ヤマメ | サクラマスの仲間たち

2017/12/5 ヤマメ | サクラマスの仲間たち

和名: ヤマメもしくはサクラマス
英名:Cherry Salmon
学名:Oncorhynchus masou (Brevoort, 1856)

日本のフライフィッシングにおいて、最も人気のある魚が、サクラマス種の魚だと言えます。渓流に残って暮らす陸封型のヤマメやアマゴをドライフライを繊細に駆使して釣り上げる楽しみもあれば、降海型や湖に住むサクラマスやサツキマス(ビワマスまたはそれらが交配した雑種)の回遊コースとタナを読んで、ドライフライやウェットフライで狙ったり、小魚を捕食している時は驚くほど大胆にストリーマーを追い回したり・・・同じ魚種で様々な狙い方ができる点、ゲーム性も非常に高いターゲットと言えます。

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1. サクラマスの生態

ニジマスと同じ先祖から枝分かれして、より南の環境へ適応してきたサクラマス。川の最上流で秋に産卵しますが、卵から孵った稚魚は1-2年ほど川で成長すると、海水が冷たい早春に海へ降ります。黒潮の影響を受けない海水温が低い地域では、餌が豊富な海域へ大回遊、そうでない地域では沿岸に止まったまま1年過ごして春に回帰します。川に残った魚は稚魚の時の斑紋(パーマークと呼ばれる)を残したまま成熟して「ヤマメ」となり、ヤマメ同士もしくは海から戻ってきたサクラマスと交配して次の世代を残します。

海へ出る前に生存に適した湖があったり、ダムなどの障害物や水温の高すぎる流域がある場合、海へ出ることなく成熟し、降湖型サクラマスとなったり、河川に居残る「戻りヤマメ」となります。

一つの河川の流域を幅広く利用して繁殖する種のため、北海道では河川における降海型サクラマスの採捕が全面禁止されており、本州では禁漁期間が設定されていますので注意が必要です。

2-A. ヤマメ – 陸封型サクラマス

虹色の側線、濃紺色の斑紋の上にルビーのようにきらめく側線が美しいため、「渓流の宝石」とも呼ばれるヤマメ。最大25-35cmほどに成長しますが、流れの速い川の水面を飛び交う昆虫を主に捕食していることや、鳥や陸上からのプレッシャーにさらされているため、遊泳力と動体視力が非常に発達しており、ドライフライが水面へ落ちる前に飛びついてきたり、林道から人が顔を出すだけで白泡や岩の下へ矢のような速さで隠れてしまったり、大胆さと臆病さを兼ね備えた魚です。魚を驚かさないアプローチと、フライが空中へあるタイミングから意識したフライ選択とプレゼンテーションが求められます。

2-B. 銀毛ヤマメ(シラメ、スモルト)

海へ下るためにヤマメの斑紋が消えて銀色の魚体になったが、何らかの理由で海へ出ず河川・汽水域に止まったため、サクラマスの特徴とヤマメの特徴の間の魚になっているものです。ヤマメよりは大きくなりますが、サクラマスよりは小さく、35-45cm程度が多いと言われています。

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河川に設置されたダムのため海へ下れず、水位が足りないために、上流へも進めない狭い水域が湖の役割を果たしたため、陸封されたまま成熟してしまった銀毛ヤマメ(北海道東部)。うっすらと斑紋が残りつつ、下腹と尾びれはサクラマスの特徴を見せている。

3. サクラマス

海へ出て成長したサクラマス。目の周り、口の中、ヒレの先が黒くなるのが特徴。

 

海へ出て回遊して成長する本来のサクラマスは、日本海側では福井県九頭竜川より北側、太平洋側では宮城県以北で見られます。関東地方の利根川水域などにも生息していますが、黒潮の影響を受ける地域では、適水温が残る河口周辺に留まることが多く、これらは「回遊するサクラマスのように50cmを超える魚になることは滅多にありません。また、湖に陸封されているサクラマスでも、50cmを超えるとサクラマスと呼ばれます。

海で成長するサクラマスは一般的に魚食性が強くなり、小魚の群れを捕食する割合が淡水にいる同サイズの魚と比べても多くなります。サクラマスに限らず動体視力と遊泳力が優れている魚全般に言えることですが、ストリーマーで狙う場合、泳ぎを止めると見切られるので、リトリーブし続けることが大事になります。より小さいベイトフィッシュや、遊泳するニンフ、甲殻類を捕食している個体を狙う場合、動きとサイズの両方をマッチさせる必要があります。

4. サクラマス種の魚たち

サクラマス種には3つの亜種がいます。

アマゴ/サツキマス: Red-spotted Masu-Salmon, Oncorhynchus masou ishikawae (Jordan and McGregor, 1925)

