フライタイング(フライタイイング)について – 基本編

2023/12/22

フライフィッシングは「フライ」と「フィッシング」という言葉が合体してできているように、フライそのものを自作することが楽しみになっています。フライを自作することを「フライタイング」または「フライタイイング※」と呼びます。

200年以上も前にアメリカ東海岸で考案されて今でも釣れるイミテーション・ドライフライ「クイルゴードン」

様々な魚たちを釣る為のフライ=毛鉤は、小さなものは5mm未満の虫やエビ・カニの幼生から、大きいものは20cmを超える魚を真似たものまで様々なサイズに作ることができます。フライは伝統的には対象魚の「自然な食わせ」を狙い、対象魚の餌となる生物を「ハッチ」や「ベイト」と呼んで、それらのイミテーション(キーとなる部分だけを真似るインプレッションも含む)を表現しますが、ルアーと同じく対象魚の興味を惹きつけて「反射食い」を狙うための完全なアトラクターとしても作ることができます。

ヨーロッパと日本の最新のマテリアルで作られたアトラクタージグフライ「ネオンもっふぃー」

イミテーションの場合、それぞれのフライにはハッチやベイトの「シルエット」、「生命感」、「浮き沈み」の3つの要素が表現されています。アトラクターの場合、「カラー」、「誘い」、「咥えさせ」の3つの要素を表現します。

魚の食性や行動に合わせて数あるフライからベストなものを選んで用意することで、フィッシングの知識と技術を向上させることにもなります。

カスタマイズを通じた知識と技術の向上

しかし現場に合わせたフライパターンを正確に用意したり、一般的であるもの以外のフライは販売されていないことも多いので、その場合は自作する必要があります。フライを自作することを、マテリアル(素材)をスレッド(糸)で巻き留める様子から、フライを巻き留める(タイング)ことで「フライタイング」と呼んだり、フライフックへマテリアルという洋服を着せていく(ドレッシング)様子を指して「フライドレッシング」とも呼びます。フライショップにはフライタイングに必要なツール類や「マテリアル」と呼ばれる多様なフライフックや鳥の羽根などの素材が売られています。

タイングを通じた経済性とアート活動

源流からオフショア(沖合)まで様々なフライを買っていたらお金がいくらあっても足りない!

市販されているフライパターンも含めて自作することで、基本的かつシンプルなものであれば経済的かつ忙しい時間の合間や旅先でもフライを購入するよりも遥かに経済的に用意することができます。年に2、3回くらいしかフライフィッシングをしない人ならまだしも、毎月頻繁に釣りをする人にとってコスト節約となります。

反対にフライを用意する人とフィッシングを楽しむ人に完全に分割されていたサーモンフィッシング全盛期に使われていたクラシック・サーモンフライにおいては、名匠が腕を競いコレクター価値を高める努力の中で、デザインの美しさや希少素材などで独自のアートとして成立しています。

1895年の文献で初登場するサーモンフライ「グリーンハイランダー」、アトランティックサーモンやスティールヘッド相手に今でも実釣可能!

フライフックとフライの作り

サイズや用途にあったフライフックを選び、マテリアルをスレッドで巻き止めていくことでフライは作られています。マテリアルはフライの機能性を満たすだけでなく、シルエットや生命感を表現するように考えられて選ばれています。

ドライフライ、ウェットフライ、ストリーマーを問わず基本的なことだけ覚えておくと、フライの巻き方ビデオやレシピを見た時に理解しやすいのでまとめました。ここではドライフライを例にしていますが、基本構成はウェットフライやストリーマーも同じです。

フライフック

ポイント・・・フックが刺さる重要な部分。かえしがついている「バーブド」とかえしがついていない「バーブレス」があります。
ベンド・・・曲がりの部分でポイントの位置や全体の重量バランス、魚へのフッキング性能を考えてデザインされています。
シャンク・・・軸の部分で主にここへマテリアルを巻き留めることでフライは表現されます。
アイ・・・ティペットを結ぶ接続部分です。ここが塞がってしまうと釣りに使えないので通常マテリアルはここへ使いません。

