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北海道ツアー12日目パート1:釧路 – 別寒辺牛湿原の夏イトウ

2023/09/02イトウ,カヤック,キャンピングカー,フライフィッシング,ユーロバン,北海道,,湿原,釧路

文明的な楽しみのある世界と決別して、「カヤックで湿原を釣る」の続きに戻ります。厚岸の道の駅を出発して別寒辺牛川へ向かいます。釧路川よりもマイナーな湿原河川なので週末以外はカヌーツアーはほぼおらず、汽水湖を経由した流れが緩い湿原河川なのでイトウが狙いやすい環境なのだと思いますが、湿原全体が人類からのアクセスを遮断する分、釧路湿原よりも遥かにヒグマが活動しやすい地域でもあります。

カヌーポートは「別寒別牛橋カヌーポート」と「厚岸水鳥観察館カヌーポート」の2カ所だけで、国道44号と川が交差する橋のところにも、誰かが作ったカヌーポートがあります。これ以外のルートも工夫次第ではDIY出来そうです。まずは早朝、別寒辺牛橋カヌーポートへ向かいます。

別寒辺牛川中流

「クマ出没 7/8」の看板がありました。日付だけ何度も書き直した痕があるので、人間の方がクマ生息地へ出向く場所ということでしょう。週末はカヌーイストやカヤッカーがたくさん出入りしていた痕跡が残っていました。エントリーは泥でぐちゃぐちゃです。水温は15℃を切るくらいでトラウトを狙うには良い感じです。

川沿いに釣り人が歩いた痕も残っているので、流れの強さと魚の反応を確かめるためにもシングルハンド6番タックルをスカジット+フロートティップにセットしたもので、湿原の川の黒い水でも見えやすい黒いスイングリーチを対岸のキワへギリギリにキャストしてスイングさせますが、ポートの上下流100mくらいを釣ってみましたが全くの無反応。流れはゆったりとしていますが、重たい流れなので魚の目の前までリーチを沈めてから通さないと反応は厳しそうです。アップストリームだと非常にやりづらいく、釣り下った方がいいですが、ドラグアンカーがありません・・・。

続けてGoogle Mapを確認しつつ、ドローンで周辺偵察を行います。このカヌーポートから下流の野鳥観察所まで下っていくルートはゴール側に自転車を置いてくることで組めるか検討しましたが、16kmほどの陸路ルートは都内に例えると渋谷スクランブル交差点からスカイツリーまでと遠い行程です。とても攻め切れないと判断して反対に漕ぎのぼる方向をチェック。

上流側の別寒辺牛川の本流は狭く、魚の隠れ場所をフライラインで叩かないようにアップストリームへキャストする場合は、左右どちらかへカヤックを寄せることになります。しっかりとカヤックを止められないとキャストしている間に茂みに突っ込んでしまいます。モロに森林の中を縫う川なので、以前カヤックフィッシングをやった西表島のマングローブ河川の仲間川と似ていますが、そこでも釣り上りは満足にポイントを攻め切れず、結局奥まで行ってから釣り下った経験があります。

仲間川でも野生のイノシシの立てる物音を気にしながら釣っていましたが、ここは湿原に点在する小高い場所にある森から森へヒグマが川を横切るので有名な川です。さっさと下っていけば気にならないでしょうが、ゆっくりと下っていかないと釣りにならないわけで、ドラグアンカーも無い以上、どうにもリスクに見合う結果に自信が持てず、モチベーションが上がりません。

湿原から滲み出てきた水が池になっている開けた場所もありますが、ドローンを低空でホバリングさせて様子をみてもライズもボイルも見られません。釣りじゃ無ければ良いのですが、別寒辺牛川の本流は諦めて、支流を目指します。

支流チライカリベツ川で実験的なカヤック・フライフィッシング

いくつかエントリーできそうな場所を探しますがどれも車を駐車してからの川へのエントリーが厳しいところばかり、地図をじーっと見ていると「糸魚沢」という名前の地名があります。待てよ、確かイトウって「糸魚」って字で書くよな・・・。そう思ってすぐそばを流れる川の名前をネットで調べると「チライカリ・ベツ=イトウの住む川」とあります!おお!完璧。

マジックワードで迷いが断たれた人間の行動は素早く、川へ到着したら橋から偵察、流れはゆっくりで橋の上流側にライズ発見。よし!初出撃です!

ルーフボックスからカヤックバッグをさっと取り出し、川そばまで運んでから準備開始。エアー入れから装備セットまで12分ほどで完成!この速さならば10分切れるかも!?スタビライザーフィンは使わずにしまっておいて、草むらからさっさとエントリーです。川幅が広くなる下流方面へ釣り下って様子を見て、良さそうであれば一旦戻り厚岸カヌーポートまでの6km程度の流域を釣るために下流まで自転車を置きにいく作戦です。場所が狭いので引き続きシングルハンド6番スカジットでインタミのシンクティップ。フライは湿原の水でも見えるよう黒いスイングリーチを結びます。

エントリー前にドローンで周囲を偵察しますが、背の低い樹木以外は開けた湿地で、クマというよりもシカが好みそうな地形ですからプレッシャーもなくなりスタート!