本州中部から近畿にかけての太平洋側及び四国、中国地方瀬戸内海川から九州北東部に生息するサクラマスの仲間。ヤマメ・サクラマスと同じ生態だが、独特なオレンジ色の点で判別がつく。ヤマメ・サクラマスと同じく、陸封型はアマゴ、降海型はサツキマスと呼ばれます。氷河期の日本海は湖となっており、この中へサクラマスが閉じ込められたことで、枝分かれしたサツキマスは太平洋側で進化を遂げたと言われています。関東地方のサクラマスと同じく、海へ降るサツキマスは河口から遠くない沿岸部沖合で生活してから、産卵のために生まれた川へ戻ってきます。このためサクラマスほどの大きさには成長しません。

陸封の代を重ねてきたアマゴはヤマメよりも警戒心が強く、敢えて例えるならば、イワナの性質にヤマメの性質の両方を備えた魚だと言えます。一度フライに出た魚は、針に触らずともしばらく出てきません。

氷河期の日本列島の様子 (東北大学 大学院 生命科学研究科より)

 

ビワマス(ホンマス): Oncorhynchus masou rhodurus (Jordan and McGregor, 1925)

中禅寺湖の「ホンマス」。ビワマスとサクラマスが交配した魚で、頭の形はビワマスに似るが、体からヒレはサクラマスに似ている。

 

サツキマスの中で淀川系統のものが琵琶湖に定着し、降海型ではなく降湖型として独自の進化を遂げた亜種。幼魚はアマゴと区別がつきませんが、サツキマスがスモルトになっても朱点が残るのに対し、ビワマスは残りません。琵琶湖では滴水温の深い水深を回遊しながらコアユやヨコエビを捕食する時のみ暖かい表層へ浮上すると言われています。河川へ遡上するビワマスや25cm以下、接岸する10-11月は採捕が禁止されているため、フライフィッシングでは通常、長野県木崎湖、栃木県中禅寺湖に移植されてサクラマスと交配した、それぞれキザキマス、ホンマスを狙います。

タイワンマス: Formosa Land-locked Salmon, Oncorhynchus masou formosaunus (Jordan and Oshima, 1919)

氷河期の頃は寒流が流れていた台湾まで南下していたサクラマスの祖先が、水温の上昇とともに、標高1,800mの山地へ閉じ込められて陸封された魚。台湾最大の川である大甲渓の最上流部、平均水温17度に保たれている、10kmも無い流域に、ほぼヤマメと言ってもいい生態で生息しています。

 

5. なぜ「マス」なのに海外では「サーモン」と呼ばれるのか?

海外ではサクラマスは「Cherry Salmon チェリーサーモン」と呼ばれます。科学的にマスとサケの区別は無く、日本の養魚産業と歴史が深いアメリカ・カナダ西海岸におけるトラウトとサーモンがどちらかというと淡水で生活する期間が長い魚をトラウト、すぐに海へ降る魚をサーモンと呼ぶ傾向があることを考えると、河川で2年以上過ごすサクラマスは「チェリートラウト」と呼ばれるべきかもしれません。なぜサーモンと呼ばれるかは、実はイギリスや北欧、北米東部のアトランティックサーモンが関係しています。

アトランティックサーモンはサクラマスと非常に良く似た生態を持っていて、陸封型、スモルト、降湖型、降海型と分かれて分布していますが、実はサクラマスよりも寿命が長く、淡水で過ごす期間も3-4年以上と、これまたサクラマスよりも遥かに「トラウト」のはずなのに「サーモン」と呼ばれています。ヨーロッパでは「サーモン」はアトランティックサーモン、「トラウト」はブラウントラウトを意味しますが、ブラウントラウトの降海型である魚はスモルトしても斑点が多く残っているため、わざわざ「シートラウト」と呼ばれています。この区分けは彼らが入植して建国されたアメリカへも引き継がれているので、スモルトしても「トラウト」の特徴を強く残す、ブルックトラウトやニジマスは「トラウト」、そうでないアトランティックサーモンは「サーモン」ですので、明らかに流通上の便宜で呼び分けただけと思われます。

スモルトすると斑点が消えるサクラマスは「チェリーサーモン」、残るサツキマスは「マスサーモン」と呼ばれることもあれば「マストラウト」と呼ばれることもあります。 http://www.atlanticsalmontrust.org/knowledge/salmon-and-sea-trout-recognition.html

 

参考文献:

  • 木曾克裕、2014、「二つの顔を持つ魚、サクラマス – 川に残る’山女魚’か海に降る’鱒’か。その謎にせまる」初版、成山堂書店
  • 坪井潤一、2014、「SALMON 情報 No. 8 2014 年 3 月」、増養殖研究所 内水面研究部
  • 藤岡康弘、1990、「ビワマス – 湖に生きるサケ -」、独立行政法人水産総合研究センター・さけますセンター
  • 小林美樹  矢部浩規  村上泰啓、2006、「亜熱帯地方における台湾大甲渓に生息する タイワンマス(Oncorhynchus masou formosanum)の現況について」、国立開発法人土木研究所・寒地土研究所
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