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「マッチ・ザ・ハッチ」のフライフィッシング

2024/07/12ドライフライ,フライパターン,フライフィッシング

(都度更新)

川のせせらぎ、鳥たちのさえずり。透き通った水の中を優雅に泳ぐマスたちを観察しながら自然に溶け込み、賢い魚と知恵比べを楽しむ。「マッチ・ザ・ハッチ」のフライフィッシングは、イングランド南部が発祥の紳士の釣り。スタイルにこだわり、時が経つのを忘れて楽しさを追求する遊びです。

ドライフライをメインに使うフライフィッシングというと、とにかく魚を釣ること優先に渓流や里川を歩き進めながらどんどん探っていく「ショットガン=釣り上がり」その川の性格や詳細を知りながら行う「ライズ撃ち」が挙げられますが、これらと一線を画すのが、なんでもスポーツや遊びにしてしまうイギリス人的な発想から出てきた、「釣るためのサイトフィッシング」をベースにした、スポーツというよりもテーブルゲームに近い「魚が食べているフライ当てゲーム」それが自分と魚のジャムセッションを楽しむ「マッチ・ザ・ハッチ」です。

ハッチの中からマッチを探す

ハッチとはトラウトがせっせと捕食している川で羽化する水生昆虫や川へ落下する陸生昆虫のこと。大きく分けると、トラウトが狙って派手に食べている「質のハッチ」、質より量でせっせと口の中に吸い込む「量のハッチ」、さらには特定の時間に羽化が集中するためにルアーのような動きに魚が狂ってしまう「特別ハッチ」などがあります。ハッチは自然界の働きなので、季節や月毎、週によってもばらつきがあります。それらに「マッチ」したフライを当てて釣り上げることを、マッチ・ザ・ハッチと呼びます。

質のハッチと表マッチ

ドライフライのゲームとしてのマッチ・ザ・ハッチの場合、一般的には質のハッチとマッチしたフライで魚をヒットさせることが面白く、その季節ごとに魚が捕食している中でも大きいハッチにマッチしたフライを選びます。イングランドやアメリカ東海岸の有名ドライフライはこれの対策として開発されています。これを当てる遊びを表マッチと呼びましょう。

「質のハッチ」の典型となる15mmほどの中型のカゲロウを模したマッチ: キールCDCソラックスダン12番

量のハッチと裏マッチ

質のハッチが出現しない、待っている時間が無い場合、マッチ・ザ・ハッチありきのためにノーフィッシュで帰る覚悟が大事です。しかし、手ぶらで帰るのが嫌なアングラーは(私は典型例)、量のハッチにマッチしたフライを滑り止めとして選びます。これで釣れたら「ほら、ユスリカがマッチだった!」と後出しジャンケンで結果を出したことになるので、まさに裏マッチです。

ユスリカのマッチの例「ハックルミッジ」、これで釣るとちょっと微妙

解禁シーズンを通じてハッチしている「ユスリカ」などは良い例ですが、特定の時間に大量かつ集中する量の別の量ハッチがある場合はユスリカを無視されてしまうことも多いので、その場面にマッチしたフライも必要となります。

量のハッチ「夏の場合」の典型、3-5mm程度の極小のカゲロウを模したドライフライ:エルクボディCDCスペント26番

特別ハッチ

夏の雨上がりなどに一斉に発生する「羽アリ」はいい例で、これらは特別ハッチであり、一定時間はそれ以外のものにトラウトが見向きしなくなってしまうことが起こります。これを当てることとでシーズンをほぼ完璧かつより長く楽しむことができます。

ハッチチャートとローカルマッチ

イングランド・エイヴォン川のハッチチャートの例

マッチ・ザ・ハッチを楽しむように確立されたフィールドには、地元のリバーキーパーが必ずいます。
リバーキーパーが作ってくれた「ハッチ予想」を表にまとめたものがハッチチャートです。
チャートがあるフィールドには、ハッチにマッチした完成品フライをストックしているフライショップがあって、通常は毎シーズン更新することで、ショップでは仕入れるフライが変化して、自分でタイングするアングラーも新しいパターンを買っていくのが風物詩になっています。

残念ながら日本はもちろんイギリスでもフライフィッシャーの高齢化やリバー環境維持の難しさから、不定期更新になっています。

伝統的マッチ・ザ・ハッチ: イングランドのチョークストリーム

マッチ・ザ・ハッチの伝統的なプレイフィールドは、発祥地イングランド南部を流れる、高低差がわずかな台地をゆったりと流れる浅い川でありつつも湧水のおかげで水量・水温が安定していて、適度に岩や砂利、水草のある川底のおかげで魚も餌になる虫も元気な場所。川沿いに散策路があって丸太のベンチがあったり自然庭園の中の好みの場所を各自が楽しむけど、人の気配があることで淋しさを感じることなく没入できたり、天気の話からフライ選びまで誰かと会話もできる、一種のパークライフといってもいいスタイルです。

イングランド南西部のエイヴォン川の昔ながらの牧歌的で素朴な「里川」セクション

「ナチュラル派のための半自然半エリアフィッシング」と言ってもいいかもしれません。エリア的なビジネススタイルでそれを実現するとコストの面で大変なので、イギリスでは村やホテル・私有地と釣り場や養魚場・水産試験場、有志クラブが共同でフィールドを維持してきています。

同じエイヴォン川でもエントリー料金が追加で必要な私有地の前のセクション

ここでハッチする水生昆虫のイミテーションには有名なフライパターンが揃っていますが、質実剛健なものもあれば、アーティスト的なフライもあったりしますが、元々はリピート客とリバーキーパーたちがトラウトとの知恵比べで開発した現場パターンです。