はじめに下流へ1kmほど釣り下ってみましたが、アメンボが平和に浮いているだけで全く生命感がありません・・・。水温は17.5℃。森が無くて開けた地形で流れが緩いのでは水温が上がってしまいます。この間、スイングリーチを根掛かりするするほど沈めて探ってみましたが、何も反応がありません。狙い目になるポイントも水上の地形からはヒントがありません・・・。

あと1km行こうと先へ進んでいくと流れはさらにゆったりとなり、微かに鉄道の音が聞こえてきますが周囲の景色は変化がなく、魚っ気も全くありません・・・。アタリは愚か、チェイスもリアクションも無ければ、餌になりそうな小魚やウグイもおらず一羽のカワセミが芦原の上を飛んでいくのが見えただけ。カワセミの飛び方を見ると、脇目もふらずに大きく移動中なので、狙えるポイントまで距離がかなりあるのかもしれません。

実際にフィールドでじっくりとやってみて分かったことですが、ドリフトボートと違ってカヤックは視点が低いので芦の茂みでは見通しが効かず少し離れた場所の音も高い音でないと聞こえてきません。景色も単調なので最初からコースを決めて移動していくか、よっぽど釣れるポイントをすでに知っているならまだしも、GPSプロッター付き魚探で底の変化を確かめながら現在地と周囲の地形を見ながら移動していくか、ドローンを飛ばして視界を広げて狙い場所を目で確認していかないと漕いでいくモチベーションを維持するのは大変です。

プカプカ・ランチをしていたら戦争開始?

どのみち、一旦上がって自転車を置きに行かないとならないので、ジャスト1.5km下ったところで一旦釣りをやめて、チーズステーキを少し焼いたものとThemosポットに入れた熱いコーヒーで早めにランチを取ります。釧路川よりも断然涼しくて、カヤックを漕いでも気持ちい風が体を冷やします。プカプカしながら鳥の声を聞いていると最高のリラックスになります。

朝が早かったので食後にウトウトとしていたら、遠くから「シュパ、ズズーン・・・」という砲撃音のような音が間を空けて聞こえてきてびっくりしました。繰り返し聞こえてくるので、よく聞くと砲撃音?昔、中学生の時にカリフォルニアの海兵隊基地「キャンプ・ペンドルトン」で一夏ホームステイした時の砲撃音を思い出しました。確か155mm榴弾砲だったと思います。ノースキャンプの海兵隊博物館へ行っていたら、予告なしの砲撃訓練が始まってその時に聞いた音と似ていましした。

事前にマップを確認した時は北へ行った別海町に自衛隊矢臼別演習場がありますが、もっと遠いと思っていたので近くへ着弾するような場所へ入ってしまっていたらまずいと思って焦ってGoogle Mapを再確認しましたが、音が近づいてくる様子は一切無いのでとりあえず安心。

ちゃんと確認すると別寒辺牛の湿原を挟むと実際は20kmあるか無いかくらいしか北へ離れていない場所も演習地の一部で、戦車や自走砲の射撃訓練を自衛隊や米軍が行っているそうです。聴き間違えで無ければ、この日も訓練が始まったのかもしれません。いよいよロシアとの国境に近い防衛圏にやってきたのだと気づきました。でもまだ午前中だし、現地の住民だったら相当気になるだろうなぁと思いました。

コーヒーをすすりながら、別の考えも浮かびます。これだけ派手な音を出していたら、森に棲む動物たちは南へ行きたがるよな・・・。このタイミングで別寒辺牛川の中流へ入っていたら出会ってしまってたかもな・・・。なんて妄想しながら厚岸町のヒグマ出没情報「ひぐまっぷ」を見てみたら、そもそもこのチライカリベツ川あたりの湿原も含めて厚岸近郊の自然環境は普通にヒグマの活動域で、営業運転中の車両からもよく目撃されているようです。でもこの数時間カヤックを漕いでいる限りは、タンチョウの鳴き声とシカの足音は聞こえても「ケーン!」という警戒音は聞こえないし、どちらかというと子育て中のタンチョウの巣に近づきすぎて攻撃されないか心配した方が良さそうです。

橋の上流側へ

自転車を置きに一旦上がる前に、最初に見たライズしている魚が気になったので橋の上流方向へ行きますが、今は静まり返っています。水温はこちらの方が16.5℃と低いので、1kmほど釣り上がってみることにしました。ところが1kmほどの流域には目立つポイントはほとんどなく、橋から200mくらいのところにあった倒木とその上に迫り出す木があっただけ。