テール

パターンによってテールのある・なし、長い・短いが異なる。一般的なカゲロウの場合はシルエットの表現とバランスを兼ねて、シャンクと同じ長さのテールを取り付けることが多くなっています。

ボディ

表現される生物によってボディだけの場合とアブドメン・ソラックスに分離している場合があります。

アブドメン

生物の「腹」の部分です。魚が離れた所フライに気づく時、ここを中心とした全体の「シルエット(形状や色)」で判断することが多いので重要なパーツです。

ソラックス

生物の「胸」の部分です。多くの昆虫や甲殻類はここから足や羽根が伸びているだけでなく、どの生物も生存機能が集中しているため、近づいてきた魚はここへ狙いを定めることが多くなっています。またフライに大事な「生命感」を表現する必要があるパーツです。

ハックル

ソラックスにおいて生物の足・ヒレ・エラを表現できるだけでなく、水面へ浮くだけの浮力を与えたり、水流を受けることで細かい動きを与え、生命感を表現することができます。

ウイング

ソラックスにおいて生物の羽根や抜け殻を表現できるだけでなく、風や水流を受けることで生命感を演出できたり、光を反射することで魚に気づかせることができるパーツです。

ヘッド

生物の「頭」の部分です。小魚を模したフライではここへ目をつけることで魚が狙いを定める「ホットスポット」となりやすくなっています。また、フライを巻く時にフィニッシュする場所なので、できる限り小さく頑丈に巻き留める場所でもあります。

タイングに必要なもの

タイングバイス(画面中央)

大きいサイズから小さいサイズまで、様々なフライフックをしっかりとホールドするためのタイング専用バイス(万力)。
初心者向けを謳う価格の安いものはたくさんありますが、フックのホールド機能が甘かったり、作業効率が悪かったりして、むしろ初心者の方には使いづらく、下手すると上達の妨げにさえなっているのが実情です。これに関しては長く使うものなので、初めからフライショップでアドバイスを受けながら良い物を買うのがオススメです。

選ぶポイント

  • バイスのベースがペデスタル(重量のある台座の上に固定)式かトライポッド(三脚)式かクランプ式(机へ挟んで固定)か
  • フックをホールドする「ジョー」の部分が、小さいフックも大きいフックもホールドできるか
  • 手軽に素早く、ぐらつかずにフックをホールド/リリースできるようになっているか(レバー式とスクリュー式)
  • 各種アクセサリーを後から付け足して使いやすく拡張できるか
  • ホールドするヘッドそのものを回転させるロータリー機能が付いているかどうか

これら全てを満たすバイスを製造しているブランドとしては、「ダイナキング」「コッタレッリ」「レンゼッティ」「ストンフォ」「リーガル」「ピーク」が、性能が申し分ありません。ロータリー機能に関しては、予算が許せば付いているものを選ぶ方が、後からフライパターンが増えていった時に困りません。これらのブランドに関しては、買い替えする時にオークションで売る時も、良い中古価格で出せるということがメリットです。

フック(画面左)

様々な用途に応じてワイヤーを加工して作られた釣り針。フライの製作には主にフライフックと呼ばれる、浮いた時の姿勢や魚に対する強度などを考慮して作られた菅付針が使われます。

菅付針は針と釣り糸を結ぶ部分が「アイ」と呼ばれる輪っかになっており、手軽にフライを結び換えることができるようにできています。フライフックはその名の通り、フライフィッシングに特化して作られており、浮かせるために軽量化された「ファインワイヤー」と呼ばれる細い軸の針から、大物の口で破壊されないように太い軸で作られた「ヘビーワイヤー」まで幅広く揃っており、サイズもユスリカのような極小の虫を再現するための#30という幅3mm程度のものから、沖合の肉食魚に捕食されるトビウオなどを再現するための4/0という大きなものまであります。

