フライフィッシングについて – 入門のススメ
狙った魚の餌に似せた「フライ=毛鉤(けばり)」を用意して、専用のロッド(竿)の反発力を利用して重みのあるフライライン(飛ばし糸)そのものをキャストして、狙った場所へフライを落とし、「プレゼンテーション」と呼ばれるフライ操作で狙った魚と知恵比べをしながら「フィッシング=釣り」をする – それがフライフィッシングと呼ばれる釣りです。
漁の歴史と一緒に発展してきた疑似餌の一種「毛鉤」を使う伝統的な釣り方であるとともに、ゴルフと同じく人気の野外レクリエーションとしてイギリスとアメリカを中心にアウトドア・スポーツとして完成されてきました。現在では魚が棲む豊かな大自然そのものを楽しむネイチャーツアーの一面もあり、アウトドア文化の中で発展してきたフライフィッシングと日本の渓流釣りの中で発展してきた「テンカラ」の2種類を中心に、世界中で楽しまれています。
フライ・・・見ているだけで楽しい、手作りできる擬似餌・ルアー
様々な魚たちを釣る為のフライは、小さなものは5mm未満の昆虫や甲殻類の幼生から、大きいものは20cmを超える魚を真似たものまで様々なサイズに作ることができます。魚の餌となる生物を「ハッチ」や「ベイト」と呼びますが、それぞれのフライにはハッチやベイトの「シルエット」、「生命感」、「浮き沈み」の3つの要素が表現されています。魚の食性に合わせて数あるフライから選んで用意するのが楽しみの一つとなっています。
フライの完成品はフライショップや釣具店フライコーナー、オンラインショップや管理釣り場で購入することもできますが、現場に合ったフライや特定の魚を狙う為のフライが販売されていないことも多いので、釣り人が自作することが多くなっています。フライを自作することを「フライタイング」または「フライドレッシング」と呼び、フライショップにはその為のツールや「マテリアル」と呼ばれる多様なフライフックや鳥の羽根など材料が売られています。足りないものはホームセンターから見つけたり、一から加工して作るベテランもいます。工芸品の域に達することもあるため、世界中でフライタイングのイベントが開催されています。一匹を釣るためにあれこれ考えたり、見ているだけで楽しい、それがフライの魅力です。
フィッシュ=対象魚とフィールドは無限大
私たちが住む日本列島の豊かな自然の中には約3,800種もの魚たちが住んでおり、北は北海道のイトウから南は沖縄のテッポウウオといった珍しい魚も狙う事ができる世界でも有数のフィッシング・フィールドとなっています。フライフィッシングの対象魚を具体的に並べていくと、手軽に狙える最もポピュラーな「管理釣り場のニジマス」をはじめとして、「里川のヤマメ・アマゴ」、「渓流のイワナ」、「本流のサクラマス」、「湖のブラウントラウト」、「海岸のアメマスやサケ」などの「トラウト」と呼ばれるサケ科の魚たちを中心に、「ブラックバス」や「スモールマウスバス」などの人気外来魚や街の近くの川に棲む「コイ」や「オイカワ・ウグイ」などのコイ科の魚たち、汽水や湾奥の「シーバス」や干潟の「クロダイ」、磯の「カンパチ」や「カサゴ」、海岸の「イナダ」や「ヒラメ」、サンゴ礁に棲む「ハタの仲間」や「ロウニンアジ」などなど・・様々な魚たちが岸からのフライフィッシングで狙う事ができます。さらに船を出せば、沿岸の「アジ」や「メバル」、沖合の「シイラ」や「カツオ」、「マグロ」なども加わります。
さらには日本に生息しない夢の対象魚を求めて海外まで遠征する釣り人たちや彼らの為の旅行代理店があるくらい。フライフィッシングが地球規模で人気の秘密は決して飽きさせることの無い対象魚の豊富さにあります。
フライタックル:シンプルで扱いやすい「腕の延長」
フライフィッシングが楽しいのは複雑な仕掛けを覚える必要がなく、フライと糸を結べばすぐに釣りができること。ルアーと違ってフックの部分がとてもシンプルなので扱いやすいのも特長です。
フライは非常に軽く作られているため、フライの重さを使って投げ飛ばすことができません。その代わり太く重みのあるフライラインを使い、専用ロッドの反発力を使って「U字」状態のフライラインのヘッド部を飛ばして狙った場所へフライを落として釣りをします。
着水時やフライを魚へアピールする時に太いフライラインが魚に怪しまれないよう、フライラインには長いリーダーを結び、さらにその先へ「ティペット」と呼ばれるハリスを結んでからフライを結びます。
フライフィッシングが持つ7つの楽しさ
たまに「フライフィッシングは難しい」と言われますが、決して一つ一つのことは難しくなくシンプルなことの組み合わせでマスターしていくようになっていて、その一つ一つが面白くできていて釣りとしての楽しさになっています。また、さまざまな道具やスキル、アクセサリーや各種サービスはこれを支えるように用意されています。
フライキャスティング・・・フライラインを狙った場所へ飛ばす
他の釣りで使うキャスティングはラインシステムの先端にぶら下がる重みのある仕掛けを放物線状に投げ飛ばしますが、フライフィッシングでは重みのついたフライラインをロッドの反発力を使って弾き飛ばすフライキャスティングを行います。ロッドハンドでロッドを操作しながら、ラインハンドではラインのテンションをしっかりと保ったり必要な長さの繰り出しを行います。