狙い目はこれだけなので、戻りに西表島でやったように慎重に距離をつめてカヤックをロッドハンドの反対側に寄せてパドルをアンカー代わりに茂みにセットします。焦らずに観察していると、ナーバスウォーターが倒木の周囲で起こっています。何かしらの魚がいるのは間違い無いですがこれらを狙うイトウも一緒に潜んでいるかは分かりません。

流れはほとんど無いので、倒木の下にイトウが隠れていると想定して、スイングリーチを倒木の奥へ岸ギリギリにキャストして綺麗にターンオーバーさせたら、根掛かりする前に手前へ長いストロークでリトリーブします。するとフライの後ろから「モワ〜」っとナマズやパイクのようなモジリが!しかし、フライへアタックは無く、倒木から1mくらい離れたら「パシャ」っと別の魚がフライを突きました。

この刺激が合図になって小魚が水面でざわつきましたが、やたらと忙しないライズで赤っぽい体色・・・。うーん、こんな場所にヤマメやニジマスがいるとは思えないので90%の確率でウグイさんです。またモワーっとフライを追った魚ですがナマズは生息していませんので、イトウだと思って間違い無いですが、その一投以降はいくら投げても反応は無く、フライが倒木から離れるとウグイがじゃれついてくるだけ・・・。

イトウを諦めて、ウェットフライに結び代えたら、20cm少しのウグイが食いついてきました。このまま泳がせておくと、隠れているイトウが出てきてくれるかもしれない、そう思って3分くらい泳がせていましたが、全く無反応なまま暴れたウグイが針外れしてポイント全体が沈黙してしまいました・・・。

橋へ戻って流域全体を攻める前に、今回釧路川水系と別寒辺牛川水系でやってきた、この実験的な釣りの少ない材料を並べてみます:

  • 夏のイトウは少しでも水温の低い日が当たらない根掛かり必須の場所の奥にいる、オープンな場所には出てこない
  • 湿原の川をカヤックで移動して狙いやすい位置につけるアプローチは有効
  • 野生動物対策は必須
  • 約3kmの道のりでイトウの反応があったわかりやすい障害物ポイントはわずか1ヵ所
  • 釧路川に至っては100%偶然の出会い
  • GPSプロッター魚探で水中の変化を見ないと障害物探しだけではポイントが増やせない
  • 障害物のポイントではブラックバスやシーバスの「シェードの釣り」プレゼンテーションが有効
  • カヤックを静止させポジション取りした上で、精密なキャストで入れてやっとリアクション
  • チャンスは一回で合っているパターンを食わせないと沈黙

推理&分析としては:

  • 流れが緩い場所で16-18℃の水温は高すぎて酸欠気味のため隠れ場所での休眠モードになっている
  • 目の前にフライを入れてやらないと始まらないが、それでもロクに追わないほどの夏バテ状態
  • 仮にヒットさせたとしたとしても酸欠で強いファイトはしないだろう
  • ファイトさせた結果のグロッキー状態がイトウに致命的なダメージを与える可能性が高い
  • 蘇生用のホースのための電動ポンプなどの装備はカヤックには持ち込めない
  • きちんと適温で個体が元気であり、リリースにも問題の無い流水ポイントは太い流れとなるのでアンカリングができないと攻められないが、そのための装備と段取りが必要
  • それだけの段取りが報われるだけのポイント数が成立するかどうか、イトウへのダメージが無いかの確認をして、「やる・やらない」を判断するゲームである

この釣りで1匹釣ることはゲームとフィールドの可能性を広げてくれるのは間違い無いですが、これはスポーツフィッシングであって、漁ではありません!夏場の高水温で弱りやすいイトウを貴重な生息地で無理やり釣るのは本末転倒。シーズンを改めるか、流水ポイントを攻める装備が整ったら改めて挑戦することにしました。

タックル&装備情報

シングルハンド6番タックル

  • フライ:スイングリーチ
  • ティペット:Seaguar Ace フロロカーボン2号
  • ティップ:自作インタミティップ8フィート(古いフライラインからカット)
  • スカジットヘッド:OPST Commando Head 225GR
  • ランニングライン: Ken Cube EXシューティングライン フローティング(半分でカット)
  • リール:Tibor Light Backcountry CL
  • ロッド:R.L. Winston Boron II-MX 906

カヤック

  • インフレータブルカヤック:Aqua Marina Betta VT-312
  • 艤装:Scotty グルーオンパッド、Scotty サイド/デッキマウント、Scotty ベイト/スピニングロッドホルダー
  • タックルボックス :Meiho VS-7080N
  • ロッドスタンド: Meiho BM-300 Light
  • ランディングネット: プロックス オールインワン300