クロダイキャンプ2018@浜名湖のフラット
江戸時代から伝統的な釣魚として君臨する魚「クロダイ」は、日本のほぼ全県でターゲットにできる魚です。タックルや釣法の進化した現代ですが、フライフィッシングでは相変わらずクロダイは「よく分からん魚」のままになっています。「ボーンフィッシュみたいな魚」「シャローの釣りって干潟やリーフ?よくわかんない」「旅先でクレイジーチャーリーで釣る魚」「特殊な狙い方をする難しい魚でしょ」などなど、良くも悪くも誤解の多いミステリーフィッシュになっていますが、実際の姿をしっかりと確かめるために、浜名湖でクロダイキャンプをやってきました。
2日間じっくり一緒に過ごしたクロダイという魚は、非常に身近な魚でありつつもじっくりとマッチザハッチに取り組むに足る奥深いフライフィッシングの好敵手でした。
身近で奥深いクロダイ
クロダイの仲間は北は北海道から南は沖縄まで幅広く生息しています。最も幅広く生息している代表種の「クロダイ」を筆頭に、ヒレが黄色い「キチヌ(キビレ)」、奄美から沖縄へ生息する「ミナミクロダイ」、沖縄から香港に住む「オキナワキチヌ(チンシラー)」、オーストラリアでは"bream"(タイみたいな魚の総称)と呼ばれて愛好家が多い魚なれど日本では西表島だけにひっそり暮らす「ナンヨウチヌ」まで5種もいる全国区で身近な魚だと言えます。
中でも塩分濃度が高い場所を好むクロダイは岩交じりの砂底の生物を好み、カニはおろか二枚貝をも嚙み砕く口のおかげでいつでも餌にありつけるので、わざわざ積極的に何かを追って浮上することが少ない魚です。これらの場所の底生生物は穴を掘ったり石の隙間へ隠れる習性を持つため、クロダイの餌場となっている場所の底はクロダイが掘ったクレーター状の穴が点在したり、クロダイの隠れ場所ともなっている岩の近くにカニや貝の殻が散らばっていたりします。
また非常に発達した目が前方よりについていて、色彩・図形認識や距離感に優れているだけでなく、卓越した動体視力で保護色のカニを底から判別したり、上空の鳥を察知したり、人間を背景から見分けることなど容易にやってのけます。さらにクロダイを含むタイ科の魚はウキブクロが進化していて、人間では聞き分けられない音波を察知したり、ウキブクロを振動させることで音波を発生させて暗い中でも狭い岩の隙間をすり抜けたり、地形や餌を補足したり、仲間同士でシグナルを伝えあっている様子も観察されています。この魚を警戒させずに釣るためには丁寧なストーキングや待ち伏せが必要となります。
ベントスを食べるボトムフィーダー
コイやボーンフィッシュ、一部のモンガラカワハギの仲間はベントスと総称される底で暮らす生物を捕食することが多いため「ボトムフィーダー(底から食べる者)」と呼ばれますが、クロダイもボトムフィーダーです。多くのベントスは水中での動きが遅いので身を守るために砂底や泥底に穴を掘って潜る習性があります。これを掘り出すために、魚たちは「テイリング」と呼ばれる頭を真下にしながら尾びれで目一杯踏ん張る姿勢を取りながら、エラから吸い込んだ水を思いっきり口から放射して、穴を掘りながら露出したり逃げ出すベントスを攻撃して弱らせながら捕食します。
また、自力で潜ることができないほど弱ったベントスは逃げ切れないので動かず、ジリジリと逃げる程度の動きしかしません。岩からずり落ちて逃げようとしたり、穴や凹みを見つけて少しでも隠れようとしたり、流れに乗って漂流しようとしたり・・・最後の抵抗を試みます。クロダイから見れば、この状態のベントスはあと一息で仕留めたり咥えられるため、魅力的なターゲットに映ります。
ベントスの中でも比較的に俊敏なボケジャコなどはジャンプして魚の視界外へ逃げようとします。これらは警戒心が強いので濁りのある時や暗い時間帯にしか活動しませんが、クロダイにとっては淡水のザリガニに匹敵する栄養価の高い優先的なターゲットとなります。この時ばかりは警戒心が強いクロダイがしつこく後を追って食べようと攻撃的になります。
フライフィッシングではどんな狙い方があるのか
横浜や大阪ではボートから岸壁や橋脚でイガイやカニを食べるために浮いているクロダイを、後ろからボートで狙うサイトフィッシング、浜名湖ではフラット(干潟)に餌を取るために上がってくるクロダイを静かに狙うウェーディングやオカッパリのサイトフィッシングとボートで移動しながらポッパーで狙う釣りなど、様々な狙い方があります。ここでは最も基本的で応用が効きやすいウェーディング&オカッパリのサイトフィッシングで狙うことにします。
小さいジグフライとシングルハンド4番タックルでやってみる