より優雅にマナーハウス近くを流れるテスト川は庭園の景観

エイヴォン川やテスト川の名所と呼ばれる釣り場には「ハッチチャート」が用意されており、100%確実を約束するものではありませんが、月毎の主要なハッチを紹介してくれています。

国内のマッチ・ザ・ハッチ:忍野桂川

この遊びの環境が整ったフィールドがエイヴォン川を参考に作られた「忍野桂川です。イギリス人にパッと写真を見せたら勘違いするほど似ています。無いものは教会の鐘の音や川辺に建つパブくらい。

名勝「忍野八海」から天然の湧き水が流れ込むことで水温が安定していて、豊富な種類の水生昆虫がハッチしており、名リバーキーパーだった、故・渡辺訓正さんの残されたハッチチャートは今も健在です。

実践的マッチ・ザ・ハッチ: アメリカ・NY州キャッツキル

完全に遊戯と化しているイングランドのマッチ・ザ・ハッチと異なり、その原型である「釣るためのサイトフィッシング」のまま進化したのが新大陸アメリカ、NY州キャッツキルのマッチ・ザ・ハッチです。厳密にはキャッツキルとアディロンダック両方の広大なエリアで釣りを行うため、イングランドとは比べ物にならない広範囲に広がる複数の川それぞれの名所に通うリバーキーパー的な人物がフライショップと一緒に更新するローカル・ハッチチャートもあれば、キャッツキル全体ハッチチャートまであります。

超メジャーなビーバーキル川:ストッキーが多いので自然派からはイマイチ人気がない
ゆったりとしたフラットな川から岩盤を流れる川までバラエティに飛んだネバーシンク川: 筆者はここでブルックとブラウン相手にドライフライを教わった

本来はハッチに合わせてマッチフライを選ぶ流れが、「この月この時間はこのマッチを使うといいぞ」という、ルアーでいうところのヒットパターンに近いものになっています。また、大都会ニューヨークから通える距離でもあるので、伝統的なキャッツキルパターンだけでなく、アメリカの名所で使われる必殺パターンや、ヨーロッパから来る旅行アングラーが持ってくるメソッドまで、いろんなパターンの影響も受けています。

とはいえ、キャッツキルにはドライフライ・ピューリタンが根付いており、「クイルゴードンかサルファース持ってるか?〇〇ポイントの夕方17:00から始まるハッチで釣りに行こう」などとお互いに連絡して川辺に多い時は10人以上が並んで釣ることも珍しくありません。
ハッチに合わせている、というよりもマッチフライがハッチに当たると喜ぶ逆転現象なので「ハッチがマッチ」と呼ぶ方が正しいのかもしれません。

実践的マッチ・ザ・ハッチ: 奥日光湯川

イングランドのチョークストリームっぽさもあれば、キャッツキルっぽさもある。されど自然公園なのでリバーキーパーが存在せず、個々がリバーキーパーの役割でマッチ探しやハッチチャートを作るのが面白いのが、奥日光の湯川です。

マッチ・ザ・ハッチを楽しむならば、戦場ヶ原を流れる「湿原セクション」

魚が同じブルックトラウトであることもあって、スタイル的にはキャッツキルに限りなく近く、同じパターンが通用する面白さもあります。

帰国して初めて行った時に「ネバーシンク川とそっくり!」でハマった湯川の「岩盤セクション」

マッチ・ザ・ハッチに適したフィールド条件

忍野桂川と奥日光湯川だけだと寂しいので、今後新しいフィールドを開拓するにあたり、マッチ・ザ・ハッチが楽しめる条件を書き出してみました。

  1. 最低限2〜4km程度の下記の条件に当てはまる流域がある
  2. 水がクリアーかつ川底が明るい色で森が深すぎず魚が見つけやすい
  3. 高低差が少ない流れで、ゆっくりとハッチを捕食したりハッチが流れる様子を観察できる
  4. 源流部に湧き水があることで、水量が安定している上に、濁りが入りづらい
  5. 岩と砂および水草のバランスが良く、川底が健康に保たれていて、十分な量と種類の水生昆虫のハッチも、周囲に森が残っていて陸生昆虫など魚のための十分な栄養がある
  6. リリース、キープに関わらず、放流・野生・天然・在来を問わず十分な魚のストックがある
  7. 駐車場完備で川沿いが歩きやすく整備されている
  8. 季節ごとのマッチ・ザ・ハッチのお手本パターンがあってショップやリバーキーパーなどから継続的に知ることができる
  9. フィールドにリピートするヘビーユーザーの仲間がいて、お互いのマッチを比べたり、意外なハッチを知ることができる
  10. 魚に負担をかけずストマック・サンプルを取ることができることでイレギュラーに対応できる

自分で見つけるマッチ・ザ・ハッチ用プレイグラウンド

東京起点だとなかなか「ホームリバー」と呼べる川がないため、奥多摩から秩父にまたがる渓流・山里川でのハッチをTFFCCメンバーがまとめたものです。自分が通うフィールドのハッチチャートを作り、更新していくのも面白い遊びになります。

あとは川でたまにスポット的に見つかるポイントがそれに適していたり、どこかの川や湖岸に期間限定で出現するのを友人から「マッチ・ザ・ハッチ遊べるよ〜」と情報もらって出向く場合ですが、悲しいのは再現性が無いこと・・・。

この遊びは川に居る「見えトラウト」である必要も無くて、大きなカゲロウだけをセレクティブに食べるバスがいる湖なんてケースもありましたし、浜名湖のクロダイのサイトフィッシングも、今後メソッドが確立されていくと、ひょっとすると「じゃあ、マッチ・ザ・ハッチでやろうじゃないか」なんてなるかもしれません?

まとめと続き

湧水河川であれば、成立する名所はあるはずなので、今後色々と情報交換しながら探してみようと考えています。
また発見があれば更新します。

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