一般的なトラウトが対象のフライフィッシングの場合、まずは標準的なフライフックの#18, #14, #10の3種類があれば良いと思います。

タイング・マテリアル(画面左)

ただの針/フックを魚を釣るためのフライへと仕上げるために、鳥の羽や獣毛、化学繊維や金属のワイヤーなど、多種多様な素材=マテリアルが使われます。「フライパターン」と呼ばれるフライを巻くためのレシピに従って、マテリアルは用意します。

例)「エルクヘアカディス」の場合・・・エルクヘア、ダビング材、ファインワイヤー、ハックル

タイングスレッド&ボビン(画面中央下)

針に様々なマテリアルを巻き止めるために必要なタイングスレッド。スレッドに適度なテンションをかけてホールドしておく重要なツールがタイングボビンです。フライパターンや部位に応じて3/0という太いスレッドから24/0という極細のスレッドを使い分けるだけでなく、作業の効率化のためにボビンも様々なものを選んで使います。

針へマテリアルを巻き止めるのに必要なツールなので、ここを妥協してしまうと上達のスピードも落ちれば、快適さや仕上がりの綺麗さが変わってきます。細めのスレッドと太めのスレッドを使い分けることが多いので初めは18/0の強いスレッド(GSPスレッドがおすすめ)と6/0〜8/0の2つを持っておくことがオススメです。

また滑り止めのためのワックスもあると少ない手数でフライを仕上げられるので必須となります

フィニッシュした部分が解けにくく固めるために、ヘッドセメントという専用の接着剤を最後に塗ったり、UVライトで固まるUVレジンで固めることもあります。

選ぶポイント

  • 巻いている途中で切れてしまわないスレッドを選んで使うこと
  • 先端がセラミック加工されているものは、全てのスレッドが使えるだけでなくワイヤーにも使える
  • Tiemcoセラミックボビンはロングセラーのベーシックでで大きさも種類があって使いやすくオススメ
  • 慣れてきたらスレッドにテンションがかけられるボビンを使うのも上達の秘訣

タイングツール(画面右)

スレッドやマテリアルを切るための専用ハサミから、フライを最後にアイでしっかりとフィニッシュするために必要なハーフヒッチャーやウィップフィニッシャー。鳥の羽根を巻き止めるのに便利なハックルプライヤーや、獣毛の毛先を揃えるだけのためにつかわれるヘアスタッカーまで、タイング作業を効率良く進めるためのツールが揃っています。

選ぶポイント

  • シザースはマテリアルを切るための大きめの刃のものと、スレッドや細かい場所を切るための小さい刃のものと最低でも2種類あると良い
  • ボドキンとハーフヒッチャーが一緒になっているTiemco ダビングニードルが転がりづらく使いやすい
  • ハックルプライヤーとハーフヒッチャーが一緒になっている Tiemco スピニングハックルプライヤーが持ち手が長くて使いやすく便利
  • ウィップフィニッシャーはどこのメーカーでも機能が一緒なので好きなものを選んでOK
  • ヘアスタッカーもどこのメーカーも機能が一緒なので好きなものを選んでOK

まとめと続き

みんなと同じフライを使うと魚に警戒されてしまったり、飽きられてしまうことも多いので、フライフィッシングへ入門してからしばらく経ってからフライタイングも始めることで、フライの機能を理解することで、もっと釣れるフライ、魚の目先を変えることができるフライを用意することができます。

フライタイングの場合、ある程度の技術は独学でも身につきますので本やビデオでも学べますが、実際の手の動きが見えたり、わからないことを質問できた方が上達が速いので、できればフライショップで教わったり、先輩を見つけることをおすすめします。目には見えない「テンション」「マテリアルの位置調整」「質感」などはきちんと理解している人から学ばないと見た目だけ良くてもマテリアルが抜けてしまったり、編集の都合で細かいところは教えてくれなかったりするので注意が必要です。

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