今回はきっちりとクロダイを理解した上で、プレゼンテーションの組み立てに必要なフライの針選びから始めて「コメコメクラブ」というオリジナルの小さなカニを模したジグフライを用意しました。岩場や藻場に多い保護色のダークオリーブと砂場に多い保護色のタンを明るい時間。濁った場所や明かりが少ない場所でも見やすいブラウンも用意しました。カニが多い浜名湖で使うのでベースはカニですが、いざという時はボケジャコやエビに間違えやすいよう、テールのカラーでボケジャコならオレンジ、エビなら透明感のある色などにしています。姿勢制御やアピールのために必要なレッグは長めに作っておいて、現場でカットして調整します。ダンベルアイは光を反射しない方がいいのですが、手持ちのタミヤペイントマーカーを切らしていたので、マッキーで使う時に黒く塗りつぶします。
小さく軽いジグフライをプレゼンテーションすればいいので、投げることができる中で最も軽い9フィート4番タックルを使います。管理釣り場や本流、湖でトラウトやバスギルを狙ったり、ソルトもできる便利な番手です。6番ロッドと比べてラインインパクトも少なければ、ティップも繊細なので前アタリを分かりやすくするのが狙いです。
リーダーシステムはロッドの長さに合わせた9フィートのテーパーリーダーに、ティペットは落としたフライが無用に動かないように6フィートにします。ニンフの釣りと同じく着水音を小さくしつつ、トラブルを減らして綺麗にターンオーバーさせるため、意識してワイドループでキャストします。
ストーキングの重要性
身を隠す場所がないフラットではストーキングの基本となる服装には気遣いが必要で、現地のカルロスさんのアドバイスで、上半身を空の色を基調にしたカモフラージュで包みました。これだけやっても至近距離でクロダイにバレると、露出しているサングラスや眼の部分の動きをじーっと見つめて、頭を左へ動かせば左へ向きを変え、右へ動かせば右へついてきます。
また、これは浅瀬でボーンフィッシュやコイ、トラウトに接近する時にも有効ですが、格闘技でもやる摺り足でゆっくりと足を運ぶように歩きます。この歩き方では足音が立たないので、魚に他のボトムフィーダーと勘違いさせて驚くほど近くことができます。また体勢が安定しているので素早く次の動きに移ることができるだけでなく、転倒防止にもなります。
タックルや装備品がいたずらに振動を発生させたり太陽光を反射させたりしないように気をつけたり、鳥と間違われやすいフライラインの素早い動きも極力減らすようにします。
日中のサイトフィッシング
今回は100%見えている状態でフライへの反応を確かめるために、明るい時間に足場の高い場所から岩まじりの浅瀬のクロダイを狙います。トラウトをプールで釣るのと同じ丁寧さと効果的なプレゼンテーションが求められます。2匹のつがいもしくは数匹の編隊でクルージングしてくるクロダイたち。先頭をパイロット役のクロダイが先導しますが、この魚の視界の中でフライラインが飛んだり、フライやラインシステムが水しぶきを上げると一発で後続の魚たちも引き連れてスプークします。視界の外でフライラインを操作してフライはコースを読んで丁寧に落として沈めておくようにするのが基本となります。
うまくクロダイたちの近くにフライを置くことができたら、どの魚へプレゼンテーションするのかを選び、コールします。群れによっては食事が目的ではなく、つがいとなる相手探しや体のグルーミング、岩や藻の間での休息のためにやってきます。胃を持たないコイと違って食べ貯めが効くクロダイは、餌が多いフィールドでは一切焦って捕食することはありません。どの魚が食事モードになっているかの詳細はここでは省きますが、準備ができていない魚をコールするとプレゼンテーションが完遂しないだけでなく、マッチしていないフライが見破られた時には仲間を連れて離脱されてしまいます。
コール選びがうまく行けばプレゼンテーションです。やる気のある魚はフライがミスマッチでも逃げることはありません。またフライがマッチしているだけでは十分では無く、ベントスらしいリアルな状況でプレゼンテーションしない限りフライを咥えることはありません。
今回は1日目は勉強。2日目にコールしたクロダイ12匹に対してプレゼンテーションが成立したのが6匹。フライを咥えたのが2匹でしたが、残念ながら硬い口にフッキングができず、どちらもクロダイとロッドの角度が悪くなった瞬間にポロっと外れてしまいました。面白いことにフライを咥えた魚はテンションを強くかけない限り、フライが外れても逃げません。もう一度同じものを咥え直すことはありませんでしたが・・・。
テイリング打ち
今回は明るい時間帯にテイリングしてくれるクロダイが皆無だったのと、早朝の条件が合わなかったので夕暮れの中でテイリング打ちをやりました。この状況では「ただいまテイリング中」の魚だけで無く、いつテイリングしても良い魚が水面に起こすわずかな曳き波「ナーバスウォーター」を見つけることも重要です。