フライラインをキャストするには2つの方法があり、水面を利用して弓のようにロッドを曲げて弾力を作り出してから前方へシュートする「ウォーターボーン(水面)キャスト」と、後方の空中へへループを飛ばして頭上を通過して前方へシュートする「オーバーヘッド(頭上)キャスト」です。
ウォーターボーン(水面)キャスト
オーバーヘッドキャストよりもすぐに習得できて手返しもいいのが水面を使ったキャストです。水面へ降り出されたラインが水面へ張り付く力=「アンカー」を利用してロッドを曲げて反発力を作り出して、弓のように前方へループをシュートします。
コンパクトなキャストなので、自分の後ろに障害物があったり通行人が歩くようなスペースの余裕が無い場所でもキャストすることができます。
オーバーヘッドキャスト
水面を使わずに空中でフライラインを操作して行うキャストです。テンションがかかった状態のフライラインを後方へ加速して急停止、竿先から弾き飛ばすことでループを作り出したらば、
テンションを維持したまま、ループが後方へ伸びていくのを待ってから、今度はロッドの先端を前方へ加速してそのループを平行線上へ弾き飛ばしていきます。近く〜遠くを釣る目的に合わせて必要な長さのループを飛ばす必要がありますので、ループを前後に平行運動させながら必要な長さのフライラインを出していきます。
最後は狙った方向へ前方ループを飛ばしていきます。ドライフライを濡らさないようにしたり、水面へプレッシャーをかけないように釣りをしたい時には必須のキャストとなりますが、後方に安全かつ十分なスペースが必要となります。
ターンオーバー
ウォーターボーンキャストでもオーバーヘッドキャストでも、前方へ放たれたループが狙った場所へ近づいたらばフライラインへテンションをかけて、リーダーからフライの部分を展開=ターンオーバーさせて、フライだけを自然に落とすことで魚を驚かせずに次の釣りの行動に入ることができます。
フライをターンオーバーさせることが釣りとしては大事なので、まずそれができてから、少しずつ必要な飛距離を出したり、正確さを高めたりするためにキャスティングを練習します。
プレゼンテーション・・・魚を演技力で騙す
フライのターンオーバーが終わったら、「プレゼンテーション」と呼ばれる魚へフライをアピールして口を使わせるための行動へ入ります。ここからが本当の釣りとなり、魚の種類や行動に合わせて様々なプレゼンテーションがあります。
トラウトを水面へ誘い出して釣るためのプレゼンテーションが一般的ですが、物陰に隠れるバスを誘い出して水面で釣るためのシェード・プレゼンテーションや、底に置いたフライをアピールしてコイやクロダイへ口で拾わせるようなボトム・プレゼンテーション、高速で泳ぎながら小魚を捕食するシイラやカツオを騙すためのストリーマーを使った高速リトリーブなど、様々な技を駆使して狙った魚にフライを咥えさせます。
ストライク&フックセット・・・フックにひっかける
魚がフライを咥えることを「ストライク」と呼び、これが確認できたらばすかさず魚の口にフライの針を引っ掛けるための「フックセット」を行います。口以外の場所へ針がかかることを「ファールフック」といって釣果としてカウントしませんので、とても大事なステップとなります。
フライを咥えてすぐに反転する魚は自ら針がかりしてくれますが、そうではない魚の場合は釣り人が自ら針をセットしないとなりません。反転する魚の場合、ロッドを動かしてラインの緩みをとってフックセットすることを「ロッドセット」もしくは「トラウトセット」と呼びます。
それ以外の場合はあらかじめ竿先を水面へ近づけておいて(水中に突っ込んでおくことも)、フライから竿先までの緩みを少なくしてストライクを感知しやすくしておきます。ストライクを感じたら、ロッドを立てずラインハンドで緩み分だけ引っ張ってフックセットします(ラインセットと呼びます)。全ての魚が一回でフライをしっかりと咥えるわけでは無いので、何回かフックセットを試みたり、わざと少し間を置いて魚がフライを咥えたことを確認してからフックセットします。
ファイト&ランディング・・・魚をコントロールして取り込む
針がかりした魚は引っ張られる方向と逆方向へ逃げようとしたり、フックを口から外そうと口を大きく開けたりジャンプしたりして暴れます。これをロッドやリールを使って「ファイト」して制します。水面でジャンプを繰り返したり、底へ突っ込んだり岩などの障害物へ回り込もうとしたり、ただ逃げるだけの個体もいれば、積極的にラインを切ろうとする老獪な魚もいます。強い魚とのファイトの場合は、ロッドを使ってプレッシャーをかけたり、リールのドラグ機構を使って魚を疲れさせたりする必要があります。
最終的にファイトを制して魚を取り込むことを「ランディング」と呼びます。足場が良い場所でのランディングもあれば、足場が悪い場所でのランディングもあるので釣り人と魚の両方が安全にランディングできるように立ち回ることになります。
キャッチ&リリース・・・魚をチェックして解き放つ
魚のランディングが成功すれば「キャッチ」として認められます。魚を水から出す事は弱らせることになるので、必ずしもネットに入っている「ネットイン」の状態である必要はなく、リーダーが少しでもトップガイドより内側に入っている状態「リーダーイン」であればキャッチとなります。
