ&リリース・・・写真を撮る時に自分のこだわりを光らせたい
ここまであらかた把握しておけばいいと思います。もちろんここまで明確なカルテを作れない初心者や忙しい方の場合は「オススメ」や「〇〇セット」というテンプレートを選ぶことになりますが、最低限どんなフライフィッシングをやってみたいかは、雑誌やYouTubeのビデオをみたりして、あらかたイメージしておく方が、タックルを買い直すことも減るので経済的だと思います。
上のケースの場合、一つの答えとして「SAGE Trout 2/3/4」の「ブロンズカラー」を選ぶというのはどうでしょう?
「WF4 + 100yds/20lb」なので本州の渓流だけでなく北海道の渓流でも使えるスペックです。アルミニウム削り出しで堅牢なのに重量もわずか135グラムで渓流用フライロッドとのバランスも良く、ラージアーバーでラインの巻きぐせもつきづらいです。しっかりとしたドラグで不意の大物にも心配なし!インスタにも映えるブロンズカラー!
なーんて具合です。
まとめと続き
初心者だけでなくベテランもエキスパートも、いやスペシャリストでさえフライリールを選ぶのは悩みます。長く使う良い物は決して安くないので、タックル全体のコストを割り出したら、それを何年間使い続けるか考えた方が良いと思います。自分の体のスペックも大事ですので末長く使うフライリールと出会えますように!