1日目はどれがボラでどれがクロダイのナーバスウオーターなのかの判別ができて無く、日中にフライを咥えさせるところまで行かなかったので自信が持てずに、実際の条件は良かったのにプレゼンテーションをわずか5回程度に抑えてしまってました。使うフライもアピールの強いテイリング用を準備していなかったり、見えない魚を相手に十分なアピールができてなかったり、アタリが出始めてもボトムへの引っかかりなのかフライを咥えているのかが判断つかずフッキングもトライせずに終わりました。
2日目は仕事を終えたカルロスさんも参加。ボラだと思って無視していたナーバスウォーターが実はクロダイであることを知ったり、どれくらい近づいてもいいものなのか、お手本がいると全然違います。また1日目の失敗やボトムの状態やテイリングしていた場所の知識が活かせるので、ナーバスウォーターだけで判断して先回りで釣れるのは大きなアドバンテージです。
前日にテイリングがあったアマモの場所へストーキングすると数匹のナーバスウォーターがあったのでフライをプレゼンテーション。波紋が収まるのを待ってから底をひっかくようにリトリーブしてコールしてから糸をたるまないように置いておきます。フライラインが変な動きがする前アタリを見て、聴きアワセをそっとすると咥えたか咥えてないかがはっきりと分かります。かじっているだけのアタリ。咥えて落としているアタリ。咥えてホールドしているアタリ・・・。同じ場所に数匹いるのは確実です。フライラインが少し引き込まれるまで待ってから静かにアワセると、綺麗にフックがセットされただけでなく、魚を暴れさせることなく仲間から離してファイトに持込めました。
どれだけの集中力だったのでしょうか!?ロッドを低く落として水面で暴れさせないようにして、手前までロッドのバットパワーで引き寄せてからなかなか顔を出さない強いヒキのクロダイを丁寧にランディングすると思いの外小さい30cm前半サイズのクロダイでした!
横浜でボートから橋脚のクロダイを釣ったり、三浦半島でボラやコトヒキを釣ろうとしていた時にニンフでキビレや小さいクロダイを釣ったことはありますが、ちゃんとシャローフラットで組み立てて狙い通りに釣れた記念すべき1匹目です。写真を撮ったり作業のために離れて、もう一度同じ場所へプレゼンテーションすると前アタリが出ます。しかし、フライラインをわずかに引き込む本アタリはもう一度出ましたがフッキングできませんでした。数回の前アタリの中で、明確な本アタリ2回中フッキングできたのは1回。
これはキビレやナンヨウチヌなどとは全然違う・・・。ヤマメとイワナの違いどころか、ヤマメとブラックバスくらいの差があります。しかし組み立てができた線上には次のステップが確実に待っているので、努力の見返りも非常に大きい魅力あふれる魚です。フライフィッシングにおいて、確実に奥行きを広げてくれる重要なターゲットであることは間違いありません。その先に年なしサイズのクロダイがいるのか、沖縄や奄美のフラットのクロダイ属がいるのか、モンガラやタマンがいるのか、ボーンフィッシュやパーミットがいるのか・・・。トラウトだって底のものを食べている時があります!シャローフラットで求められるストーキング技術とボトムフィーダーへの対処術はあらゆるフライフィッシングに役立つでしょう。
フライ:コメコメクラブ
丁寧にフライを置きに行く手間と、やる気のある魚や群れがアタックする中から本アタリを取りにいく必要があるシビアな状況では、フライが壊れやすくては釣りになりません。実際に食われて無事に生還したコメコメクラブ2本。あれだけアタックされて左のテイリング用も右のサイト用もレッグ1本抜けていません!秘密はタイングスレッド「センパーフライ・ナノシルク」です。タイング情報はこちらから。
シングルハンド4番タックル
前アタリを取るのに4番ロッドのティップは非常に有用でしたが、もう少し柔らかい方が食い込みが良いと思うのと、サイトフィッシングの時には動きを極力減らす中で少しでもリーチが長い方が助かるのでユーロニンフ用のロッドでバットの強いものを模索するつもりです。
- ティペット:シーガーエース フロロカーボン2号(8lbテスト相当) 6フィート
- テーパーリーダー:シーガーエース フロロカーボン5->4->3号 3フィートずつ
- フライライン: Scientific Anglers エリアブースターWF4/5番フローティング
- フライロッド: TFO Jim Teeny 940:9フィート4番
- フライリール: Bauer MXP3