IGFA(世界ゲームフィッシング協会)に2012年から認められました。これだけではボートで大物を釣った際に釣り人本人がサイズや重量を測れないので、ボートキャプテンや一緒に釣りをしている人間がリーダーを掴んでいることも認められています。
魚をキャッチしたら手短かに計測したり写真を撮ったり、魚が何を食べているのかなどの調査を済ましたらば、キープする必要が無ければ速やかに魚を水中へ戻し健康に泳ぎ出せるか確認しながら「リリース」します。魚を取り扱う時は魚体を傷つけないよう、シリコンラバーのネットを使うなど配慮して、絶対にアゴの機能やエラを傷つけないように注意を払います。この一連の行為を「キャッチ&リリース」と呼び、遊んでくれた魚や自然環境、自分以外の釣り人や野生動物のために魚を減らさないように扱うフライフィッシングのルールです。
リーディング&アプローチ・・・状況を読み解いて次の一手を組み立てる
初めは魚が用意されている管理釣り場だったり、誰かがガイドしながらスタートするため、このステップはあまり重要ではありませんが、管理されたフィールドでも実戦フィールドでも狙った魚を釣り続けるためには釣り場における魚の状況を読み解く「リーディング」と魚を驚かさないようにフライラインが届く距離まで近づく「アプローチ」が求められます。
リーディングでは、その時間、その場所、その状況で魚がどう行動するかを推理します。そしてどんなフライやプレゼンテーションをするべきなのか、さらにはそのためにはどこからアプローチしてキャストすれば良いのか判断します。また、魚の動きが目視できる状態でリーディングしながら釣りを行うことを「サイトフィッシング」と呼び、魚がいるであろうポイントを想定するリーディングして行う釣りを「ブラインドフィッシング」と呼びます。
アプローチにはいろいろな方法がありますが、陸から濡れずにアプローチすることを「オカッパリ」と呼び、専門のウェアを着用して水中へ立ち込んでアプローチすることを「ウェーディング」と呼びます。自らの体でアプローチするだけでなく、ボートやカヤックを利用してアプローチすることもあります。アプローチの時に魚を警戒させてしまうと不利な釣りとなってしまいますので、魚を驚かさないようにアプローチすることを「ストーキング」と呼びます。
あらかじめ見当をつけたポイントで魚を待ち伏せしてから、魚が好む餌が出現するのを待ったり、フライを変えながら推理して釣っていくリーディング&アプローチを「マッチザハッチ」と呼びます。マッチザハッチで使うフライを自分なりに組み立てていってどんどん上達していくのも、フライフィッシングの大きな楽しみの一つです。
逆に自分が決めたセッティングで反応する魚を探してどんどん先へ進んでいくことを「釣り上がり」や「ショットガン」と呼び、車やボートで移動しながらこれを行うことを「ランガン」と呼びます。
まとめと続き
フライフィッシングを紹介するために、ここまでざっと並べてきましたが、いかがだったでしょうか?開放的な空間や素晴らしい大自然の中で魚との知恵比べのためのステップを少しずつ繰り返していく中で毎回新しい発見が待っています。
レンタルできるタックルを置いている管理釣り場もあれば、スターターキットも売っています。筆者も90年代にフライフィッシングを始めた時は、ニューヨークの外れの古いタックルショップの壁にかかっていた古ぼけた$45のスターターキットで付属のVHSを見ながら投げ方を真似しながら、完成品フライを購入してバスやブルーギルを釣っていました。始めは簡単な釣りから始めて少しずつものを増やすのも楽しいものです。
何度も読み返しながら少しずつ覚えていくことが多いので、分かりやすくまとめられた入門書を1、2冊買っておくと早く学習・上達することができます。また、分からないことやつまづいてしまったときに相談できる仲間が必要になりますので最寄りの専門店「フライショップ」を見つけることも大切です。
オススメの入門書
まずは一冊手にとって、「こんな釣りなんだ」とイメージするのも大事。
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オススメのフライショップ
実際にフライフィッシングに行っているスタッフへ相談しながら道具選びができるだけでなく、スクールやガイドツアーの予約などもお願いできるフライショップ。本やネットだけからは得られない知識やスキルアップ、仲間づくりの拠点としてとても大事です。
当クラブのFacebookグループ(日本語・英語どちらもOK!)
ショップによっては遠かったりして通えなくても電話やEメールでの相談にも応じてくれる所もありますので諦めずに探してください。「そんなの無理!」とか「見つからない!」とお悩みの時は、こちらの東京フライフィッシング&カントリークラブのFacebookグループに参加していただければ、分からないことなども相談できますので、お気兼ねなくご参加ください。英語の練習にもなります!
基本的な用語集
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